耳の聞こえない人(ろう者)と聞こえる人(聴者)が共同で舞台を創作する人形劇団「デフ・パペットシアター・ひとみ」(川崎市中原区)の公演「河(かわ)の童(わっぱ)」(演出・立山ひろみ)が28日、県民共済みらいホール(横浜市中区)で開かれる。河童(かっぱ)と人間のすれ違いや共存の姿を通じて、「共に生きる」ことの本質に迫る。県の共生共創事業の一環。
火野葦平(あしへい)「河童曼陀羅(かっぱまんだら)」が原作の人形劇。村外れの井戸に住む河童の周りには子どもたちの笑顔があふれていた。しかし、村に干ばつが続くと大人はそれを河童のせいにする。のんびりと平和に暮らしていた河童は人間の考えることが理解できず-。
異なる世界に生きる河童と人間の関係を描くことで、違いを認め合うことの意味を問い掛ける本作は2018年に初演を迎えた。創作の契機となったのは、相模原市緑区で障害者19人が殺害された津久井やまゆり園事件(16年)だった。
「ついに起こってしまった」。入団18年目の善岡修(44)は当時の心境をこう振り返る。自身はろう者。「障害者が邪魔扱いされる感覚はあったが、その命を奪うという一線を越える行為が現実となったことがショックだった」。「障害者の自分は殺される立場だった」。そう感じるメンバーもいたという。
「ひょっこりひょうたん島」でおなじみの人形劇団「ひとみ座」を母体として、1980年に結成したデフ・パペットシアター・ひとみは、40年近くにわたり障害の有無にかかわらず共に表現の在り方を模索してきた。「多様性と不寛容性が社会で増している今だからこそ、『共生』の意味を改めて考える作品を創ろうと思い至った」と、制作担当者は言う。
同劇団の特徴の一つは、障害や年代の違いに関係なく、幅広い層が楽しめる舞台空間を届けること。音声やせりふだけに頼らない、ろう者が参加しているからこその視覚的表現が強みだ。照明を駆使した臨場感あふれる演出や、ダイナミックな人形の動きが観客を引き込む。
本作で注目すべきは、存在感たっぷりの河童のキャラクター。実際に生きているかのような多彩な表情を浮かび上がらせつつ、役者が人形に息を吹き込む。
人形を遣う上で必要なのは人の感情や動き、しぐさをじっくり観察することだと善岡は言う。「人間のことを知らないと、役の感情を人形に託せられない」。稽古中は人形を手にしながら会話ができる聴者と異なり、ろう者は一度人形を置いて手話で思いを伝えなくてはならないといった困難もある。そうした違いも乗り越えながら共に作品を創っているのだという。
「記憶の片隅に残るような舞台にしたい。小さなことでもお客さんに何かを感じ取ってもらえたら、私たちにとっては大きな成果」と善岡。互いの感性を生かしながら手を携える姿が「ろう者と聴者が支え合うロールモデルになれば」と期待を寄せつつ、共に生きる社会の豊かさが伝わる作品を目指している。
午後1時半開場、同2時開演。一般3千円、3歳~高校生1500円。問い合わせはチケットかながわ☎(0570)015415