営業を再開し、来店客を迎える八木さん=21日午前10時40分、珠洲市飯田町

 能登半島地震で店舗が全壊した珠洲市飯田町の老舗「いろは書店」が21日、仮店舗で営業を再開した。立地する飯田町商店街は大半の店舗が地震で店を閉じたままで、店主の八木久さんは(83)は「商店街に人の流れをつくり、にぎわいを取り戻す第一歩。前に進むだけです」と語った。

 書店は創業75年。一般書籍に加え小中高校の教科書を扱い「いろはさん」の愛称で親しまれている。午前9時ごろ、仮店舗のレジ前に立った八木さんは「本を届けるのが私たちの使命だったので、ようやく一段落つけた。生きている間に珠洲の復興を見届けられたら」と感慨深げに話した。

 地震で店舗の1階部分がつぶれ、約1万冊の本は下敷きのまま。長男淳成さん(50)と近くの空き店舗を借りて準備を進めてきた仮店舗には、倒壊した店舗から取り出した、100冊以上の絵本のほか、珠洲ゆかりの「スキップとローファー」などの漫画、「特別報道写真集 令和6年能登半島地震」(北國新聞社刊)なども並べられた。

 この日は新学期に向け高校の新入生らに教科書の販売を開始した。今後は雑誌や新書、文庫本も取りそろえ、4月にカフェも再開する予定だ。店舗を訪れた福田知子さん(79)は商店街で精肉店を営んできたが、地震で廃業を余儀なくされた。八木さんの妻留美子さん(79)の手を取り、「(営業再開は)立派です。おめでとう」と涙ぐんだ。

 淳成さんは「地震後、本屋だったことを忘れるくらい長く感じた。これまで以上に温かくお客さんを迎えたい」と話す。インターネットで寄付も呼びかけており、来年夏ごろまでの本格営業開始を目指している。

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