preview for 八木莉可子とディオール。悠久の地に舞う、美しき蝶の物語

純粋無垢な大和なでしこ。端正な顔立ちからそんなイメージを勝手に抱いていたが、俳優・八木莉可子はそれ以上にもっと熱い情念をもつエモーショナルな女性だった。

八木莉可子
KEIICHIRO NAKAJIMA
ボリューミーなプリーツスカートにマリアッチのチャロスーツを想起させる刺繍のベストを合わせ、フェミニニティとマスキュリニティが交錯。メキシコのサヴォアフェールを称えるモノクロのスタイリングが凛々しい。ブラウス ¥360,000、ベスト ¥1,050,000、スカート 参考商品、ベルト ¥270,000、ネックレス 上¥170,000、下¥340,000、シューズ ¥389,000 Dior

さる5月20日、メキシコシティで開催されたディオール2024年クルーズ コレクションのショー。憧れ続けたメゾンのショーに出席するという特別なオケージョンで、クリエイティブ ディレクターのマリア・グラツィア・キウリがフリーダ・カーロへオマージュを捧げた情熱的なコレクションが八木の心を大いに揺さぶった。目に涙を浮かべ、「すべての精巧さや美しさに圧倒されました……。それに、ただ美しいだけではなく、フリーダ・カーロの強さも感じられ、服のもつエネルギーを肌で感じる時間でした」と、感情がとめどなくあふれた八木は、いつも以上に輝いて見えた。

八木莉可子
KEIICHIRO NAKAJIMA
はじめての土地に足を踏み入れた八木莉可子は、役者として、ひとりの女性として、取り巻くすべてのものを吸収していた。バタフライをシンボリックに表した刺繍が白と赤のコントラストを生みだしたドレスは、スキンタイトなシルエットがインディペンデントな女性像を描き出す。ドレス ¥1,450,000 Dior

その一方で、八木自身も会場では注目を集めた。世界配信されたNetflixのドラマ『First Love 初恋』のヒットでリカコ・ヤギの名は今やユニバーサルに波及している。八木を見つけたモデルが大興奮で駆け寄る一幕もあり、「声をかけたいのはこっちなのに! と思いました」と、八木は恥ずかしそうに笑う。セルフィを撮ったり雑談したり、クリエイターらと親交を築く姿は、しとやかに羽を広げて宙を舞う蝶のよう。

八木莉可子
KEIICHIRO NAKAJIMA
楽園の地メキシコに咲く極彩色の花々を全身にまとい、悠久の歴史に思いをはせる。日常から解き放たれた優雅なバカンスには、ブラウスもパンツもリラックスした着こなしが似合う。バッグを抱いて街へ出れば、行きかう人々からの視線が彼女をさらに強くさせる。ブラウス ¥570,000、パンツ ¥500,000、バッグ 参考商品、リング ¥72,000 Dior

柔肌に大きな瞳をたたえ、芯の強さを感じさせる眉と唇。役者としてあらゆる女性像を見せるが、「物静かな印象を抱かれがちなので、話すと印象が違うと言われます(笑)。結構ポンコツで、気を抜くととぼけたことをしちゃうし、自分でもいやになるくらい方向音痴です」。この愛くるしいキャラクターが、彼女のもつナチュラルな美を強調させるのだろう。

八木莉可子
KEIICHIRO NAKAJIMA
ジェンダーの境界線を華麗に飛び越えたフリーダ・カーロにオマージュを捧げたスリーピースのスーツスタイル。シャープなテーラリングが光るクロップド丈のジャケットは着崩さずにあえてかっちり感を出して、ジェンダーフルイドな立ち姿に。「かくあるべき」から解放され、アイデンティティを自由に表した姿がまぶしい。ジャケット ¥570,000、ベスト ¥310,000、シャツ ¥220,000、パンツ ¥400,000(すべて参考価格)、ボウタイ ¥37,500、シューズ ¥198,000、リング ¥72,000 Dior

撮影では、風光明媚な街を舞台に、メキシコの女性たちが継承してきた技術とメゾンのエレガンスが結実したルックをエフォートレスに着こなした。喧騒の中にモードな世界を構築した八木の姿は自ずと多くのギャラリーを引きつけたが、本人は臆することなくカメラの前で新たな表情を見せていく。「ファッション撮影でも世界観を大事にした撮影が多いし、自分の中でイメージするものがあって、それを演じて表現するのは役者と共通する部分がある気がします」と八木は語る。

特に思い入れがあるのは、スリーピース・スーツ。マリア・グラツィア・キウリのフェミニズムへの意志を肌に感じ、「タキシードは男性のもの」という自分の固定観念が崩されたと教えてくれた。何事もカテゴライズしてしまうことが好きではないと、普段からジェンダーの意識にとらわれず、ユニセックスな服も着用しているだけに、女性らしさに頼らない見せ方が印象深い。

八木莉可子
KEIICHIRO NAKAJIMA
陽光に体をゆだねたミューズの肖像。純白のクロシェレースが素肌に優しい陰影を作り出し、自然な色香が生まれる。ウエストや指先に光るバタフライモチーフのシルバーアクセサリーが、ロマンティックなムードへと誘う。ブラウス ¥430,000、スカート ¥700,000、ベルト ¥270,000、リング ¥72,000 Dior

また、ルックに多用された蝶のモチーフにも独特の解釈を披露する。「ギリシャ神話や仏教の教えにも登場する蝶には、『再生』『変化』『永遠』といった意味もあるのです。『アモルとプシュケ』というギリシャ神話の寓話が好きで、一番好きな絵もフランソワ・ジェラールの『アモルとプシュケ』。その絵にも、蝶が描かれているのです」

八木莉可子
KEIICHIRO NAKAJIMA
プエブラの刺繍ドレスをモダンにアップデートした1着は、デコルテと肩のラインをしなやかに見せてくれる。肩や胸元にちりばめられたコーラルビーズの刺繍に生きた伝統の重みを感じつつ、胸元のネックレスからはバタフライが羽ばたく音が聞こえてきそう。 ドレス ¥1,650,000(参考価格)、ネックレス ¥150,000 Dior

芸術や文学、歴史など興味のあることを掘り下げる性格は、休みの日の過ごし方にも表れている。ドローイングや書道のほか、文章を書くことも得意だといい、その感性の豊かさに驚かされる。「毎日過ごしていると、感じることや考えることでいっぱいになっちゃうので、なにかでその思いを昇華してあげないと自分が飽和状態で、いても立ってもいられなくなるんです」

八木莉可子
KEIICHIRO NAKAJIMA
純粋無垢であると同時に、新たな未来を示す力強さもあわせもつ白は、特別な色だ。タイトな上半身から下半身にかけてシルエットの変化が光るドレスは、静謐なデザインに白のステートメントが宿る。構築的な陰影を描くプリーツを揺らしながら歩く姿に、メキシコのカンターレがこだまする。ドレス ¥1,450,000、リング ¥72,000 Dior

マリア・グラツィア・キウリもフリーダ・カーロも、文化芸術や職人技術の保護、女性へのエンパワーメントといった“使命”や“意志”に突き動かされた創作を世に輩出しているが、役者のもつ影響力についてはどう考えているのだろう。「プラスの影響を与える人になりたい、という気持ちはずっとあります。むしろ毎晩、それを自分の中でお祈りしてから寝ているのです(笑)」

八木莉可子
KEIICHIRO NAKAJIMA
ブラウスとベストがレイヤードされた深い黒の背景に、アクセサリーでドラマを投影。ベストにあしらわれたビーズの花々に引き寄せられたバタフライのネックレスは、ディオールのアーカイブに眠っていたスケッチをもとに、メキシコの銀細工職人が可憐なピースに仕上げたもの。 ブラウス ¥360,000、ベスト ¥1,050,000、ネックレス 上¥170,000、下¥340,000 Dior

出演する作品を通じてさまざまなメッセージを伝えることができるだけに、普段から社会問題にアンテナを張っているといい、一番関心があるのは人の幸福。「大学でも幸福度とメディアの関係性について考えていて、どうやったら人の幸福感にメディアがいい影響を与えられるかを模索しているところです。なにを伝えたいのか、まだ自分の中でも探しているところなのかもしれません」

八木莉可子
KEIICHIRO NAKAJIMA
クロスステッチで彩られたメキシコ伝統の“フイピル”をデニムのレイヤードに取り入れ、ボーイッシュな装いにストーリーを重ねて。足元のウエスタンブーツも赤で統一したら、遊び心に満ちたスタイリングを見せつけよう。ジャケット ¥380,000、ブラウス ¥1,550,000、パンツ ¥240,000(すべて参考価格)、ブーツ ¥298,000 Dior

きれいごとを並べて濁すのではなく、言葉を一つ一つ確かめるように自らの真実を述べる姿勢に、彼女の知性を感じずにはいられない。学びに対する貪欲さが会話の根底にあるからだ。「なりたい人間像に近づくため、つねに吸収しながら、いただいたお仕事に真摯に向き合いたい。俳優として挑戦したいことは、あまり言葉を発さない役。非言語的で身体的な芝居に挑戦してみたいです」

曇りのない笑顔のその奥には、燃え続ける炎が見える。役者として、女性として、成熟していく八木莉可子のメタモルフォーシスを私たちは見守ろう。

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エレガントに蝶が舞う、ディオール 2024年クルーズ コレクション

ディオール

メキシコで発表されたディオール 2024年クルーズ コレクションがローンチ!

christian dior cruise 2024
COURTESY OF DIOR

2023年5月にメキシコのサン・イルデフォンソ学院で発表されたディオール 2024年クルーズ コレクション。同国の象徴的な女性アーティストであるフリーダ・カーロにオマージュをささげ、彼女が実際に着用していたようなスリーピーススーツやビビッドなピンクのドレスなど、力強くもエレガントなルックが多く登場した。八木莉可子さんが着用したアイテムを含むコレクションが、ついに全国のディオールブティックと公式オンラインブティックでローンチする。メゾンが描く強い女性像とメキシコの文化が融合した美しいコレクションを、ぜひ手に取ってみて。


問い合わせ先

クリスチャン ディオール tel. 0120-02-1947

八木莉可子(やぎ りかこ)
2001年7月7日、滋賀県生まれ。俳優。2015年エイジアクロスモデルオーディション「#THE NEXT」でグランプリを受賞し14歳でデビュー。おもな出演作にNetflixドラマ『First Love 初恋』、NHKドラマ『おとなりに銀河』など。

Photographs: KEIICHIRO NAKAJIMA Videographer: YU NAKAJIMA Hair: SHIN ARIMA at HOME AGENCY Makeup: AYAKA NIHEI at WALTER SCHUPFER using DIOR BEAUTY Photo Assistant: IVAN ROCHA Local coordination: TAKAO MIYARA, MIKI SAKAI at VIAJES PASELA Production & Text: YUMI KOMATSU Video Producer: TOMOHIRO YASUDA at HEARST DIGITAL JAPAN Graphic Design: ERIN KANII at HEARST DIGITAL JAPAN