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神奈川近代文学館 樋口一葉展(上)明治の格差社会を描く

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2021年10月27日(水) 14:12

樋口一葉(1872~96年)

 樋口一葉は1872(明治5)年、「士族」の家に生まれた。しかし、もともと一葉の父・則義と母・たきは、山梨の中萩原村(現・甲州市塩山)の農家の出である。江戸に出てきた2人は、懸命に働いてお金をため、1867(慶応3)年、同心の株を買い、武士となった。わずか3カ月後に大政奉還を迎えるが、苦労して手に入れた家柄に対する一家の思い入れは、非常に強いものだった。

 一葉は14歳で中島歌子の歌塾・萩(はぎ)の舎(や)に入門。門下には鍋島侯爵夫人・栄子(ながこ)をはじめ上流階級の女性たちが多く、そのなかで一葉は身分的にも経済的にも恵まれなかったが、歌才を発揮し頭角を現していく。

 一葉が17歳の時、事業に失敗した父・則義が失意のうちに亡くなり、母と妹、女3人による困窮生活が始まった。着物の仕立てや洗い張りなどの内職仕事で生計を立てるなか、萩の舎の姉弟子・三宅(田辺)花圃が小説「藪(やぶ)の鶯(うぐいす)」を書いて多額の原稿料を得た前例から、一葉は小説でお金を稼ぐことを考える。小説家・樋口一葉の誕生である。

 しかし小説で家計を支えることは難しく、一時期一家は新吉原近くの下谷龍泉寺町で小さな荒物・駄菓子店を営む。一帯は遊郭に依拠した、下層階級の貧しい人々が暮らす町だった。その後転居した本郷丸山福山町は歓楽街のはずれにあり、近隣には私娼(ししょう)たちを置く銘酒屋があった。萩の舎の世界から一転して、底辺の生活を味わい、娼婦(しょうふ)らと交流した経験は、「たけくらべ」や「にごりえ」などの名作へと結実する。

 「十三夜」では、玉のこしの結婚生活に苦悩する主人公の前に、かつてひそかに惹(ひ)かれ合っていた幼なじみが人力車夫となって現れる。車夫は明治の下層社会を象徴する職業だった。実際に、母・たきが昔乳母として仕えた旗本のお嬢さまが、今や夫は車夫に身を落とし、極貧生活を送っているという身近な例もあった。

 生活苦のなか、わずか24歳6カ月という短い生涯を閉じた一葉。そのまなざしが描き出した明治の闇は、コロナ禍に苦しむ現代日本の格差社会にも重なる。

 特別展「樋口一葉展─わが詩は人のいのちとなりぬべき」は11月28日まで、神奈川近代文学館(横浜市中区)で開催中。観覧料は一般800円、65歳以上400円ほか。月曜休館。問い合わせは同館、電話045(622)6666。

 
 

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