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10代前半フィギュア女子、過熱するジャンプ

跳べなくなったら…

 フィギュアスケートでは今季、女子で10代前半の若い世代が難度の高いジャンプを跳んでかき回している。伝統国であるロシア、米国の国内選手権でいずれもシニアの選手が優勝できなかった。昨年12月のロシア選手権では、ともにジュニアで14歳のアンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トルソワが4回転ルッツを決めて小差のワン・ツー。今年1月の全米選手権では、まだ13歳でノービスのアリサ・リュウがトリプルアクセル(3回転半)を計3度決めて制した。

 ロシアでは平昌五輪金メダルのアリーナ・ザギトワが調子を落とし、銀メダルのエフゲニア・メドベージェワも今季不振。米国はシニアの層が近年やや薄い。それぞれに背景はあるにせよ、国内最高峰の選手権大会でのねじれ現象が続けて起きた。ロシアでは選手権で3位に入った15歳のアリョーナ・コストルナヤも含め、メダリストがいずれも国際スケート連盟(ISU)が定める年齢制限のため世界選手権に出られない。米国のリュウは世界ジュニア選手権にすら出場できない。

 これまでほとんどの女子が跳べなかった基礎点の高い4回転や3回転半を決めて、表現力の差を埋めて余りあるスコアを稼いでいる。技術と芸術で総合的に争う競技だけにルールと現実のバランスが難しいが、ISUで技術委員を務める岡部由起子さんは「ある程度の年齢になると演技に個性が出てくるし、美しい表現も見たい。年齢が来てジャンプが跳べなくなったら終わり、というスポーツにはなりたくないという思いがISUにはある」と語った。(時事通信運動部・和田隆文)

◇ ◇ ◇

 女子でトリプルアクセルは伊藤みどりが1989年世界選手権で初めて決めて以来、成功した選手はまだ数えるほど。4回転は2002年ジュニア・グランプリ(GP)ファイナルで当時14歳の安藤美姫がサルコーで史上初めて成功してから、次にトルソワがまだ13歳だった18年世界ジュニア選手権でトーループを、14歳になって迎えた同年のジュニアGPシリーズ・アルメニア大会でルッツを初めて決めるまで約16年もかかった。ここにきて年少期の女子による高難度ジャンプへの取り組みが一気に広がってきたのは、ルッツ―ループを筆頭に難しい種類の連続3回転を多くの女子が跳ぶようになり、そこでは勝負が付きにくくなったという側面もある。

 女子にはいつの時代も成長期という壁がある。フィギュアスケートの選手はスポーツをしていて食事もある程度抑えるため、平均的な一般の女性より遅いという専門家の見方もあり、ジュニアからシニアに上がれる15歳くらいとされる。シェルバコワやトルソワ、リュウは年齢的にまだ成長期の少し前。岡部さんは「軽くて跳べていたところから、少しふくよかになるとバランスが悪くなって跳べなくなるケースが多く、メンタル的にも変わっていく時期をこれから迎える。若いうちに跳べるようにしておいて、その感覚を身に付けておくというやり方なのかもしれない」と言う。

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