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原沢久喜、苦境克服の経験も力に 柔道男子最重量級、大願成就目指す

五輪延期は「成長につながる」

 柔道男子100キロ超級の原沢久喜(28)=百五銀行=が、新型コロナウイルスの影響で来夏に延期となった東京五輪に向けて意気込みを語った。2016年リオデジャネイロ五輪では、この階級で王者に君臨するテディ・リネール(フランス)に屈して銀メダル。一歩届かなかった頂に、再び挑む。過去に苦境を克服した経験も糧に、コロナ禍で鍛錬を積む。心技体の強さを増した姿で、金メダルをつかみにいこうとしている。(時事通信運動部 岩尾哲大)

◇ ◇ ◇

 五輪の延期が決まったのは3月下旬。原沢は「ふっと力が抜けた」と率直に感じたという。同時に、「ポジティブに言うと、1年、しっかり準備する期間ができたなという捉え方もあった」と振り返った。

 リオ五輪の後、翌年から3年連続で夏場の世界選手権に出場。いずれも代表決定は4月下旬だった。数カ月の準備期間では「詰め込んでやることが多かった」と感じることもあったという。東京五輪代表決定は今年2月下旬(延期に伴う権利の維持は5月に決定)だったが、「もっと時間があれば、こういうことができるな、こういう準備ができるなと思っていた部分もあった」。延期が決まり「1年あるということで、いろいろ挑戦ができるし、もっと成長できる」と、自分自身への期待が膨らんだ。

 しかし、コロナ禍では柔道界全体が難しい調整を強いられている。柔道は相手との接触が前提となる競技。全日本柔道連盟は、政府が4月上旬に緊急事態宣言を発令したのを受け、大学生や社会人にも集団での稽古の自粛を要請した。宣言解除に伴い、6月からの再開を認める指針を発表。7月下旬に出された改訂版では、所属チームや施設、地域での感染状況に留意しつつ、徐々に実戦に近い稽古ができることになったが、段階を進めるには依然として慎重な対応が必要になる。

オーバートレーニング症候群を克服

 原沢には、過去にも柔道ができない時期を乗り越えた経験があった。17年の世界選手権。前年リオ五輪の銀メダリストとして臨みながら、初戦の2回戦でよもやの敗退を喫した。それまでの代表選考会でも本来の姿ではなく、世界選手権前も疲れが取れにくくなっているとも感じていたという。大会後には「歩いたり階段を上がったりすると、動悸(どうき)がしてくる」と異常を感じ、秋にオーバートレーニング症候群と診断された。

 体調の回復に努め、本格的な稽古を再開したのは18年の年明け。春には当時の所属先を退社する決断をし、全日本選手権で2度目の優勝を果たして復活を印象づけた。その年の世界選手権は銅、19年は銀メダル。両大会とも五輪2連覇中のリネールが不在だったとはいえ、着実に頂点に近づいてきた。

 今回の柔道ができない期間の発生は感染症の懸念が理由だから、17年当時と要因は違う。だが、オーバートレーニング症候群を克服した経験は生きているようだ。「ただがむしゃらに練習を積み重ねることだけではなくて、練習ができないとしても、試合の展開や、身に付けたい技術を考えることができる。それはオーバートレーニング症候群になっていた時期にも考えていたこと」

 その上で、こう言う。「できない時期があることで、柔道に対する意欲もさらに強くなってくる。必ずしもマイナスの面ばかりではない」。柔道ができなくてもトレーニングは怠らず、リネールや昨年の世界選手権覇者、ルカシュ・クルパレク(チェコ)ら強豪の映像も見て研究してきた。新たな攻めのパターンに関するイメージも膨らんでおり、一層レベルアップした姿で1年後に挑める自信が湧いている。

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