パワフルな歌声で知られるロックンロールの先駆者、ティナ・ターナーが死去した。83歳だった。『Proud Mary』や『What’s Love Got to Do With It』などのヒット曲を生み出し、トップアーティストとして生きてきた彼女は長い闘病生活の末、スイスのチューリッヒ近郊にある自宅で息を引き取った。
「世界は音楽界のレジェンドで、人々のお手本でもある人物を失った」と彼女のパブリシスト、バーナード・ドハティは声明を出した。
公式インスタグラムには、モノクロ写真が投稿され、次のキャプションがそえられた。
「悲しいことにティナ・ターナーが死去しました。彼女は音楽と、生への尽きることのない情熱で世界中を魅了し、次世代のアーティストにインスピレーションを与えてきました。私たちは本日、音楽という素晴らしい作品を遺して去った親愛なる友に別れを告げます。彼女のご家族に心から哀悼の意を表します。ティナ、いつまでもあなたを忘れない」
ティナは20世紀を代表するシンガーの一人であると同時に、プライベートでは悲痛な経験をしたことでも有名だ。“ロックンロールの女王”と呼ばれ、音楽界で最もヒット曲に恵まれた女性アーティストの一人となった彼女の本名は、アナ・メイ・ブロック。1939年、テネシー州ブラウンズビルで、フロイド・リチャード・ブロックと妻ゼルマ・プリシラの末娘として誕生した。幼少期の頃から教会の合唱隊で歌っており、その時に歌手としての才能を見出された。
ティナは生活を支えるためにセント・ルイス周辺の小さなクラブで歌っていた時に、後に夫となるアイク・ターナーと出会った。彼女のキャリアを変えた出会いだったが、幸福であり、不幸の元凶でもあったと後に彼女は振り返っている。
ティナはアイクのバンドで歌うようになり、音楽活動を続けるうちにそのパワフルな歌声で彼女はたちまち注目の的に。
その一方で、アイクはたびたびティナに暴力を振るうようになった。2人は1978年に離婚。2021年のHBOのドキュメンタリー『Tina』で、彼女は当時の離婚裁判を回想し、唯一勝ち取る価値があったのは名前だったと話した。離婚後、ソロシンガーとしての活躍が本格的に始まった。
1950年代と60年代にはアイクとの共作の『Proud Mary』や『Baby, Get It On』などのヒット曲を世に送り出したが、彼女の全盛期は80年代だと言われる。
1984年にリリースされたアルバム『Private Dancer』に、『Let’s Stay Together』や『I Can’t Stand the Rain』などの曲とともに収録されている
『What’s Love Got to Do With It』は彼女の人生を究極に変える最大のヒット曲となった。時代を代表する曲になっただけでなく、ティナのキャリアを一変し、彼女はロックンロールのアイコンになった。しかし、彼女自身は酷い曲だと思い、レコーディングには消極的だったことでも有名だ。
「酷い曲。最悪だった。私はロックンロールの人なのに、これはポップソングで、力強い声は馴染まない。でも私はそれを変えて自分のものにした」とドキュメンタリー『Tina』で語っている。
ティナのステージでのスタイルも、歌声と同じくらい記憶に残るものだ。
フリンジ付きミニドレスに、鎖付きのホルタートップ、プラットフォームのヒール、80年代に流行したスパイキーなブロウヘア。写真集『That’s My Life』で、彼女はステージでエッジを効かせたファッションをすることで「より力強く自信たっぷりでハッピーで、愛されている気分になれた」と書いている。
ドキュメンタリー『Tina』は、正式に引退を発表後、何年も経ってからリリースされたこともあり、ファンにはお別れの意味で受け止められた。
「徐々に身を引いていくにはどうすればいい? 姿を消せばいいの?」と彼女はドキュメンタリーの最後で涙を堪えながらたずねた。ドキュメンタリーには再婚した夫アーウィン・バック(EMIミュージックのトップ)も登場した。
ティナは4人の子どもに恵まれた。元パートナーのレイモンド・ヒルとの間に生まれたクレイグ、アイクの元妻との子どもを養子にしたアイクJr.とマイケル、アイクとの間に生まれたロニーがいる。クレイグは2018年に59歳で死去。ティナは自身にドキュメンタリーを、愛息子に捧げた。
ティナが最後に人前に姿を見せたのは2019年11月。彼女の人生を元にしたブロードウェイの舞台『Tina: The Tina Turner Musical』のオープニングの時だ。
「彼女は『私はアメリカに行って、アメリカのファンにお別れを告げてくる。このドキュメンタリーと舞台でおしまい』と言っていた」と、夫のバックはドキュメンタリーで語っている。
Translation: Mitsuko Kanno from Harper's BAZAAR.com