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 印刷 2023年01月06日デイリー版4面

年頭所感】日本舶用工業会会長・木下茂樹、革新技術とSC最適化を

木下茂樹氏
木下茂樹氏

 昨年を振り返ると、4月23日に北海道知床で26人の方が犠牲となる遊覧船の沈没事故が発生いたしました。今回の事故に遭遇された皆さまとそのご家族に哀悼の意を表するとともに、二度とこのような痛ましい事故が起きないよう海に関わる者として引き続き安全の確保に取り組んでまいります。

 次に、業界を取り巻く環境について見てみると、ロシアのウクライナ侵攻とサプライチェーン(SC)の混乱、長引く新型コロナウイルスの影響、世界的なインフレの進行と金融引き締めなどにより、世界の経済活動は当初予想より大幅に鈍化しました。

 海事産業については、国際海運がコンテナ輸送を中心としてその好調さが注目され、わが国造船業はばら積み船を中心とした受注増加などによる手持ち工事量の回復の一方で、鋼材価格の高騰などという問題が生じており、当業界では、材料価格の高騰や半導体など部品調達難という問題に直面しております。

 世界的に関心の高い環境問題に関しては、2020年のSOⅹ(硫黄酸化物)規制強化などに続いて、CO2(二酸化炭素)排出削減対策についてIMO(国際海事機関)で野心的な目標設定とその導入手法の検討が精力的に行われており、これらの動きと連動して船舶燃料の大転換が起こり始めております。

 現在、自動車運搬船などLNG(液化天然ガス)燃料船の導入が加速していますが、今後、ゼロエミッション燃料である水素やアンモニアへの移行が見込まれ、国内では、グリーンイノベーション基金による次世代船舶の開発プロジェクトの推進など政府による取り組みも強化され、24年あるいは26年には実証船が竣工する予定になっています。

 さらに、自動運航船についても、昨年、日本財団の「MEGURI2040」プロジェクトで五つのコンソーシアムによる実証実験が成功するなど技術開発が急ピッチで進んでおります。11月にインドネシアの舶用工業セミナーでご紹介しましたところ、非常に関心を示されていました。島の多い地域では安全運航の面で活躍するものと思います。このような状況を踏まえ、当業界では、ゼロエミッション船や自動運航船などに関する革新的な技術開発を推し進めるとともに、SCの最適化を図りながら、欧州や中国・韓国などの海外勢に対抗できる競争力を維持・強化していく必要があります。

 このため、当工業会では、「日舶工アクションプラン」に基づき、グローバル展開の推進、海洋開発など新分野の市場開拓、人材対策・養成対策の推進、技術開発の活性化、わが国海事クラスターとの連携強化などを事業の柱として各種事業を実施・展開してまいります。

 海洋開発など新分野の市場開拓については、日本製舶用機器のパッケージで構成するオフショア支援船(OSV)の基本設計図面の活用などによるプロモーション活動を推進し、洋上風力発電については、昨年立ち上げた「Windfarm Vessel WG」の活動などを通して関係者との交流・連携を図ります。

 さらに、海外漁船市場については、市場動向などの把握などとともに参入拡大を目指し、注目されつつある防衛装備品の輸出については、関係省庁・団体と連携しながら取り組みを進めてまいります。

 技術開発の活性化については、ユーザーニーズに対応した新製品の技術開発の推進に加え、IMOで策定される安全・環境規制への対応や、異業種との連携強化などの取り組みを進めてまいります。

 特に、GHG(温室効果ガス)対策については、「国際海運50年カーボンニュートラル」を目指して、エンジンだけでなく船内プラント全体の開発に向けた取り組みを推進し、また、自動運航船については、自動化・省力化機器の開発、機器などの状態監視や予防保全に関する検討を進め、その早期実現に貢献してまいります。

 さらに、技術開発力の基盤強化に向けて、業界内あるいは異業種などの技術者との交流を促進し、将来を担う発想力の優れた若手技術者の育成のため、次世代海洋エンジニア会を実施いたします。

 わが国海事クラスターとの連携強化については、ユーザーなど関係業界との懇談会を開催し、意見・情報交換などを通じてその強化を図ってまいります。また、昨年12月に国土交通省により造舶両業界間含めた船舶産業の取引に関して「船舶産業取引適正化ガイドライン」が策定されたところであり、引き続きSCの最適化に向けて取り組んでまいります。