発酵ライフスタイル

発酵をあたらしくとらえ、
独自のスタイルで発信している、
注目のスポットやプロジェクトをご紹介。

心地よい場づくりが、パンを、そして、沖縄の未来を醸成
〈宗像発酵研究所〉

posted:2019.6.26

那覇市内から車を走らせ、約20分。気持ちのいい緑の庭が広がる一角に、〈宗像堂〉がある。天然酵母パンの先駆けであり、全国からパン好きが訪れる名店だ。同じ敷地内には、2017年に「飲む」にまつわるモノ・コトをテーマとした店〈LIQUID〉がオープンした。さらに同年秋にできたのが、〈宗像発酵研究所〉である。所長を務めるのは宗像堂店主の宗像誉支夫さん、そして副署長は〈LIQUID〉店主、村上純司さんだ。

〈宗像堂〉の宗像誉支夫さん(左)と〈LIQUID〉の村上純司さん(右)。

微生物の営みと沖縄の魅力

宗像さんはかつて、大学院で微生物を研究していた。いわゆる一般的な醸造・発酵とは違う視点で微生物を捉えていたことが、宗像さんの興味を深め、自身の思考の根幹にもなっている。

「地球上には人類が計り知れないほど無数の微生物が棲息していて、そのうちの0.01%くらいしか解明されていません。後の99.9%は何だか分からないんです。人間が扱える菌の種類はまだまだごく僅かに限られていて、1種類だけを培養するのは特殊な世界。地球の環境が変われば、それに適応して微生物はどんどん変化するし、種類も増える。人間には決して把握しきれません。そして僕たちは知らず知らずのうちに微生物に助けられているのだと思う」(宗像さん)

〈宗像堂〉の宗像誉支夫さん。

地球上にいる無数の微生物の中で、絶妙なバランスによって自分たちはかろうじて生かされている。だから宗像さんは、まるで音楽を演奏するプレイヤーのような気持ちで、日々微生物と向き合っている。微生物たちの集まる環境を整え、どんなハーモニーを奏でるのかを謙虚に見極めることが自分の役割だという。〈宗像堂〉のパンは、そうして生まれている。

緑あふれる場所に佇む〈宗像堂〉。

店内にはパンがずらりと並ぶ。オープンと同時に次々と客が訪れ、みるみるうちになくなってしまう。

そのパンを買いに来ていた客の一人が村上さんだった。毎回来るたび持ちきれないほど大量のパンを買って行く村上さんを不思議に思った宗像さんが声をかけ、ふたりの交流が始まった。村上さんは以前、バイヤーの山田遊氏率いる会社〈method〉に所属し、商業施設のディレクションや商品プロデュース、メーカーのブランディングコンサルなどを行っていた。そこから独立し、新しい事業を立ち上げるための拠点として沖縄に魅力を感じていたという。

「沖縄は海外からの観光客が年々増え続け、昨年度は年間300万人を超えました。実際、日本というよりアジア諸国の方が距離的にも感覚的にも近い地域であり、歴史的背景から琉球やアメリカなどの文化も色濃く入り混じっている。 “内地”とは違う、独特の発展を遂げています。沖縄は世界への玄関口であり、さまざまな人・モノ・文化が交差する場。そこに魅力を感じました」(村上さん)

〈LIQUID〉の村上純司さん。

パン屋として開業15年の節目に、次の新しい構想を練っていた宗像さんには、絶好のタイミングでの出会いだった。全くバックグラウンドの違うふたりだが、元研究者であり、パン職人としてストイックに内なるものの深淵を見つめてきた宗像さんが、村上さんと繋がりを持つことによって、よりグローバルな世界へばんと解き放たれたのかもしれない。〈宗像発酵研究所〉のテーマを伺った時、「奥行きと広がり」と宗像さんは答えたが、それはふたりの人間性によって導かれたことを表しているように感じる。

ロゴデザインはファッションブランド〈minä perhonen(ミナ・ペルホネン)〉のデザイナー、皆川明さんが手がけた。

意思のある場所には、おもしろい人が集まる

〈宗像発酵研究所〉は、「発酵」という切り口を掲げているが、そこにはもっと広く大らかな意味を持たせている。

「研究所といっても、発酵を学問的に深く探求して博識になるというつもりではありません。それよりも人と人との繋がりが醸し出すもの、僕らと一緒に化学反応を起こしてくれそうなもの、ということを大事な軸にしています。

例えば、世界各地で発酵に関わっている一流の専門家や料理人が、沖縄と出合うことで、何か新たな広がりや結びつきが生まれるんじゃないかと。今ここでやったことで、100年後の沖縄がおもしろくなっているだろう、と想像できるようなことをどんどんやりたいと思っています」(宗像さん)

〈宗像発酵研究所〉のラボスペース。すっきりと無駄のない空間デザインは沖縄出身のデザイナー、真喜志奈美さんによるもの。

〈宗像発酵研究所〉内に併設された〈LABO LIQUID〉。村上さんがセレクトした日本酒や自然派ワイン、クラフトジン、お茶、そして“飲む”にまつわる道具などを販売している。

「発酵の定義とは、微生物が人間にとって良いはたらきをすることをいい、悪いものは腐敗。微生物自体は良い悪いもなくただ代謝しているだけであり、あくまで人間の目線。だからこの場所も、自分たちの目線で真に心地よいと思うことを、自信と責任を持ってお伝えしたい」と宗像さんは言う。

抽象的な話に聞こえるが、具体例を挙げると、例えばチーズ。パルミジャーノ・レッジャーノはカットしたてが一番おいしい。そこで、チーズの専門家にパルミジャーノをホールで持ち込んでもらい、カットする瞬間に立会って、みんなで共有するというイベントを宗像さんたちは開いている。ナイフを入れる音、立ち上る香り、味わい。五感を研ぎ澄ませ、同じ場にいた者同士が会話を交わすことで、未知なる多様な感覚が生まれるという。

「扱ったものはもちろん発酵食品ですが、そこにいる人たちの心の動きや交わりも、広い意味での発酵ではないかと思っています」(宗像さん)

宗像さんたちの取り組みは、やがてヴィンテージワインのように熟成され、未来の沖縄の文化・社会に何かをもたらすことができるかもしれない。〈宗像発酵研究所〉は、そんなワクワクするような、壮大な試みへのヒントがたっぷり詰まった場所なのだ。

information

宗像発酵研究所

address:沖縄県宜野湾市嘉数1-20-7
web:https://www.facebook.com/宗像発酵研究所-747967078741026/
※問い合わせは〈宗像堂〉まで。

宗像堂

address:沖縄県宜野湾市嘉数1-20-7
営業時間:10:00〜18:00
定休日:水曜
mail:enjoy@munakatado.com
web:http://www.munakatado.com/

LIQUID

address:沖縄県宜野湾市嘉数1-20-17 No.030

LABO LIQUID

address:沖縄県宜野湾市嘉数1-20-7 宗像発酵研究所内
tel:098-894-8118
営業時間:10:00〜18:00
定休日:火・水・木・金曜
web:https://www.liquid.okinawa/