Column避難安全検証法使いこなし術

(16)避難時間判定法(ルートB1)検証の基本と注意すべきポイント

2024/01/01

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 避難安全検証法は、正しく適用すれば、様々なメリットを生かしつつ建物の安全性を確保できる優れた設計手法です。ところが、告示解釈の難しさや複雑な計算式に加え、確認申請の面倒さなどから「『どうしても』という時にだけ利用する特殊な設計方法」と捉えている方が多数であるように思われます。
 避難安全検証の基本的な構造は非常にシンプルです。正しく理解すれば応用も可能になり設計の幅が広がります。そこで今回は図1に示す簡単な計画で、階避難安全検証法(ルートB1)を解説します。改めて基本を理解し、日頃の設計に活用していただければと思います。
説明図面.jpg【図1】

安全性能の確認方法

 在館者が、検証対象階で発生した火災による煙やガスに曝されずに階出口(直通階段または地上)まで避難できることを、次の2段階で検証を行い確認します。
①居室検証:居室の在館者が自室火災による煙やガスに曝されずに室外に避難できることを確認します。
②階検証:火災の発見が遅れる出火室以外の在館者を含めて出火室から漏れ出た煙やガスに曝されずに階出口に避難できることを確認します。

①居室検証はどのように行うか

火災による煙やガスは高温のため上昇し天井付近に溜まります。その特性を利用し、煙やガスが人の身長程度まで及ぶ以前に、検証対象の居室及びその居室内居室の在館者が室外に避難できることを確認します。
告示では、在館者が室外に出るまでの時間を避難完了時間、煙やガスが日本人の平均身長+αとなる1.8m(限界煙層高さ)まで煙が降りてくるまでの時間を煙降下時間とし、避難完了時間が煙降下時間より短いことを確認することによって判定します。

避難完了時間について、実際の火災ではほぼ同時であろう避難行動を、検証では3段階に分けて数値化することによって高い安全性を確認します。まず、在館者全員が出口から最も遠い位置に居るものとし、避難を開始すべきか考えた後に出口に向かって避難を開始(避難開始時間)→在館者全員が出口に向かって移動し出口前に全員が揃う(歩行時間)→全員一斉に出口より退出(出口通過時間)。

それぞれ以下のように求め、合計したものを避難完了時間とします。
・避難開始時間
 出火から避難行動を開始するまでの時間です。出火室及び居室内居室の床面積の合計から求めます。
・歩行時間
 室出口から最も遠くにいる在館者が出口に達するまでの時間です。複数の出口がある場合、最も時間のかかる経路の時間を採用します。
・出口通過時間
 在館者全員が室出口の扉を通過する時間です。扉有効幅1m当たりの1分間の通過可能人数は実験データより90人とされていますので、有効流動係数(Neff)は最大の90人/分・mとなりますが、通過先で滞留する避難者の混雑度合いによって有効流動係数を減ずる計算式を用い出口通過時間を求めます。また火災の輻射熱の影響で通過できなくなることを考慮し、扉から1m離れたところでの出火を想定し避難に利用可能な有効出口幅(Beff)を算定します。

煙降下時間を求めます。
 床から1.8m以上の部分の体積を室面積、内装の種類、積載可燃物の発熱量(室用途)、天井高さ、床段差から求められる煙等発生量で除することによって求めます。実際の火災では煙発災量は出火から変化しますが、告示では計算を簡単にするために一定(定常火災)としています。

居室検証結果

図1の計画の居室計算結果を示します。

居室避難安全検証結果(単位:分)

室名称 避難開始時間 歩行時間 出口通過時間 避難完了時間 煙降下時間 判 定
事務室 0.3334 0.1729 0.0941 0.6004 0.6020 OK
休憩室 0.3334 0.2238 0.2092 0.7664 0.8648 OK
会議室 0.4083 0.2507 0.2451 0.9041 0.9760 OK
打合せ室 0.2357 0.1603 0.0817 0.4777 0.6148 OK


②階検証はどのように行うか

 居室検証では各居室の在館者が自室火災による煙に曝されることなく室外に避難できることを確認しましたが、階検証では、出火室はもちろん出火室以外の在館者も含め、居室外に避難した同一フロアの在館者全員が、避難経路上でフロア内の火災による煙やガスに曝されずに階出口に到達できることを確認します。
 例えば、図1の計画で出火室を事務室とすると、事務室の扉(D1)から漏れ出した煙やガスは廊下の天井から徐々に溜まっていきます。その際に、事務室と直接繋がっていない居室(会議室、打合せ室、休憩室)の在館者が火災を発見し遅れて廊下に逃げ出しても煙に曝されることなく屋外に避難できることを確認すればよいのです。
 告示では、フロアの在館者全員が直通階段または地上に避難するまでの時間を階避難完了時間、階出口が設置された室で煙高さが1.8m(限界煙層高さ)まで煙が降りてくるまでの時間を階煙降下時間とし、階避難完了時間が階煙降下時間より短いことを確認することによって判定します。

階避難完了時間は、居室計算と同様に以下の数値を合計することによって求めます。
・階避難開始時間
 出火から避難行動を開始するまでの時間です。火災情報伝達の遅れを考慮して階の床面積から求めた時間に階用途に応じて時間を加算します。また、検証を簡単にするために出火室、出火室以外に関わりなくフロアの在館者全員が同時に避難を開始するとします。
・階歩行時間
 階出口から最も遠くにいる在館者が階出口に達するまでの時間です。複数の出口がある場合、最も時間のかかる経路の時間を採用します。
・階出口通過時間
 フロアの在館者全員が階出口の扉を通過する時間です。居室計算と同様の考え方で計算します。避難階では屋外で避難者の滞留はないと考えられるので有効流動係数は最大90人/分・mとなります。非避難階の場合は階段内の混雑度合いによって有効流動係数を減ずる計算式を用い出口通過時間を求めます。また、火災室に設置される階出口のうち最大幅1つは火災により利用できないものと扱います。

階煙降下時間を求めます。
 出火室から煙が漏れ出すまでの時間、階出口が設置された室に通じる各室から煙が漏れ出すまでの時間(室煙降下時間)、階出口が設置された室において煙高さが1.8mに達するまでの時間を合計して最小のものを採用します。
 図1の計画で「打合せ室」を出火室とすると「打合せ室から会議室に漏れ出すまでの時間」「会議室から廊下に漏れ出すまでの時間」「廊下で煙高さが1.8mに達するまでの時間」を合計して求めます。
 同様の計算を全ての火災室で行い、最小値を採用します。

階検証結果

 図1の計画の階計算結果を示します。

階避難安全検証結果(単位:分)

避難開始時間 歩行時間 出口通過時間 避難完了時間 煙降下時間 判 定
3.7993 0.5822 0.3366 4.7181 0.4773 NG
出火室 煙降下時間計算
対象室
Ts.room Ts.route 煙降下時間 判 定
倉庫 廊下 0.2323 0.2450 0.4773 NG
事務室 廊下 0.4534 0.4782 0.9316 NG
休憩室 廊下 0.6513 0.6870 1.3383 NG
会議室 廊下 0.7351 0.7753 1.5104 NG
打合せ室 廊下 0.4631 1.9031 2.3662 NG


結果表のTs.roomは出火室から煙が室外に漏れ出すまでの時間、Ts.routeは、出火室から煙が漏れ出してから廊下で煙高さが1.8mになる迄の時間を示しています。
結果は、出火室から煙の伝播が在館者の避難完了よりも早く、廊下で煙に曝される危険性があることを示しています。出火室から廊下への煙伝播を遅らせる対策が必要です。

対策として以下の6案が考えられます。
(1)出火室の内装を不燃として煙発生量を抑える
(2)出火室の天井高を上げて蓄煙体積を増やす
(3)出火室に排煙設備を設置して廊下への煙伝播量を抑える
(4)廊下の天井高さを上げて蓄煙体積を増やす
(5)廊下に排煙設備を設置して煙を排出する
(6)出火室から廊下に通じる開口部を防火設備として煙伝播量を抑える

 これらのうち煙伝播量を抑え、廊下での煙降下時間の延長に効果的なのは(6)だけです。階避難完了時間と階煙降下時間の差は4.2408分もあり、(1)(5)の方法では全てを組み合わせてもあまり効果はありません。(詳細は添付データでご確認ください)
 対策案(6)を用いた結果を示します。

階避難安全検証結果(単位:分)

避難開始時間 歩行時間 出口通過時間 避難完了時間 煙降下時間 判 定
3.7993 0.5822 0.3366 4.7181 11.4030 OK
出火室 煙降下時間計算
対象室
Ts.room Ts.route 煙降下時間 判 定
倉庫 廊下 1.3584 10.0446 11.4030 OK
事務室 廊下 1.9513 17.5781 19.5294 OK
休憩室 廊下 2.2023 17.5781 19.7804 OK
会議室 廊下 0.4631 19.6621 20.1252 OK
打合せ室 廊下 0.6960 23.4375 24.1335 OK

 
火災室から廊下に通ずる扉を防火設備とすると煙の伝播量は少なくなり、廊下部分での煙降下時間が長くなることによって、安全な避難が可能となりました。

 以上が避難安全検証の基本です。至ってシンプルであることがご理解いただいたと思います。
 ここではあくまでも検証の基本的な考え方と流れを紹介する内容に留めています。計算の詳細等については拙書「避難安全検証法 実践マニュアル」をご参照ください。

 ここで、特にご注意いただきたい2点を取り上げます。

注意点1:居室内居室の捉え方

 居室内居室とは、検証対象の居室の在館者及びその居室を通らなければ避難できない居室で、親室(避難経路への出口を有する居室)の出火時に同時に避難開始できる居室を指します。
 ここで重要なのは同時に避難開始できること、すなわち、親室の火災情報が出火と同時に遅延なく伝達可能であることです。図1の計画では、打合せ室の在館者は会議室を通らなければ避難できません。この時に打合せ室に会議室と一体に利用される用途で日常的に人の行き来があり、D6扉にガラス窓等が設置され、会議室の火災情報が遅延なく伝わるのであれば、打合せ室は居室内居室と捉えることができます。
 ところが、告示の定義が「当該居室及び当該居室を通らなければ避難することができない建築物の部分」とされ、最も重要な親室の出火時に同時に避難開始できることは「2001年度版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説」においても説明されていません、そのため、単純に検証対象の居室を通らなければ避難できない居室とする例が後を絶ちません。
居室内居室.jpg【図2】

図2で、居室(1)で出火した場合、居室(3)の在館者は火災情報の伝達が遅れて逃げ遅れる危険性が高く、居室(3)を居室(1)の居室内居室と捉えるのは無理があります。このような計画に対し、避難時間判定法(ルートB1)では制限はありませんが、煙高さ判定法(ルートB2)では、通常の避難開始時間計算式に3分を加え情報伝達の遅れが考慮されています。

注意点2:火災室に階出口が設置されている場合

 図1の計画では、火災室に階出口が設置されていないので、告示通りの検証で正しい結果が導かれます。では、火災室に階出口が設置されている場合はどう扱えばいいか。これについては(11)階煙降下時間算定室【ルートB1に詳しく解説していますが、検証法の基本と照らし合わせると感覚的に理解しやすいと思います。図1の計画の各室に階出口が設置されている場合を想定して考えてみましょう。

・休憩室に地上に通ずる扉が設置されている場合
 告示に示された検証方法では、階出口が設置された休憩室は階煙降下時間計算対象室になります。では、休憩室で出火した場合の休憩室での煙降下時間(自室火災による煙降下時間)を階煙降下時間として算定する必要があるでしょうか。
 休憩室で出火した場合、自室火災による煙降下時間を階煙降下時間とし階避難完了時間と比較するというのがどういう状況かイメージしてみましょう。休憩室の在館者は地上に通ずる扉から外に避難します。その安全性は居室検証で確認します。その後、遅れて出火に気付いた他室の在館者が、漏煙している扉を開けて居室避難の完了した出火室に入り、その室内を通って避難しても煙に曝されないことを確認するということです。いくらパニック状態であったとしても、避難出口がある安全な廊下にいる避難者が、わざわざ出火室に飛び込んでその奥に設置された扉を探そうとするとはとても考えられません。また、室の奥に設置された階出口は建築基準法では主要な避難経路とは認められず、告示の上位に当たる施行令では階煙降下時間算定の対象外です。
よって、休憩室で出火した場合は、休憩室での煙降下時間を階煙降下時間として算定する必要はないと考えられます。

・倉庫に地上に通ずる扉が設置されている場合
 倉庫は非居室なので自室火災を階煙降下時間に含めるべきだという議論があるようですが、他室から見れば、前述の休憩室で出火した場合と同様であると考えられます。

・居室内居室がある会議室に地上に通ずる扉が設置されている場合
 打合せ室の在室者は、会議室を必ず通らなければ避難できないため、避難が遅れることが考えられます。そのため会議室で出火した場合の会議室での煙降下時間を階煙降下時間に含めるべきという議論があるようですが、居室内居室となる打合せ室を含め、会議室で出火した場合の避難の安全性については居室検証で確認済みです。

 自室火災での煙降下時間を階煙降下時間とする必要があるのは、居室内居室を除き、火災の発見が遅れ、出火室を通らなければ避難できなくなった在館者が存在する場合だけです。ただし、この場合、自室を除く出火室からの煙伝播による階煙降下時間は算定する必要があります。なぜなら、階出口が設置されていることを知る在館者は、廊下に避難者が溢れた際、その室に避難してくる可能性があるからです。

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