ツユクサ
Commelina communis L.
ツユクサ科 単子葉 一年草
分布 北海道〜沖縄
高さ 20〜70cm
花の時期 7〜9月

2つ折れの平たい帽子のような苞という葉のなかに短い花序を入れ、なかから1本ずつ花の柄がのび出して来て、ひとつずつ青い花が咲く。だからツユクサはボウシバナともアオバナとも呼ばれる。苞には短い柄がついていて、茎の上部の葉に対生しているように見える。

ツユクサの花序も花の構成もなかなか複雑だ。苞を開いてみると、なかには基部からV字形に分かれた2本の柄がある。上側の柄は細くてふつうは花の痕跡をつけるだけ、下側の柄(花序の柄)はずっと太く、正常の花を1〜3個並べてつけ、下の花から柄をのばして順に咲く。1番目の花はたいてい両性花だが、2番目の花は雄花となるケースが多く、3番目の花は、あればいつでも雄花になる。同じ花序の花が翌日続けて咲くことはない。

がく片は膜のように薄く、3枚。花びらも3枚だが、上の2枚がうちわ形で青色、下の1枚は白色で幅はせまく、長さも半分ほど。雄しべは3本ずつ2輪に並ぶが、正常な雄しべは外輪の下側の2本だけ。外輪上側の1本と内輪上側の2本は、やくが変形して黄色いチョウ形の仮雄しべとなり、長さは正常な雄しべの3分の1ほど。残る内輪下側の1本は人の字形の仮雄しべで長さは正常な雄しべの半分ほどである。正常な雄しべはもちろん、人の字形の仮雄しべにも正常な花粉ができる。雌しべは1本、成熟すると2つに割れて、半だ円形で黒褐色の4個の種子が飛び出してくる。雄花には雌しべはあるが実らない。

日当たりのよしあしを問わず、土の固さを問わず、人家周辺や里山にはどこにでも生え、茎はよく枝分かれして、下のほうでは地表をはい、節から根を下ろしてどんどんふえていく。火事のあとの林のなかにもいつの間にか生えてくるし、アスファルトの割れ目では、節から出た根が落ちつき場所もなくぶら下がっている光景もよく見られる。ぬいて土の上に放り出しておいても根を下ろす。日照りには葉を内側にたたんで水分の発散を防ぐ。こんなわけで、家のまわりや田園地帯では少し歩けばすぐに見つけることができる。ただし、花を見たいときには、花探しの散歩は午前中に限る。

ツユクサはその花の命の短さが朝露にたとえられた。

  「つき草に衣は摺らむ朝露に
   ぬれて後には移ろひぬとも」

これは『万葉集』によまれたツユクサの歌のひとつ。古名はツキクサ(着き草)といい、花の汁を衣につけて染めていた。しかし、色ははかなく、水で洗えばすぐ落ちる――そんな性質がこの歌からもうかがえる。この性質を利用して、ツユクサの花のしぼり汁を和紙にしみこませてつくるのが青花紙である。ぬらした筆で青花紙から青色をしみ出させて布に図柄を描く。友禅染の下絵がきにはあつらえ向きで、ツユクサなしには友禅染めは生まれなかったはずだ。じっさいに用いられるのはツユクサのなかで、花の直径が4cmにもなる園芸変種のオオボウシバナで、現在は滋賀県の草津市で栽培されている。

ツユクサの青い色素の正体をめぐってかつて世界的な論争があった。その論争に終止符を打ったのは日本の花色の研究陣で、1957年、ツユクサの花びらから青い色素がはじめて結晶としてとり出された。その物質はアントシアニンの一種で、ツユクサの学名「コンメリナ」にあやかって「コンメリニン」と名づけられた。

ツユクサにはオオボウシバナのほか、白花の咲くシロバナツユクサ、花びらのふちが白くなったメガネツユクサ、葉に縦の白いしまもようのあるギンスジツユクサなど、いくつかの園芸品種があって、庭に植えられる。中国では葉と茎が解熱、解毒、利尿など薬用にも使われる。ツユクサの苞にも葉裏にも毛はまったくないが、苞に長い毛があるものはケツユクサ、葉裏に毛の多いものはオニツユクサの名がついている。ツユクサと一緒に生えているので手にしたツユクサが何かを確かめるとよい。花の色は同じだが、青い花びらが3枚あって、花序の苞をもたないイボクサも、人里近くの湿地や水辺に見られる。