合格率3%…狭き門へのピリピリ感 女子ゴルフ最終プロテストの明暗

2023年11月27日08時20分

 国内の女子プロゴルフツアーは今季、3月の第1週から11月26日終了のJLPGAツアー選手権リコー杯まで38試合が開催された。試合がなかった週は7月の1度だけ。9カ月間、ほぼ毎週大会があり、トッププロは年間1億円~2億円超もの賞金を獲得した。その中には20歳前後の若い世代も目立つ。
 華やな世界だが、もちろん競争は激しい。ツアーで戦うためにはプロテスト合格が第1関門となる。今年は7~8月に5地区で行われた1次予選、9~10月の3地区での2次予選を経て、10月31日から4日間の最終プロテスト(岡山・JFE瀬戸内海GC=パー72)に合格したのが21人。予選免除者を含む受験者総数は698人で、合格率3%の狭き門だ。最終プロテストの会場で、くっきりとした明暗を見た。(時事通信社 小松泰樹)

 最終プロテストには101人が出場した。72ホールのストロークプレーで争われ、合格ラインは上位20位タイ。第3ラウンドで最下位までの20人がカットされ、最終ラウンドに進んだのは81人だった。今回から、コース内の2カ所とクラブハウスにあるキャディーマスター室の近くに、リアルタイムで順位とスコアが表示されるモニターが用意された。選手たちは、ラウンド中または18ホールを終えた後にモニターを見れば、自分の位置が分かる。同時に、おおよその合格ラインも把握できる。最終ラウンドを終えた時点でラインからかなり離れていたら、諦めるしかない。

無念の日本女子アマ覇者―飯島

 最終組などの数組がコース内にいる頃、パッティング練習場で一人、黙々とボールを転がす選手がいた。高校3年生の18歳、飯島早織だ。今年6月の日本女子アマチュア選手権を制した資格で2次予選までを免除された。昨夏に全米女子アマ選手権で優勝して注目度が高まった同学年の馬場咲希は、日本女子アマでは6位。飯島としては自信を胸に、満を持して最終プロテストに臨んだはずだ。

 初日に74位と大きく出遅れてしまい、2日目は53位。3日目に69を出し、通算2アンダーの33位まで盛り返した。最終ラウンドに向け、「緊張しながら、どう楽しめるか。自分の中では、三つ(3アンダー=69)を出したい」。迎えた最終日は74と振るわず、48位に終わった。最終的な合格ラインは通算5アンダー。前日もくろんだ69であれば、滑り込んでいた。

 決して背伸びでない目標。しかし、「パットが入らなくて…。悔しい」と涙。「どうしてなのか、入る気配がなかった。ラインをしっかりと読んだつもりでも、間違っていたのか、緊張で読めなくなっていたのか、だんだん分からなくなって」。自分に言い聞かせるように、こう続けた。「2日目から気持ちを上げられたことを今後に生かしたい。一度落ちたからといって諦めず、もう一年、前を向いて頑張る」。程なく、キャディーバックからパターとボール数個を取り出して練習グリーンへ。胸中、どんな思いが交錯していたのか。

六車、重かった一打一打

 これまでツアーに何度も出ている六車日那乃は35位。初日は69で11位と順調な出足だったが、その後は74、72、最終日も71と伸ばし切れなかった。「悪いプレーではなかったし、チャンスはたくさんあったのに…。パットを決め切れなかった」。3度目の最終プロテスト挑戦となった21歳は、涙が止まらない。「一打一打が重かった。この一打に懸かっているというところが、精神的に。でも、それは皆同じなのだし」。緊張や重圧との闘いをにじませていた。

 2022年の日本女子アマ選手権で優勝した寺岡沙弥香は、同年の最終プロテストも今回も、合格ラインに1打届かなかった。六車と同じ21歳は、涙に暮れた。日本ゴルフ協会のナショナルチームメンバーとして国際大会を経験してきた手塚彩馨と荒木優奈も、厳しい現実に直面。ともに18歳の高校3年生は、ナショナルメンバーの資格で2次予選までを免除されて最終テストに挑んだが、本来の力を発揮できず、2人とも第3ラウンド82位で最終ラウンドに進めなかった。

馬場は危なげなく一発合格

 馬場は世界アマランキング10位以内(7月28日時点)の資格によって、飯島らと同じアドバンテージで最終テストから登場。直近の同ランキングで3位につけている18歳は「子どもの頃から海外で活躍したいという夢がある」と語り、昨年来、全米女子オープンなど海外メジャーの大舞台も踏んでいる。この最終プロテストに先立ち、10月に米ツアーの来季出場権を争う2次予選会を突破。11月30日からはその最終予選会(米アラバマ州)に臨む。

 高校2年生だった昨年、全米女子オープン日本地区最終予選会でプレーオフの末に出場権をつかみ取り、6月の本番でも決勝ラウンド進出と健闘。8月には全米女子アマ制覇の快挙を成し遂げた。ここぞの勝負どころ、正念場で地力を示してきただけに、今回の最終テストでも69、71、66、70と安定。危なげなく、通算12アンダーの2位タイで一発合格を決めた。

 2位に5打差をつけて堂々のトップ合格を果たしたのは、高校3年生の清本美波だ。アマで顕著な実績はなくても、けれん味のないゴルフと、最終日の5連続バーディーなどゾーンに入ったかのようなプレーは、プロのツアーを勝ち抜くのに必須の勝負強さをうかがわせた。「これで満足することなく、もっと進化したい」と地に足がついている。最終ラウンドは馬場らと同じ最終組。上位にいる安心感からか、ラウンド中の合間に馬場と談笑するシーンもあった。

黄金世代、6度目の正直

 その最終組を回り、4位で合格した高木優奈は25歳。1998年度に生まれた「黄金世代」の一人で、ツアーでのトップ10入りも何度かあるが、最終プロテスト挑戦はこれが6度目だ。「きつかった。この位置にいて落ちたら一生受からないな、と」。今回から導入されたリアルタイムの順位が分かるモニターも、逆に目を向けにくかったようだ。「馬場さんと清本さんは『ガン見』(凝視)していました。でも私は…。6回目(の挑戦)と1回目は違うんだなと思った」

 合格ラインぎりぎりの19位タイに入った3人のうち、神谷和奏(わかな)は22歳の母でもある。記念撮影では、長女で2歳の咲凜(えみり)ちゃんを抱いた一こまも。「娘が待っていてくれる、というのを励みにした。家族を持ってゴルフをすることで、誰かに勇気を与えられるような選手になりたい」と誓った。

声を掛けられず、拍手もできず

 主催者推薦枠やシード選手らを除き、国内ツアー大会に安定的に出場するためにはクオリファイング・トーナメント(QT)のファイナルステージで可能な限り上位に入る必要がある。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は、2019年度からQTへの出場資格をJLPGA会員のみにすると変更。会員とは最終プロテスト合格者。そのためプロテストに合格、すなわち会員になることに、よりフォーカスされるようになった。

 リアルタイムスコアのモニター設置に伴い、ホールバイホールをスマートフォンで伝える役割のボランティアが各組について回った。当然ながらゴルフに明るいことなどが条件だ。その一人、岡山市に住む藤谷泰博さん(72)は、ピリピリとした空気を肌で感じたという。「皆さん、きれいなショットを打つし、実力差はそれほどないと思います。なのに、合格はたったの20人ほど。プロの世界のすごさが分かる。どの選手も、若くても、人生を懸けている。声も掛けられませんし、ナイスバーディーに拍手もできません」。最終日に受け持った組(4人)は合否のボーダーライン付近。1人が合格し、1打足りなかった選手ら3人が涙をのんだ。

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