米国経済、2023年に景気後退入りとの見方が大勢

2023年1月10日

筆者は、今夏に執筆した2022年7月25日付地域・分析レポートで、米国の景気は、消費や生産が高インフレと高金利にどこまで耐えられるかがポイントになると述べた。そのうち、高インフレと高金利は予想どおり継続。その中でも、消費は堅調に推移してきた。これまでのところ、米国経済は持ちこたえていると評価できるだろう。

他方、高インフレと高金利は2023年以降も続くとみられる。そうなると、今後は成長を下支えしてきた消費が弱含みに推移する可能性が出てくる。その結果として、景気後退局面を迎えるという見方が大勢を占めるようになってきた。

本稿では、米国経済の現況と今後の展望をあらためて概観する。なお、使用数値については、2022年12月16日執筆時点の公表値に基づく。

インフレと金融引き締めから成長ペースが鈍化

新型コロナウイルスの流行に伴って一時落ち込んだ景気も、2021年には堅調に回復した。しかし、2022年に入り消費の回復が腰折れし、住宅投資が低迷した。インフレが加速し、金融引き締めの影響が顕在化したことが原因だ。これにより、マイナス成長に転じてしまった。

直近の7~9月期では、実質GDP成長率が年率換算で前期比2.9%。3期ぶりにプラス成長した(図1参照)。このこと自体は朗報だ。しかし、GDPの約7割を占める消費が落ち込んでいる(前期比マイナス0.3ポイント)。同時に、輸入が縮小に転じた(マイナス7.3ポイント)。すなわち、当期の成長は外需に支えられた結果ということになる。輸入は外需(純輸出)の控除項目というだけでなく、その減少は国内消費の先行指標でもある。景気の下振れリスクがさらに高まってきたと考えられる。

図1:実質GDP成長率と寄与度分解(年率換算)
2021年までは堅調な景気回復が続いてきたが、2022年に入って経済成長のペースは鈍化している。直近7~9月期の実質GDP成長率は、年率換算で前期比2.9%増と3期ぶりのプラス成長だったが、控除項目である輸入が減少した。

注:季節調整値の前期比を年率換算した結果。
出所:米商務省

財に代わりサービスの消費が堅調、余剰貯蓄が支え

新型コロナウイルス禍に伴う行動制限が解除されたことにより、反動で2021年までに財の消費が大きく増加した。これが、消費の回復を牽引してきた。しかし、その回復ペースも、高インフレと高金利により2022年に入って大きく鈍化した。

代わって、サービスの消費回復が追いかけてきた(表参照)。これは、ペントアップ需要(注1)が下支えになった結果とみられる。それでも、財に比べて、サービスの消費回復はまだ遅れている。なおも、伸びる余地がありそうだ。

表:個人消費(季節調整値)の伸び率(前月比)の推移(△はマイナス値)
項目 2022年
3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月
個人消費 1.0 0.2 0.6 1.0 △0.1 0.3 0.3 0.3
階層レベル2の項目 1.8 △0.2 0.9 1.6 △0.4 △0.3 △0.1 0.3
階層レベル3の項目耐久財 △0.2 0.2 0.4 0.7 △0.2 0.5 0.4 △0.6
階層レベル3の項目非耐久財 2.9 △0.4 1.2 2.1 △0.6 △0.8 △0.4 0.8
階層レベル2の項目サービス 0.5 0.4 0.4 0.7 0.1 0.6 0.6 0.4

出所:米商務省

懸念されるのは、貯蓄の状況だ。

インフレ率は目下、賃金の上昇率以上に高い。その結果、実質所得の目減りによる購買力の低下が生じている。片や、新型コロナウイルス禍での消費抑制や政府からの現金給付によって、余剰貯蓄が積み上がっていた。それが消費の原資として、所得の実質減を補ってきた。

その余剰貯蓄は、ピーク時に約2兆3,000億ドルあった。それが、今夏の時点で約1兆7,000億ドルまで減少していると推定されている(図2参照)。このままの状況が続くと、余剰貯蓄は2023年のどこかで尽きる可能性がある。

2022年10月の貯蓄率は2.3%。統計をさかのぼることのできる1959年以降で、2番目の低水準だ。加えて、2022年第3四半期時点で、クレジットカードの負債が前年同期から15%増えている。これは過去20年超で最大の増加率という。換言すると、米国民は貯蓄を取り崩すばかりか、支払いを先延ばしにしている。貯蓄は今後も急激に減少していくだろう。

図2:余剰貯蓄(所得階層別)の推移
新型コロナウイルス禍での消費抑制や政府からの現金給付により積み上がった余剰貯蓄は、一時期2.3兆ドルあったが、上位所得階層を中心に取り崩しが進み、夏ごろには1.7兆ドル程度まで縮小している。

出所:米連邦準備制度理事会

建設業・製造業は業況悪化、サービス業は堅調

産業別の動きも、消費にほぼ連動している。製造業と小売業は、財の消費が減速したことを受け、ともに伸び悩んでいる。建設業も、住宅需要の後退により大きく減少している。

一方で、流通・物流業や飲食・宿泊・娯楽業など、サービス業は回復を続けている。特に飲食・宿泊・娯楽業は、新型コロナウイルス禍前の水準に戻っている(図3参照)。

図3:産業別実質GDPの動向
産業別の実質GDPについて、2021年までは製造業や建設業、小売業を中心に回復。2022年に入ってこれらが減速する一方、流通・物流業や飲食・宿泊・娯楽業などのサービス業は回復を続け、後者は新型コロナウイルス禍前の水準に戻っている。

出所:米商務省

図4:企業の景況感(景況感指数)
企業による今後の景気見通しを示す景況感指数ついて、製造業は11月に2年半ぶりに50を下回った一方、サービス業は11月に56.5と前月から約2ポイント上昇しており、引き続き景気拡張局面を維持している状態(景況感指数は50を上回ると景況拡張、下回ると景況減退を示す)

出所:全米供給管理協会(ISM)

物価高止まりが継続、サービス価格の動向が今後を左右か

2022年11月の消費者物価指数(CPI)上昇率は、7.1%(前年同月比年率換算。当セクションでの百分率は、いずれも同様)。依然として、高水準だ。

その一方で、40年以上ぶりに9%台を記録した6月(前年同月比9.1%、以下のかっこ内も同様)からは、5カ月連続で低下している。特にガソリン価格は、かなり戻した。6月に1ガロン(約3.8リットル)あたり5ドルを超える水準だったのが、12月時点で3.2ドル前後。約4割も安くなったかたちだ。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数も、10月に前月比0.6ポイント減(6.0%)だった。財については、新車・中古車や衣料品など、幅広く製品価格が下落した。財全体で直近のピークだったのが2022年2月で、12.3%だった。11月は3.7%なので、この間で上昇率は3分の1程度に落ち着いたことになる。

物価面でも対照的なのが、サービスだ。サービス価格は11月に6.8%を記録し、直近のピークを更新し続けている。中でも上昇が顕著なのが、住居費(7.1%)。住居費はCPI全体のうち約3割も占めるため、なおさら深刻だ。ただし、住居費に関しては、急激な金融引き締めの影響から、マンハッタンなど都市部で賃料が下落し始めたと言われる。このように賃料を引き下げる動きは、まだ米国全域に広がったとは言えない。賃料の更新を迎えていない住居もあるというのも、その理由の1つだろう。いずれ、2023年のどこかでは、住居費は低下に向かう(少なくとも上昇ペースが鈍化する)だろうと期待されている。もっとも、ほかのサービス価格については、見通しづらい。後述する通り、米国経済は労働者不足という構造的な問題を抱えている。潜在的に、賃金への上昇圧力が強いことになる。賃金上昇は、コスト転嫁というかたちで物価の押し上げ要因になる。これは、サービス分野で特に顕著だ。今後について価格の動きを見通しづらい背後には、このような事情がある。

労働不足という構造要因から、賃金上昇が継続

冒頭に挙げた、2022年7月の地域・分析レポート執筆時には、労働参加、特にアーリーリタイア(早期退職)層の戻りが遅いことを指摘した。この状況は、2022年12月時点でも、ほとんど改善していない。

確かに、25~54歳の労働参加率こそ、新型コロナウイルス禍前の水準に回復した。しかし、55歳以上の労働参加率は、ほぼ横ばいのままだ(図5参照)。移民の流入数も、長期トレンドを大きく下回っている。構造的に労働力不足が生じているのが実情だ(図6参照)。絶対数でみると、労働者は新型コロナウイルス禍前と比べ、約350万人少なくなっていると言われる。

図5:年齢別労働参加率の動向
米国の労働参加率について、25-54歳の労働参加率はコロナ前の水準83%程度をほぼ回復したが、55歳以上の労働参加率はコロナ禍以降、コロナ前より約2%低い38%強をほぼ横ばい。

出所:ピーターソン国際経済研究所

図6:外国生まれの人口(16~64歳)
移民についても、外国生まれ人口は2020年以降、新型コロナウイルス禍前の増加基調から大きく外れており、足元は3700万人程度で推移している。

出所:米労働省

結果として、2022年10月の求人/求職比率は約1.7件。2000年以降で最も多かった約2.2件からはやや鈍化したにせよ、依然として高い(図7参照)。このような労働市場により、賃金上昇率は5%程度と高止まりしている。このことが、高インフレの一因にもなっている。特に、娯楽・接客業、建設業、情報業などで逼迫がみられる(図8参照)。

図7:求人/求職比率
失業者1人につき何件の求人があるかを示す求人・求職比率は現在1.7件。ピーク時の2.2件からは低下しているが、コロナ前の1.2件程度から見れば高止まりしている。

出所:オックスフォード・エコノミクス/ヘイバー・アナリティクス

図8:業種別時給の伸びと水準(2022年11月)
労働需給のひっ迫から、平均時給も高止まりしており、11月は前年同月比5.1%増の32.82ドル。特にひっ迫が目立つのは娯楽・接客業、建設業、情報業などが挙げられる。

出所:米労働省

軟着陸しても、2023年は0.5%成長にとどまる

米国連邦準備制度理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)は2022年12月、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の現状の誘導目標をさらに引き上げた。具体的には、現行の3.75~4.0%を0.5ポイント引き上げ、4.25~4.5%にすると決定した。

FOMCはこれまで4会合連続で、0.75ポイントの引き上げを重ねてきた。0.75ポイントと言えば、通常の3倍に当たる引き上げ幅だ。これに対し、12月はその幅を縮小した。5カ月連続で鈍化したCPIの上昇率などを踏まえたとも言われている。

とはいえ、FF金利は過去1年間で4.25%も引き上げられたことになる。異例な状況に変わりはない。しかも、これで終わりではない。FOMCの各委員は、ターミナルレート(注3)が5%を超え、さらに0.75ポイント利上げされると見通している。また、2023年の実質GDP成長率は、0.5%と見通されている。米国の中立的な水準とされる1.8%を大きく下回る水準。これでも、FRBが描く軟着陸のシナリオ(注4)なのだ。

他方、市場は悲観的だ。民間調査会社ブルーチップの2022年12月調査からも、それが読み取れる。「主要な中央銀行は景気後退を招くことなく、インフレを抑制できると思うか」との問いに対しては、「いいえ」が77%に上った。すなわち、4分の3以上が、景気後退入りを見越しているということになる。さらに「いいえの場合、どのような景気後退を想定しているか」では、「穏やかな景気後退」が97%を占めた。

実際、景気後退の兆候は、長短金利の逆転(注5)というかたちで、金融市場に表れている。長期金利は、2022年夏ごろから短期金利よりも低くなっている。図9は、米10年債から米2年債を引いた金利差の推移を示したものだ。

図9:米10年債から米2年債を引いた金利差の推移
米10年国債と米2年国債の金利差は2022年に入って、後者が前者を上回る逆転現象が常態化している。この金利差の逆転現象は景気後退の前兆として知られ、過去これが発生した場合において、ほぼ全てで景気後退が約1年後に発生している。

出所:セントルイス連邦準備銀行

長期金利が短期金利よりも低いということは、上乗せされるプレミアム以上に、市場が先行きを悲観的に見ていることを意味する。過去の景気後退では、約1年前にほぼ必ず長短金利の逆転が発生した(注6)。今回の逆転は、マイナス幅が過去よりも大きく、しかも長期化している。そのため、景気後退が起きる蓋然(がいぜん)性は高まってきていると評価できよう。

まとめ

以上をまとめると、要点は以下4点となる。

  • 米国経済は、成長が鈍化傾向にある。それを下支えしているのが、サービス業での堅調な消費だ。その背景には、新型コロナウイルス禍下で積み上がった余剰貯蓄がある。しかし、賃金の上昇率を上回る高インフレにより、余剰貯蓄は減少。実際に枯渇すると、消費が減速する可能性がある。
  • インフレの主因は、エネルギーやモノからサービスにシフトしている。CPIが従来の2%程度に戻るまでには、相当の時間を要する見通し。2023年以降も高インフレが見通される中、消費がどこまで持ちこたえられるかが引き続き注目点。
  • 労働需給に、不透明感がある。まず、成長の鈍化により、労働需要は縮小してきている。片や、労働者不足という構造的な問題により、賃金は高止まり。賃金が短期間で低下する可能性は低いとみられる。特に、娯楽接客業、建設業、情報業などで逼迫が目立つ。
  • 当局はインフレの抑制を優先し、2023年も金融引き締めを継続する見込み。実質GDP成長率は0.5%と見通されている。一方、市場では、大半が穏やかな景気後退を想定している。

前回執筆時(2022年7月)に比べ、2023年の米国経済に対する悲観的な見方が強まっている。現時点では、2023年以降に景気後退入りする場合でも、リーマン・ショック時よりは、穏やかなものになるという見方が多い(なお、同ショックが起きた2009年の実質成長率は、マイナス2.6%だった)。ただし、FRBのパウエル議長は「景気後退が起こるのか、起こった場合にそれがどの程度になるかは誰にもわからない」と述べている。


注1:
景気後退期に購買行動を控えていた消費者の需要が、景気回復期に回復すること。
注2:
景況感指数は、50を上回ると景気の拡張、下回ると景気の減退を示す。
注3:
金融引き締めによる利上げの最終着地点のこと。
注4:
このシナリオによると、2025年ごろまでに、(1)インフレ率は2%まで低下する、(2)失業率は4%半ばまでにとどまる。その結果、景気後退には陥らないという。
注5:
長期金利が短期金利を下回る現象。
注6:
景気後退前に長短金利の逆転が発生なかった唯一の例が、新型コロナウイルス禍期だった。これは、景気後退の原因(感染まん延、行動制限)が突然発生したためと考えられる。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
宮野 慶太(みやの けいた)
2007年内閣府入府。GDP統計、経済財政に関する中長期試算の作成などに従事。中小企業庁や金融庁にも出向し、中小企業支援策や金融規制などの業務を担当。2020年10月からジェトロに出向し現職。