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ファッションフォトグラファーが選ぶ──ソーシャルにオススメのカメラ3選+1

自分で作ったご飯、ペットの萌え顔、季節を感じる近所の植物などなど。みんなに伝えたい出来事をファッションフォトグラファーはどう切り撮るか? 『GQ JAPAN』でも数々の撮影をしているフォトグラファーのマチェイ・クーチャに初心者でも扱いやすいカメラ3種(+1)を紹介してもらった。
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SNSにピッタリなカメラとは

インスタグラムは、モバイルデバイスで撮った写真をその場でシェアできるアプリとして始まった。「見て、撮って、シェアする」までが手早く行えることで、個人の日常生活をほぼ編集なしで公開できる貴重なメディアになった。するとすぐに、ヴィジュアルとしての質の高さを重視したコンテンツを、より洗練されたアプローチで作るという動きが、多くの人の間に広がっていった。
モバイルデバイス搭載のカメラは今やかなり高性能になっているので、インスタグラムの人気ツールとしての座はこれからも揺るがないだろう。光とロケーションの条件さえよければ、きれいでくっきりした写真はスマホでも撮れてしまうが、その場の「空気」までをも切り取るとなると、そう簡単なことではない。
そこで、SNSの写真をもっと工夫したいと考えている人のために、3“種”3様のカメラを選んだ。伝えたいことは、カメラを性能だけでは語れない状況も多々あるということだ。カメラがあなたの撮影魂をどれだけ掻き立ててくれるのか(あるいは台無しにしてしまうのか)や、被写体への向き合い方にどんな影響をおよぼすのか、カメラそのものがどんなひらめきをもたらすのか、といったことも大切なのだ。

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今回のカメラ選びで僕が重視したポイントは次の3つだ。

1. SNS用に使いやすいこと──手軽に持ち運んで簡単に撮影し、アップロードできるカメラであること。

2. フィルターいらずであること──フィルターや色調補正、フォトショップを使うことなしに素敵な写真が撮れること。

3. 魅力的なカメラであること──1日中持ち歩くカメラなら見栄えがよいものを選びたい! 物々しくてダサいカメラをぶら下げていたらファッションが台無しになるばかりか、その場の雰囲気を壊すことにもなりかねないから。


伝説的なライカM10

ライカM10  ¥880,000 
ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH. ブラック ¥480,000

最初は、世界でもっともアイコニックなカメラから紹介しよう。

現在主流となっている35mm判のフィルムカメラを初めて世に送りだしたのがライカだ。20世紀を代表する写真家の多くがライカを愛用していた。M型カメラのデザインは60年代からほとんど変わっておらず、ライカのレンズは世界最高と評価されてきた。その後2006年にライカM型は、デジタルカメラの世界に参入し大成功をおさめる。過去のエポックをまったく損なわない、じつにみごとなデジタルへの移行だった。
今回オススメしたい「ライカM10」は、ライカ最新モデルの1つだ。そのゴージャスさといったら! 手に取ったときの高級感(そしてずっしりとした重み)が別格だし、シンプルでクラシカルなデザインはとびきりモダンでもある。おまけに、高品質でアイコニックなM型シリーズのすべてのレンズが使える。

このライカM10はマニュアルの要素を持つカメラだ。露出もフォーカスも自分で設定しなければならない。だが、マニュアルは初めてという人も安心してほしい。使い方は驚くほど簡単だ。ただの通勤用ではなく運転することが楽しくて仕方がないお気に入りのクルマと同じように、このカメラはあなたの撮影欲や探究心を掻き立てる。このカメラで撮影したなにもかもがシネマティックに、そして「生きている」かのように見えることだろう。色合いはとびきり豊かで美しく、撮影の瞬間が鮮明に甦ってくる。

いや、それでもまだ不満だというなら、「ライカM10モノクローム」というモデルもある。極めつけに美しい白黒写真が(白黒写真だけを!)撮影できるカメラだ。

おまけにライカにはアプリもあって、カメラからスマホへと写真を手早く転送し、すぐさまSNSでシェアすることができる。
最高に気に入った写真があれば、プリントアウトしたくなるに違いない!

問い合わせ
ライカ カスタマーケア
TEL 0120-03-5508

キュートで可愛い富士フイルムX-T30

FUJIFILM X-T30 ¥87,800(レンズ別売り)

2つ目のオススメは、富士フイルムX-T30だ。80年代の一眼レフカメラを思い出させるデザインがいい。小さくてスタイリッシュ、価格帯も手が届きやすく、とても使いやすいミラーレスデジタルカメラだ。手にもしっくりなじむし、それでいて抜群に美しい写真を撮ることができる。
これはとても用途の広いカメラで、オートフォーカスを含めた自動設定の使い勝手が絶妙だ。いっぽうマニュアルで操作することもできて、それは、あなたの創造性を刺激してくれることだろう。

富士フイルムXシリーズ用のレンズが幅広く選べることもあって、このカメラは旅先から日常の光景、静物、野生生物に至るまで、あらゆるジャンルの写真に適している。より望遠のレンズでDOF(被写界深度)を浅くして被写体の一定部分にピントを合わせれば、きれいにぼやけた背景にできる。スマートフォンで撮った写真とは明確に異なる質感にできるのだ。

このカメラには「フィルムシミュレーション・モード」もついていて、富士フイルムが提供している各種フィルムを模したような、ノスタルジックな写真を撮ることもできる。白黒を含めて、16種類のフィルムが選択可能だ。

このヴィンテージ風なデザインが、撮影する楽しみをより広げてくれるはずだ。

問い合わせ
富士フイルムデジタルカメラサポートセンター
TEL 050-3786-1060

トレンディな味わいのコンタックスT2

コンタックスT2 カメラマン私物

3つ目に紹介するのは、デジカメ以前の90年代に発売されたオートフォーカスのカメラ。当時のアマチュア向けコンパクトカメラの中でも、じつに際立った製品だ。
ボディがチタニウム製。しかもコンパクトカメラだというのに、ドイツの光学機器製造会社カール・ツァイスの38mm F2.8を使っていて、期待を上回る写真を撮ることができる。内蔵フラッシュも、キレのある独特の味につながっている。おまけにフルオートマチックだから、設定で悩むことなどひとつもない。

非常に簡単なカメラではあるが、任航(レン・ハン)やテリー・リチャードソンなど、多くの有名フォトグラファーがコンパクトフィルムカメラに着目し、アマチュア向けカメラならではの質感に基づいた表現スタイルを構築した。
コンタックスT2を愛用しているセレブリティも多く、アニー・リーボヴィッツ、ソフィア・コッポラ、水原希子など多岐にわたる。ケンダル・ジェンナーがこのカメラで撮った妹カイリーの写真が『LOVE』マガジンの表紙を飾ったほどだ。

そんなこんなで、T2はファッショナブルなカメラという地位を確立し、まだ生産されていた頃の新品価格を中古品の価格がはるかに上回る事態にもなっている。2005年に生産が終了してからというもの、人気沸騰のカメラとなったのだ。幸運にも、東京は中古カメラの天国のような都市だから、状態のよいT2を見つけるのもそう難しくはない(嘘だと思ったら中野のフジヤカメラに行ってみてほしい)!
もちろんフィルムカメラでは、写真をすぐさまソーシャルメディアにアップロードすることはできないが、ネガフィルムを写真屋さんに持っていけば現像してくれるし、翌日にはスキャンをeメールで送ってくれる。このカメラには、待つ価値があるのだ。

フィルムゆえの制約が創造性につながるということもある。撮れる枚数が限られていることでシャッターを押す指が慎重になり、被写体への集中を高めてくれる。液晶画面で確かめることもできないので、撮った直後に確かめて編集する手順を挟まずに、撮影に没頭することができる。その成果を現像された写真で確かめるあの気持ちよさといったら!

僕は、フィルム写真をインスタグラムで眺めることが大好きだ。一般的なインスタグラムの使い方ではないかもしれないが、ゆったりとして温かで、現実感のこもったフィルム写真の雰囲気は本当に独特だ。それに、オートフォーカスのポケットカメラは初心者向けの最初の1台にももってこいだと思う。

写真の色合いは、フィルムの選択で変わる。僕のお気に入りはコダックのポートラ800で、豊かで濃い色合いと、粒子のざらついた質感がよい。

Profoto C1

最後は番外編。

多くの場合、カメラにも増して大切なものは照明だ。Profoto社にはプロカメラマン用の装備が揃っている。スタジオ撮影や野外ロケ用の照明機材を、僕も毎回のように使っている。そのProfoto社が昨年、「スマートフォン用スタジオライト」という触れ込みで発売したのが、この「C1」だ。たいへん小型なライトで、カメラアプリを使用してスマホとつなぐこともできる。自然な光加減からドラマチックなものまでや、彩度や色温度に至るまでをオートマチックで設定することも、マニュアルで手動設定することも可能。ライトシェーピング用のツールも幅広く使えて、創造性のひらめきを試すことができる。肖像写真や静物写真をスタジオ撮影なみの美しい質感にすることもできるし、もっと単純に、パーティー会場がやけに暗いときの手助けにもなる。

問い合わせ
プロフォト株式会社
Email info-jp@profoto.com

PROFILE
マチェイ・クーチャ

ポーランド出身。東京を拠点にファッションフォトグラファーとして活動。草間彌生、オノ・ヨーコ、渡辺健、スカーレット・ヨハンソン、リタ・オラ、グウェン・ステファニー、マッド・ミケルセンなどのポートレート、宇多田ヒカル、THE YELLOW MONKEY、Alexandrosなどミュージシャンのジャケット撮影やファッションブランドのビジュアルも手掛ける。

website: http://www.maciejkucia.com
instagram: https://www.instagram.com/maciejkucia\

Translation 待兼音二郎 Ottogiro Machikane