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2020.09.25

日本の特別天然記念物とは?意味や目的と指定されている動物、植物をご紹介

特別天然記念物とは、なにが特別なのでしょう?
日本の動物や植物を保護するための制度ですが、どんな基準で指定されるのでしょうか。

この記事では、天然記念物と特別天然記念物の違いや、指定の基準、指定されている動物や植物までご紹介します。

※この記事は2020年9月1日時点での情報です。休業日や営業時間など掲載情報は変更の可能性があります。日々状況が変化しておりますので、事前に各施設・店舗へ最新の情報をお問い合わせください。

記事配信:じゃらんニュース

天然記念物/特別天然記念物とは?

天然記念物

天然記念物とは、簡単に言うと動物、植物、地質鉱物の3種類で、日本において学術上の価値が高いものです。それらを含む、エリア全体が指定される場合もあります。

天然記念物は、「文化財保護法」という法律に基づいて指定されています。

つまり天然記念物とは、「文化財のひとつ」という考え方になっていて、絵画、音楽、建造物、古文書などと同列に扱われます。その中で、「天然(自然)のもの」とカテゴリー分けされている、ということですね。

特別天然記念物はさらに、天然記念物の中でも、世界的、または国家的に重要なものとなっています。

この「特別」を付けることは「二段階指定制度」と呼ばれています。大事なものの中でも、さらに選び抜いて大事…という考え方で、「特別」は例えば「史跡」や「名勝」などにも付きます。

2020年9月1日現在、天然記念物:1031件(国指定のもののみ。天然記念物はこれ以外に地方自治体指定のものもあります)特別天然記念物:75件となっています。

指定基準は?

指定は、専門家や実務関係者が集まって行う会議(文化審議会)によって行われます。

・日本特有の動物で著名なもの
・日本特有でなくても保存を必要とするもの
・名木、巨木、原木
・代表的原始林

など、31項目の中から「学術上貴重なもの」が選ばれます。

ちなみに、法律には「カワウソ」や「ライチョウ」「上高地」といった、個別の名前は書いてありません。一つ一つの指定は文部科学大臣の名前で行われ、官報で発表されます。

天然記念物

ところで、動物や植物なのになぜ「記念物」という呼び方なのでしょう?

西欧で天然記念物の考え方が生まれたのは19世紀。日本は明治維新を経て、西欧に多くの留学生を送り出し、当時最先端だった自然保護の考え方をリアルタイムで導入しました。

特にドイツ・ライプツィヒ大学で学んだ植物学者・理学博士の三好学(東京帝大教授)が、論文で天然記念物の思想を紹介しています。

もとになったドイツ語が「ナトゥーア・デンクマール(Naturdenkmal)」。英語で言えば「ナチュラル・モニュメント」。直訳すると「天然記念物」なのです。

ただし、オリジナルの概念では生息地や原野など「エリア、モノ」を指したようですが、植物学者の三好は日本固有の動植物など「種そのもの」まで対象を広げました。

彼の啓発のかいあって、日本は1919(大正8)年に「史蹟名勝天然紀念物保存法」を制定しています(当時の漢字は「紀念」です)。この法律は戦後、文化財保護法に引き継がれています。

お手本だったドイツは「ライヒ自然保護法」の制定が1935年。日本は16年も先んじました。日本の天然記念物保護の法整備は、世界的にもトップクラスで早かったといえるでしょう。

特別天然記念物の動物をご紹介

コウノトリ

コウノトリ

赤ちゃんを運んでくる鳥といわれるコウノトリ。河川、湿原、沼地などを好む肉食の水鳥で、生息域は、ロシア、日本、朝鮮半島、中国と、東アジアに限られています。

明治以降の乱獲や、開発による生息域の減少、農薬などの影響で急激に数を減らしました。1956(昭和31)年に特別天然記念物に指定されましたが、1971(昭和46)年に日本の野生個体は絶滅。

現在は計画的に繁殖させる試みが続いていますが、世界中でも野生の生息数は2000~4000羽とされています。

オオサンショウウオ

オオサンショウウオ

岐阜県以西の本州、四国、九州に生息する、大型の両生類です。全長は70cmほど。最大で1.5mほどにまで成長します。標高の高い渓流に棲み、小魚やサワガニなどを食べて生活しています。

オオサンショウウオ科の両生類は世界に3種類しかおらず、3千万年前の化石とほとんど姿が変わっていないのだとか。

開発などの影響で生息数が減少し、1952(昭和27)年に特別天然記念物に指定。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでも準絶滅危惧種に指定されています。

カモシカ

カモシカ

標高1500~2000mの険しい山岳地帯に好んで生息する日本固有の種で、「ニホンカモシカ」とも呼ばれます。シカと名前が付いていますが、どちらかというとヤギや牛に近い種類です。

一時は生息数が3000頭程度になり、絶滅が心配されましたが、保護のかいあって現在は生息数は増加傾向にあります。1955(昭和30)年に特別天然記念物に指定されています。

ライチョウ

ライチョウ

キジの仲間で寒冷な気候に適応した種。標高2000~3000mの高山帯を好み、特にハイマツ帯の岩場によく生息しています。

人間が高山へと足を踏み入れることによって、キツネやカラスなどライチョウの天敵も活動域を高山へ広げてしまい、世界的に生息数が減少しています。

1955(昭和30)年に特別天然記念物に指定。日本では現在、北アルプスや南アルプスのある新潟、長野、富山、岐阜、山梨、静岡の6県に約3000羽ほどが生息していると言われています。

トキ

トキ

学名「ニッポニア・ニッポン」と呼ばれる大型の鳥。かつては極東ロシアから日本、中国など、東アジアに広く分布していましたが、現在は日本、中国、韓国の3国を合わせても3500羽程度で、IUCNのレッドリストでも絶滅危惧種とされています。

日本では明治以降の乱獲などにより、大正時代には本土で絶滅。1932(昭和7)年に佐渡島で「再発見」され、1952(昭和27)年には特別天然記念物に指定されましたが、保護のかいなく1981(昭和56)年に野生種が絶滅。

現在は中国から贈呈されたトキの子孫が放鳥され、約400羽ほどに増えています。

イリオモテヤマネコ

イリオモテヤマネコ

沖縄県・西表島だけに生息する、日本固有のネコ科の種です。夜行性の大型の種で、体長は50~60cmほどになります。

発見されたのは1965(昭和40)年と比較的近年。1977(昭和52)年には特別天然記念物に指定されました。現在の推定生息数は130頭程度と、種を保てるギリギリの数です。

IUCNのレッドリストでは野生種の中で最も厳しい「深刻な危機」にランクされています。

アホウドリ

アホウドリ

夏はアリューシャン列島など北太平洋で過ごし、冬になると子育てのために日本の離島へ渡ってくる大型の渡り鳥です。日本ではかつて、伊豆諸島の鳥島(とりしま)と、尖閣諸島の北小島・南小島だけで繁殖が確認されていました。

人間をほとんどおそれることがないため捕獲しやすく、江戸時代中期に土佐沖で難破して12日後に鳥島に流れ着いた船乗りの野村長平が、アホウドリの肉と卵だけを食べて生き延び、12年後に故郷に戻ることができた記録が残っています。

明治時代に入ってから羽毛目的で乱獲され、一時は絶滅したと考えられていましたが、1951(昭和26)年に鳥島で「再発見」。1962(昭和37)年に特別天然記念物に指定されました。

保護活動によって現在は国内生息数が5000羽ほどになり、小笠原諸島などへも繁殖地を広げています。

タンチョウ

タンチョウ

日本では7種類のツルが見られますが、国内で繁殖するのはタンチョウ1種のみ。北海道東部の湿原や湖沼などに生息しています。

白い羽毛と、黒い風切り羽、頭頂部の赤が特徴で、一般にツルといえばこのタンチョウを指します。翼を広げると2m40cmにもなります。

江戸時代までは関東平野でも見られましたが、大正時代には絶滅したと考えられていました。1924(大正13)年に釧路湿原で「再発見」。1952(昭和27)年に特別天然記念物に指定されています。

現在では保護活動の成果もあり2000羽程度まで生息数が回復しています。

アマミノクロウサギ

アマミノクロウサギ

鹿児島県の奄美大島と徳之島にのみ生息する、日本の固有種です。ウサギの種類の中でも原始的な特徴を残しているといわれ、生きた化石とも呼ばれます。

大正時代には天然記念物に、1963(昭和38)年には特別天然記念物に指定されましたが、森林の開発や、ハブの天敵として人為的に移入されたマングースによる捕食などで生息数が減少し、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧種に認定されています。

現在はマングースの駆除なども進み、約2万~3万匹まで頭数を回復しています。

カワウソ

体長は60~80cmほど。日本では唯一の、水中生活に適応した哺乳類でした。

かつては全国に生息していましたが、保温性の高い毛皮が目的で乱獲され、本州・九州では1954(昭和29)年ごろまでに絶滅。

生き残っていた四国を対象に、1964(昭和39)年には天然記念物に、1965(昭和40)年には特別天然記念物に指定されましたが、1979(昭和54)年に高知県須崎市で目撃されたのを最後に、生息が確認されていません。

日本ではすでに絶滅したと考えられています。

特別天然記念物の植物をご紹介

阿寒湖のマリモ

阿寒湖のマリモ

淡水性の緑藻(りょくそう)です。ボールのように見えるのは太さ約0.1mm、長さ0.5~3.5cmほどの藻が集まった集合体なのだとか。水深2~3mまでの、光の届く浅い湖底に漂っています。

阿寒湖では最大で直径30cmのものが確認されていますが、直径6cmの大きさに成長するまでに150~200年もかかるのだとか。1952(昭和27)年に特別天然記念物に指定されています。

春日山原始林

春日山原始林

奈良市の東部に広がる約250haの原始林です。春日大社の神域として約1200年間も伐採が禁じられていたため、暖帯性の常緑広葉樹の原始性を保っています。また、世界遺産の一部分でもあります。

1955(昭和30)年に特別天然記念物に指定されています。森林内には直径1m以上、樹齢250~400年の「春日スギ」が点在しています。中には樹齢1000年以上のものも。

全長約9.4kmの春日山遊歩道があり、原始林を気軽に散策することができます。

屋久島スギ原始林

屋久島スギ原始林

鹿児島県・屋久島の中腹に広がる天然スギの原始林です。1954(昭和29)年に特別天然記念物に指定されています。

「月に35日雨が降る」とまでいわれるほど降雨量が多いため、屋久島のスギはたくさん樹液を分泌するのだとか。

また地面の栄養も少ないため、成長が遅く、密度が詰まります。そのため屋久島のスギは長寿で、樹齢1000年以上のものをヤクスギと呼んでいます。

屋久島は台風がよく通るため樹高20~30mで折れることが多く、そこから複数の枝を再生させることを繰り返して、強風にも耐えられる巨大なスギに成長します。

牛島のフジ

牛島のフジ

埼玉県春日部市にある、樹齢1200年といわれる藤の巨木です。「藤花園」の園内にあり、毎年4月下旬から5月上旬、美しい花を咲かせ、訪れる人たちの目を楽しませてくれます。

枝張り東西34m・南北17m。花房のもっとも長いものは2mにもなるとか。1955(昭和30)年に特別天然記念物に指定されています。

最寄り駅は東武野田線「藤の牛島駅」。この藤がいかに地域に愛されてきたかをこの駅名が物語っています。

日光杉並木街道 附 並木寄進碑

日光杉並木街道 附 並木寄進碑

日光杉並木街道 附(つけたり) 並木寄進碑は、日光東照宮へ向かう参詣道として江戸時代初期に整備された3本の街道です。「附」とは、一度指定された後、さらに周辺のものを追加して指定すること。

徳川家康から家光まで3代にわたって仕えた大名・松平正綱が約20年をかけて整備したもので、「日光街道」「例幣使街道」「会津西街道」の3街道計37kmにわたって、約12500本のスギの巨木が立ち並んでいます。

1952(昭和27)年に特別天然記念物に指定。世界で最も長い杉並木としてギネスブックにも掲載されているのだとか。

内海のヤッコソウ発生地

内海のヤッコソウ発生地

ヤッコソウとはシイノキの根に寄生する寄生植物です。形が大名行列の奴(やっこ)に似ているために、この名があります。葉緑素を持たないため色が白いのが特徴。九州・四国南端の海岸付近だけに見られ、絶滅が危惧されています。

宮崎県宮崎市内海の野島神社の裏山の群生地は、1952(昭和27)年に特別天然記念物に指定。1993(平成5)年の台風以降、発生がみられなくなり、現在も保護活動が続けられています。

コウシンソウ自生地

コウシンソウ自生地

コウシンソウは、日本固有の食虫植物です。天然記念物の思想を西欧から導入した三好学により、1890(明治23)年に栃木県の庚申山(こうしんざん)で発見されたため、この名前があります。

標高1200~2200mの崖で、しばしば霧が発生する寒冷多湿なところにのみ生息するという珍しい植物。葉や花茎の粘液で小さな虫を捕らえて栄養にしています。1952(昭和27)年に特別天然記念物に指定されています。

宝生院のシンパク

宝生院のシンパク

香川県・小豆島にある寺院「宝生院(ほうしょういん)」にある、シンパク(真柏)の大木です。樹齢1500年以上といわれています。

幹の周囲は16.6m、地上1mぐらいのところから三方に分かれて大きく枝を広げています。その広がりは東西南北に約25mずつという大きさ。1955(昭和30)年に特別天然記念物に指定されています。

野幌原始林

野幌原始林

野幌(のっぽろ)原始林は北海道北広島市にある、トドマツと落葉広葉樹の原始林です。石狩平野の太古の自然の姿を観察できる、貴重な森です。

もとは札幌市・江別市・北広島市にまたがる、300ha超の広大な原始林で、大正時代には天然記念物に、1952(昭和27)年には特別天然記念物に指定されています。

1954(昭和29)年の台風などで風倒被害が大きく、多くは整備された森林公園となりました。現在の指定は国有林約62haのみとなっています。

東根の大ケヤキ

東根の大ケヤキ

山形県東根市の東根小学校校庭にそびえる、ケヤキの大木です。樹齢1500年以上と推定されています。この場所は南北朝時代、この付近一帯を支配した小田島長義が東根城を築いた場所。大ケヤキは東根城内に植えられていたものと言われています。

高さ28m、根回り24m、幹の直径5mという堂々とした大木。今も樹勢は盛んです。1957(昭和32)年に特別天然記念物に指定されています。

【出典・参考】
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index

ミキティ山田  ミキティ山田

旬な話題を求めて、いろいろな場所を取材・撮影する調査員。分厚い牛乳瓶メガネに隠したキュートな眼差しでネタをゲッチュー。得意技は自転車をかついで階段を登ること。ただしメガネのせいでよく転びます。