富士通の野副元社長辞任問題にみるガバナンスの真髄:Weekly Memo(2/2 ページ)
富士通は先週、元社長の野副州旦氏が「虚偽の理由で辞任を迫られた」と主張している問題について会見し反論した。なぜ、こういう事態にならざるをえなかったのか。
経営首脳陣は腹を割って話したのか
さらに、辞任勧告および辞任に至る経緯については次のように説明している。
「当社の間塚会長、秋草取締役相談役、大浦溥取締役は協議の上、野副氏に辞任を勧告すべきとの結論に至り、社外取締役3名に対してその趣旨を伝えるとともに、もし野副氏が代表取締役の辞任に同意しなかった場合には、取締役会において代表取締役を解職することを説明し、これについて全員の同意を得た」
「当社の当時の取締役数は合計で10人。野副氏本人を除くと9人であったことから、解職に同意した取締役数は過半数となる。その上で昨年9月25日の定例取締役会直前の同日午前8時30分ころから、山室恵監査役が野副氏から事情聴取を行うとともに弁明の機会を与えた。その後、大浦取締役が野副氏に対して、辞任しない場合にはこの後の取締役会であなたの代表取締役の解職が最初の議題として決議されることになる、と述べて代表取締役および取締役の辞任を勧告した」
「これを受けて野副氏は、皆さん方のご決定であればそれをお受けするしかないと思いますし、会社のためだというのであれば、わたし自身の軽率な行為がそういうことで富士通を傷つけたということについては、責任を取るべきだと思います、と述べて辞任届に署名した」
「その後に開催された定例取締役会では、債権者の代表取締役辞任への了承が決議事項として付議されたが、出席取締役9人全員(辞任した野副氏を除く取締役のすべて)これに異議なく、同議案は承認可決されている」
こうした経緯の中で、間塚会長は会見での質疑応答において、「わたしと秋草取締役相談役、大浦取締役が協議の上、野副氏に辞任を勧告すべきとの結論に至った時点では、もはや野副氏との信頼関係は失われていた。いくら注意しても止められないと判断した」とも語り、「このような事態になるのならば、取締役会で野副氏を解職し、皆さんにきちんと説明するべきだった」と現在の心境を吐露した。
以上、富士通の会見での説明に基づいて野副氏の辞任の理由や辞任に至る経緯を見てきたが、野副氏側の主張とは食い違っている部分が多々あり、今後は訴訟合戦に突入する可能性が高い。
会見での間塚会長の発言で気になったのは「信頼関係」という言葉だ。これについては当初の段階での秋草取締役相談役から野副氏にかけられた忠告がどのようなものだったか、もともと経営首脳陣の間で信頼関係が損なわれていたのではないかと疑う記者からの質問が執拗(しつよう)に続いた。
そうした質疑応答を聞いているうちに、日本を代表するIT企業が、なぜ、こういう事態にならざるをえなかったのか、という思いが強くなった。経営首脳陣はどこまで本当に腹を割って話したのか。今回の一件について富士通は、FUJITSU Wayに則ってガバナンスを効かせることができたというかもしれない。しかし、とりわけ経営首脳陣の信頼関係は、ガバナンスの真髄なのではないか。
4月1日に誕生した山本正已社長率いる新経営体制では、ぜひ今回の一件を自らの教訓としてもらいたい。
プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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