小松美羽
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小松美羽の制作風景。迫真のライブペイントは見る者を圧倒する。

2022年3月30日、羽田空港で行われた保税アートオークションでは、国内史上最高額でアンディ・ウォーホルの作品が落札され話題となった。海外からの高額作品はもちろん目をひいたが、注目したいのは日本の若手アーティストたちの活躍だ。今回は、その中でも独特のスタイルで脚光を浴びている現代アーティスト小松美羽と、1000万円で落札された作品「麒麟」にフォーカスしてみたい。

小松美羽
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小松美羽

異彩を放つアジアの期待「小松美羽」

保税オークションには、日本のアート市場全体を活性化させ、国際的なアート交流のハブとなる役割が期待されている。「一番は、日本のアーティストの作品を世界から買いにくるという構図です。」と、オークションを主催したShinwa Auction株式会社副社長の泉山さん。「戦前はレオナール・フジタ。戦後は草間彌生や白髪一雄など、その後は誰か。次のアーティストが生まれる土壌を作ることが大事です。」泉山さんによると、ロッカクアヤコ、松下真理子など若手が高い評価を受けつつある中、小松美羽はひときわ異彩を放つ「アジアの期待の新人」だという。

小松美羽
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小松の作品には狛犬、龍、麒麟などの神獣が多く描かれる。そのどれもが不思議な力に満ち溢れている。

小松美羽作品の「力」とは

小松の作品を述べるとき、誰もが口を揃えて表現するのが圧倒的な「力」の存在だ。Shinwa Wise Holdings株式会社の倉田社長は、小松の作品についてこう語る。「オルセー美術館のゴッホの部屋って、入った瞬間押し戻されるほどの力があるんですよ。小松作品にも、それと同じものを感じます」

小松美羽
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身延山久遠寺にて行われたライブペイントの様子。制作の前後には感謝と祈りを込めて合掌する。

小松の制作過程として最も特徴的なのが、「祈り」というキーワードだ。幼い頃から自然や動物に囲まれ、寺社の側で育った小松には、命あるものに対して祈るという行為が日常のこととしてあった。祈ることで生きとし生けるものに宿る霊性を感じ、浮かんだものをキャンバスにぶつける。倉田社長は、小松自身についてこう話す。「人知を超えているんです。彼女は凡人が見ないものを感じている。技術だけではなく、アートって“力”なんですよ。彼女には何かが見えていて、そのエネルギーを余すところなく作品にぶつけている。我々は、彼女が見えている“何か”の力を作品を通じて感じることができる。そこに価値があるんです。」

小松美羽
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彦十蒔絵(ひこじゅうまきえ)石川県輪島市にある漆芸職人集団。日本に誇る数千年の漆芸技術を用い、天然木と天然漆にこだわる。1つの作品に複数の職人技を取り入れるプロジェクト形式で、他に真似のできない究極の作品を目指し制作を行う。写真は「花尽くし宝珠小原古邨鳥蒔絵9枚組盃」。手の平サイズの宝珠の中に9枚の盃が収まる美しい作品。

日本の伝統伎を操るプロ集団「彦十蒔絵」とのコラボ

今回落札された「麒麟」は、小松の画と「彦十蒔絵」の漆芸とのコラボでできあがった作品だ。彦十蒔絵とは、塗や蒔絵などといった漆芸の職人たちによるアート集団。日本の伝統技術、日本人の精神性を次世代に繋いでいくとの信念のもと、現代的な感覚やユーモアをも取り入れた魅惑的な作品を数多く生み出している。彦十蒔絵をプロデュースする漆芸家・若宮隆志氏の作品は、繊細で隙が無く、完璧に美しい。それでいて所々覗くコミカルな表現やユーモアは、見る者の心までもほっこりと温めてくれる。

小松美羽
石塚定人
若宮隆志(わかみや たかし)彦十蒔絵のプロデューサー・漆芸家。2014年文化庁文化交流使に任命。作品のデザイン企画、技術研究開発及び漆の啓蒙活動を行う。ドイツ、イギリス、香港等海外での個展も多数。国内外で高い評価を得ている。写真は、ユーモア溢れる自身の作品「妖怪」との1枚。

「小松さんはとても感受性が豊かで敏感な方。一般の人が感じない微細な事を感じる力があり、それを画に具現化しているのだと思います。だからこそ彼女の画には人を惹きつける力があるんですね」と、若宮氏も小松作品の持つ「力」の存在について言及する。

小松美羽
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二人三脚で制作を進める若宮氏と小松。

「小松さんの持つ宇宙観や生きる意味に共感しています。それは私が作品を通して常に訴えている事でもあるからなんです。この様な現代アートと工芸技術とのコラボはこれまでには無い新しい取り組みといえるでしょう

小松美羽
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1000万円で落札された小松美羽の作品「麒麟」。

「麒麟」については、画に込められたエネルギーを漆と蒔絵の技術を通して再現すること、特に目の表現にはとても苦労したのだという若宮氏。出来上がった作品は、モノトーンの背景に、独特の光沢を宿して 静かに浮かび上がる麒麟。印象的な眼には溢れるエネルギーが込められている。

伝統と革新とが生み出す新たな「力」

小松の描いた神獣に、若宮氏の技術によって命が吹き込まれた。若宮氏の人間性にも好感をおぼえ、コラボをすることでお互いのエネルギーが融合し大調和が起こることを確信していたという小松。伝統的な素地の上に、どこか大胆で斬新な趣向。高度な技術と豊かな人間性に裏打ちされた若宮氏の表現の緻密さ。「麒麟」は、やはりこの2人にしか成しえなかった作品だろう。この作品には、まさに伝統(工芸技術)と革新(現代アート)との融合が生み出す新たな「力」が宿っている。

小松美羽(こまつ みわ)1984年、長野県生まれ。女子美術大学短期大学部在学中に制作した銅版画「四十九日」が注目を集めプロの道へ。有田焼の立体作品「天地の守護獣」が大英博物館に永久展示、第76回ヴェネツィア国際映画祭VR部門にノミネートされるなど、国際的にも高い評価を得ている。2023年には、東寺(教王護国寺)真言宗開創1200年記念法要に向けて東寺より正式に依頼を受け、現代の曼荼羅を奉納することが決定。生と死や神獣をモチーフとして独特のタッチで描かれる作品からは不思議な力強さが漲る。