明るく楽しく生ききる

 自分らしい生き方について考えるきっかけにしてもらおうと、協賛社を対象にした講演会を開催した。講師は弁護士で元フジテレビアナウンサー菊間千乃さん。「自分の人生を生ききる」と題して、自分を知り目標に向けて前向きに生きる大切さを説いた。

 

自分軸で考える

 人生100年時代について考えたい。女性の平均寿命は近いうちに90代に達するだろう。2007年生まれの子どもの平均寿命は107歳と推測する調査もある。定年退職後も長い人生が続いていく。そう考えた時、実際の寿命と健康寿命がほぼ一緒であることが望ましい。老後を余生と考えず、先を見据えて目標を持つ姿勢が大事。私は死ぬ瞬間まで前のめりに走り続けたいし、笑顔で健康でいたい。
 自分の人生を生ききるには、今の自分の状態を知る必要がある。幸福感や楽しい気持ちが少ないと、周囲への思いやりも減ってしまう。自分を大切にすることは他人を大切にすることでもある。日本はいまだに自己犠牲や我慢を美徳とする感覚があるが、それが強くなるほど相手にも求めるようになる。新型コロナウイルスの感染対策が良い例で、消毒の徹底や外出自粛など相手に同じ厳しさを求めた結果、互いに足を引っ張り合うような構図になる。そんな状況になってしまうよりは我慢せず、互いに許し合えるほうが前向きになれるのではないか。
 これまでになかった新たな価値観として、国民の幸福度を示す「GDW(国内総充実、Gross Domestic Well-being)」がある。一人一人の自主性を尊重し、幸福度を上げていくことがGDP(国内総生産)の向上にもつながっていくという考えだ。指標に沿って、多くの企業が従業員に対してアンケート調査をするようになった。幸福度の物差しは主観。自分は仕事や家庭、世の中のために何をしたいのか、自問自答するきっかけになる。「自分軸」で物事を考えてみてはどうか。

スライドを用いた菊間さんの講演に多くの参加者が耳を傾けた=1月26日、上毛新聞社=上毛ホール

選択し人生面白く

 自分の状態を知る手立てとして、自分の感情を顧みてほしい。どんな時に喜怒哀楽の感情が湧くかを書き出して、「なぜこんなにうれしいのか」「なぜこの人のことが嫌いなのか」など感情の理由を探っていく。すると感情の基準や個性が見えてくる。その基準に矛盾して生きているとしたら、つらいと思う。人生はつまらないと思っている人は、自分でつまらなくしている。面白くするには自分を知り、解決策を見つけることだ。
 自分に合った選択をすることも大事。何かを始めようとする時、同調圧力や過去の統計、他人の評価を気にする人が多い。「DXが進んでいるからデジタルに関するリスキリング(学び直し)をしよう」といった世の中の流れで未来を選ぶのではなく、やりたいこと、楽しいと思えることを追求するといい。業種に関係なく、何をどうしたいか、能動的に発信・行動できる人は輝いていくし、充実した人生を歩んでいける。
 私は子どもの頃から目的意識がはっきりしていた。小学3年で早稲田大入学を志し、6年でフジテレビのアナウンサーになる夢を持った。同社の内定をもらった時は、アナウンサーを10年続けたら弁護士になると決めた。ただ、夢を全て実現できたから幸せなのではない。プライドややりがいを持って仕事しているか。他人の評価は関係ない。自分軸をしっかりと持ち、楽しいと思えているからこそ幸せを感じられる。
 「ギブ&テイク」という言葉があるが、仕事においては「ギブ&ギブ&ギブ&ギブ」だと思っている。見返りは求めず、徹底的に与える。すると自然と「テイク」が来る。何倍にもなって返ってくることもある。それに、人のために何かをするのは気持ちがいい。自分ばかり損していると思わず、余裕があれば「ギブ」し続けることを勧めたい。

 

ゴールを明確に

 自分を知り、目標が明確になったら、10年後のなりたい自分を具体的に想像してほしい。そこから徐々に引き戻し、5年後、来年、来月までに何ができていたらいいか、人生設計を考える。ゴールが明確であるほど頑張れる。
 私の場合、弁護士を志したのには理由がある。当時、女性アナウンサーは結婚・出産やある程度の年齢に達するとテレビに出演するのが難しかった。そこでアナウンサー寿命を延ばすため、他の人にはない〝武器〟を身に付けようと考え、弁護士を目指すことにした。人生設計では28歳くらいで結婚、育休中に司法試験に合格して復職という流れだった。
 だが実際は違った。入社4年目の時、生放送中にビルから落ちる事故に遭った。上半身の骨が13本も折れてしまい、普通に運動できるようになるまでに2年もかかった。とても結婚・出産どころではなかった。だが復職後にオリンピックの取材を担当し、競技の一瞬のために4年間、多くを犠牲にして臨む選手らに感銘を受けた。私も拍手を送る側ではなく、選手と同じ勢いで生きたいと思った。そこで司法試験を思い出し、32歳でロースクールに入るに至った。
 描いた人生通りに歩める人はほとんどいない。けがや病気、親の介護や家族の転勤など、思い通りにならないことばかりだ。そんな中でも目標を諦めず、「いつかの自分のため」と思い続けてほしい。そうすれば自然とその方面の本を読んだり、講演会に行ったりして知見が増えていく。友人・知人に話すことで情報を得ることもできる。すると何かのタイミングで、ぱっと方向転換できるかもしれない。
 大きな壁にぶつかるとつらい気持ちになるが、どうせ乗り越えなければいけないなら、明るく楽しく乗り越えたほうがいい。「笑う門には福来る」ということわざがあるように、つらい時こそ上を向いて笑顔でいよう。失敗は誰にでもある。だが落ち込む時期を経て次のジャンプにつながる。「今日より明日」の前向きな気持ちで、明るい未来を自らの手で築いてほしい。

2023年3月8日 上毛新聞