本年度での廃止が決まっている神奈川県立大野山乳牛育成牧場(山北町皆瀬川)で、受胎を含めた育成を請け負っていた最後の子牛2頭が30日、秦野市の飼い主の元へと送られ、同牧場を去っていった。牧場関係者は「施設が終了する重圧もあった。これまで受胎させ続けてきた『命のバトン』を、100パーセントの形でつなぐことができた」と胸をなで下ろした。
この日は迎えに来たトラックを嫌がるように、子牛たちは関係者に導かれながらおずおずと荷台へと移っていった。胎内には新たな命を宿しており、来春には母親になる予定だ。高尾健太郎牧場長(52)は「最後に残った2頭はペットみたいに愛情もあった。受胎できてよかったね」と温かいまなざしで見送った。
同牧場は足柄平野や相模湾を眼下に見下ろす大野山(723メートル)の山頂付近に1968年に完成、県内の酪農家から雌子牛を約1年半預かり、受胎させて下牧(げぼく)させてきた。
昨年3月に、県の緊急財政対策により廃止が決定。同年4月に受け入れた49頭のうち、最後まで残ったのが今回の2頭だった。飼い主は別々だったが、不妊で苦労した一頭がようやく受胎。先に受胎して安定していたもう一頭の下牧に合わせ、この日2頭そろって“卒業”を迎えた。
子牛の一部が受胎できなかった年もあったという高尾牧場長は「施設はことしでラスト。受胎しないまま下牧させたり、病気で死なせることは絶対嫌だった」。子牛たちとの惜別よりも、無事飼い主に送り出す「最後の使命感」の方が強く、いまは安堵(あんど)感でいっぱいという。
がらんとした牛舎を前に、高尾牧場長は「寂しさはこれから感じるのかもしれないですね」と、しみじみ振り返った。施設は今後、民間の活用を模索するという。