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vol.258 ピコロコ

 早朝いつもより早く目が覚めた。枕元のラジオのスイッチを入れると、「ピコロコ」や「チロエ島」など聞き覚えのある単語が聞こえてきたので音量を上げる。海洋ジャーナリスト:永田雅一氏の「海外マイあさ便り」という番組だった。

 南米チリのプエルトモント(南緯41度28分。南緯46度~60度の亜南極圏から500~600km北の位置)170年ほど前に出来たドイツ移民による人口約26万人の街。真夏でも涼しく20を越えない。真冬でも最低3~4℃ほど。街の南東に、円錐形のオソルノ山(標高2660m)が山頂に白い雪をかぶり富士山に似ていて「チリ富士」とも言われている。

 

 この街は、沖合の島々から水産物が集積するところで、巨大なアンヘルモ市場で一番巾を利かせているのはサケだ。沖合にあるチロエ島に日本企業によるサケの養殖場があり、生産されたサケは大量に日本へ輸出されている。

 元々南半球にはサケ科の魚はいなかったが、1970年代にJICAはノルウエーからアトランティック・サーモンの卵を持ち込み、孵化した稚魚を川に放流したが、1匹も戻ってこなかった。何度も失敗を繰り返して20年ほどしてようやくサケの養殖が実現し、チリの一 大産業になっている。

 一番人気は何といっても「ピコロコ」。直径5cm、長さ10cm以上にもなる世界最大のフジツボである。茹でて食べるが、カニの白い身をもっと濃厚にした感じで、ガブリと頬張って食べる。店で買ったものを、レストランへ持ち込み料理してもらうが、ほとんどの人がピコロコをチョイスするという。

 もう一つは、セビーチェ(魚介類のマリネ)。生の魚介類、トマト、タマネギ、トウガラシやニンニクなどを混ぜてレモンや塩で味付けして食べる。

 以上のような内容が番組の概要だった。一番人気のピコロコを売っている市場がどんな市場か見たくて早速ネット空間をストリートビューでビューンと飛んで、と言っても「アンヘルモ市場」とパソコンのキーボードを叩くだけなのだが。リアルに行くならアトランタ経由で所要時間は30時間ほどだろうか。

 市場は巨大でサンフランシスコのフィッシャーマンズワーフのチリ版のようだ。市街地から運河沿いに南西へ2kmほどアンヘルモ通りを進むと「MERCADO ANGELMO」(アンヘルモ市場)と掲示された道幅いっぱいの門に出会う。門と言っても、道路の中央と両端に建つとんがり帽子様の高さ4~5mの櫓の間に屋根が渡してあるだけで、車はその下を通過し市場域内に入る。その色彩はベンガラ色で印象的だ。サケが売り物だからサーモンピンクというのかも知れない。高床式のような2階建てがカギの字に連なる市場の建物はこの色で統一されている。2階はすべてレストランなのだろうか、回廊に観客が見える。

 市場の魚介類、特にサケは吊り下げたり平置きしたり、日本のスーパーでもお馴染みの、開いた紅色の鮭が隙間なく並べられている。魚を捌いたアラを海に投げ捨てられるので、カモメやアシカの仲間のオタリアが寄ってきたり、漁港岸壁の砂浜で寝そべっている写真をみると、ラジオで言ってた干満差8mの実感が伝わってくる。ペンギンの寫眞も見られる。フンボルトペンギンはチロエ島にも生息しているがマゼランペンギンの生息域でもある。どちらだろうか。

 ところで一番人気のピコロコの売り場が見当たらない。市場内のあちこちのスーパーマーケットやレストランを見て回り、その食材の多さ、盛りだくさんのエスニック料理を見て回るだけでも堪能する。Mercado-Angelmo Local-28マークをクリックすると、カニや貝類などの近くの発砲スチロールのトロ箱にフジツボ発見、ピコロコに違いないと拡大、動画の▷をクリック、殻の上部から動く曼脚が見える。これを買いレストランに持って行けば料理してくれるということか。

 実はこのピコロコ、ここ海響館にも「いる」 否 「ある」と言った方よいかも知れない。所謂、擬ピコロコ、本物そっくりの人工物ピコロコである。水族館には、擬岩を始め、擬サンゴ、擬海藻と色々「擬」がつく展示物がたくさんある。擬ピコロコもその中の一つ。  ぺンギン村の亜南極水槽の1階付近の水面近くの岩影にひっそりと取り付けられているが、この真上の岩はペンギンの飛び込み台のようになっており、付近をペンギンが縦横に動きまわっているので気が付きにくい。

 いつの頃だったか一度だけ、その「擬ピコロコ」を来館者に話したことがあった。ただ、当時は、どうして亜南極にこんなフジツボが群生せずぽつんとあるのだろうと不思議に思っていたが、そんなに美味しいものとは露知らず、世界最大のフジツボと説明したと思われる。一度試食してみたいが、現地に行く以外は無理だろう。

代わりに、セビーチェ(魚介類のマリネ)なら、食材も白身の魚ほか野菜類は国内で揃うものばかり。チリワインも最近はスーパーに格安なものも出回っておりちょうど良い肴になりそうだ。

解説ボランティア:唐櫃 山人

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