夏木マリ
Kazumi Kurigami

夏木マリはエンタテインメントのフィールドで走り続け、今年デビュー50周年を迎えても止まらない。それでいて自然体なのが印象的な人だ。

「自分らしくいる秘訣は楽しくやることですね。何でも楽しむこと。楽しくしようとしちゃだめ。楽しむの。崖から飛び降りるような感じで、行くぞという勢いでもそれを楽しいと思う。人生はイメージだから、そのイメージに向かっていらないものをそぎ落とし、必要なものをプラスする。そうやって整理整頓したり構築したり。それが楽しい」

自分らしくいたいと生き方がシンプルになった契機は、1993年に始めた身体表現『印象派』。日々の仕事に取り組むなかで、舞台の面白さに目覚めてのめり込んだ末に、40代でたどりついた作品だ。

「『印象派』を始めたことは、自分を大きく変えた気がします。今、私がここでこうしていられるのも、この作品のおかげ。芸能の世界は華美になりがちなのですが、それをやめて、体一つで表現する『印象派』に取り組みました。その結果、ブラッシュアップできたし、日常生活もシンプルになりました。ちょうどその稽古で、なりふり構わず踊っている自分の素顔が鏡に映ったのですが、素直に『いいな』と初めて思えて、自分らしさとはこういうことかと気づきました」

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
タイムレスに輝く女性たち ── 夏木マリ、水川あさみ、アオイヤマダ、長島有里枝、YOON|ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)公式
タイムレスに輝く女性たち ── 夏木マリ、水川あさみ、アオイヤマダ、長島有里枝、YOON|ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)公式 thumnail
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転換期だった『印象派』を始めてから今年で30年。記念すべき作品とともに年齢も重ねてきたが、それは奇跡だという。

「体がいうことをきかなくなるし、徹夜は続かない。そういう肉体的な壁はひしひしと感じています。でもそれも事実として認めなきゃいけません。その上で過ごしてきた時間、いろいろ経験してきたことを踏まえて、素敵な先輩たちのいたところに少しでも近づければと生きているような気がします。たとえばダイアナ・ヴリーランド(元US版『ハーパーズ バザー』エディター)。憧れの存在であり、リスペクトしています。私の家のリビングも彼女と同じく真っ赤なんですよ」

演出やプロデュースなど創り手の仕事も多いなか、インスピレーションソースとして、今まで見てこなかったものを見る、別のジャンルのものに触れる、異なる背景の人と話すことを意識している。

「Z世代の若者や、先輩、環境が違う方、お話したことのない方々とお話ししたくなります。映画や本もそうですが、好き嫌いは触れてみないと分からないもの。だからインプットするときはあえてそうしてみる。すると、これは好き、好みではないと整理できます。面白いことにすごく悪いものを見ても勉強になる。そうやっていろいろ見つけていくと、自分は何も知らないんだなと思います。年を重ねると知っている気がしてくるというか、固くなるでしょ? まだまだ新しいこと、知らないことがたくさんあるんですよね」

夏木マリ
Kazumi Kurigami
ブラウス ¥561,000、スカート ¥775,500、ピアス ¥155,100、 ブーツ¥270,600(参考価格)Balenciaga

これからの10年の目標は健康でいること。うまくいかなかった日はおいしいものや、食べたいものを食べてたっぷり寝る。そしてできるだけポジティブでいることが、健康につながると信じている。

「今100歳の義母がすごく元気で、それは前向きだからなんですよね。私が家に帰って『あー、疲れた』とボヤいたときに、『その年で仕事があるのはありがたいことよ』と言われました。それ以来、ありがたい、ありがたいと思いながら帰宅したら、本当にありがたくて元気が出てくる。ポジティブな精神は体とつながっているし、生き方にも影響すると実感しています。だから自ずと前を向けるよう、好きなことをやっていく。以前にドクターから『少しでもネガティブな気配を感じた仕事は、ストレスで病気の原因になるからやっちゃだめ』とアドバイスされました。だから楽しいことをやるようにしています」

夏木マリ(なつき・まり)
表現者。80年代から舞台での活動を始め、1993年にコンセプチュアルアートシアター『印象派』で世界の演劇祭に参加。2009年パフォーマンス集団MNTを立ち上げ主宰に。今年はライブなど、デビュー50周年を記念する企画も行われる。

Photographs: KAZUMI KURIGAMI Styling: RENA SEMBA Hair: TAKU at VOW-VOW Makeup: SADA ITO at SENSE OF HUMOUR Interview & Text: AKANE WATANUKI