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小野武彦「もう辞めようと…」、俳優生活の危機を救ったオファーは? 81歳の名脇役が映画初主演

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「演劇は生でやらないといけないので、体調管理に気を付けざるを得ない。そのことが結果的に健康につながっているのかも」と言う小野武彦=東京

「演劇は生でやらないといけないので、体調管理に気を付けざるを得ない。そのことが結果的に健康につながっているのかも」と言う小野武彦=東京

  • 実力派キャストが織り成す人間模様が魅力の「シェアの法則」(C)2022ジャパンコンシェルジュ
  • 若い頃は大失敗も。「寝坊して大先輩を2時間も待たせたことがありました」と話す小野武彦=東京
  • ナチュラルな演技で作品を引っ張った小野武彦(C)2022ジャパンコンシェルジュ

 俳優生活は60年近くに及び、ドラマや映画などの出演作は数え切れないほどだ。積み上げてきた実績による自信なのだろうか、「シェアの法則」(久万真路監督、14日から全国で順次公開)で映画初主演を果たした小野武彦(81)に気負いは一切感じられない。「今回、たまたま主役というポジションだっただけ。『俺が主役!』なんて感じはなかった」と、さらりと話す。

 ◇役の変化を自然に表現

 同作では、事故に遭った妻の喜代子(宮崎美子)に代わり、シェアハウスの管理人をすることになった72歳の秀夫を演じた。社交的で世話好きの喜代子に比べて、一見、外面は良いものの元来は内向的で頑固な秀夫は、キャバクラ嬢の美穂(貫地谷しほり)をはじめとするアクの強い住人たちに振り回される。

 原作は、今作の出演者の一人でプロデューサーも務めた岩瀬顕子が執筆し、劇団青年座が上演した舞台劇。脚本を一読し、「世の中の変化に対応できない」という秀夫の性格設定に共感を覚えた。「(自分自身は)なるべくこだわりを捨てて、固定観念は持たないように心掛けているし、そうした変化も柔軟に受け入れないといけないことは重々承知している。でも、頭では分かっていても、長年生きてきて培ってきた価値観みたいなものは、なかなか転換できない。そういう部分は誰にでもあるのでは?」と小野は話す。

 演じるに当たっては、住人との触れ合いを通して生じる秀夫の変化を、自然に見せることに心を砕いた。劇中、自堕落な生活を送っているように見える美穂の隠された一面を秀夫が知る場面も、「脚本に書かれている内容は分かった上で、(そこで起こる出来事を)新鮮に受け止めるようにした」のだという。「それができたのは、貫地谷さんがものすごく生々しく表現してくださったからこそ。彼女のおかげで、そうした(自然な)返し方をすることができました」

 ◇裕次郎さんに憧れて

 現在の東京・狛江市で育ち、近くに映画の撮影所が多かったこともあって俳優に憧れた。一番のお気に入りは当時、日活の大スターだった故石原裕次郎さん。「中学生の頃、自転車に乗って撮影所に入られる裕次郎さんを金網越しに見たのだけど、格好良かった。それまでの俳優さんとはちょっと違う風が吹いている感じがしました」と振り返る。

 俳優座養成所で学んだ後に文学座に入団。舞台でキャリアを磨いた後、映像畑にも進出し、ユーモラスなキャラクターから鋭さのある悪役まで、多彩な役柄をこなす確かな演技力で実力派の地位を築いた。

 大ヒットシリーズ「踊る大捜査線」のコミカルな警察幹部、「科捜研の女」シリーズの主人公の父親など、当たり役は多いが、一時は仕事に恵まれず、俳優業からの引退を考えたこともあったという。

 「結婚して子供が生まれた頃で、30代前半でした。仕事がなくて『このままでは親としての責任が果たせない。もう辞めよう』と思いました」

 そんな折に舞い込んだのが、石原さんが社長を務めていた石原プロモーション制作の「大都会―闘いの日々―」への出演依頼だった。声を掛けてくれたのは、同作のメインライターで、NHK大河ドラマ「勝海舟」や「6羽のかもめ」で仕事を共にした脚本家の倉本聰さん。同作への出演をきっかけに仕事は軌道に乗り、「今でも倉本さんには足を向けて眠れません」と笑う。

 数多くの映像作品に出演してきたが、俳優としてのスタートを切った演劇作品への思いは強く、80歳を超えた今も舞台に立つ。「自分が充実した演技ができて、共演者と息が合って、なおかつお客さんにも伝わる。その“三点セット”がそろった時は、得も言われぬ面白さがあります」。大ベテランとなった今も、俳優業の魅力は尽きることがないようだ。(時事通信社・小菅昭彦)

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