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勝利を掴んだ不良少年──マーク・ウォールバーグ

コカインと暴力にまみれたギャング時代を経て、カルバン・クラインの下着モデルへ。そして、ついにはハリウッド屈指のアクションスターの座に上りつめたマーク・ウォールバーグ。プロデューサーとしても活躍する彼の次回作は、マイケル・ベイ監督によるアクション超大作『トランスフォーマー/ロストエイジ』だ。不良少年が手にした栄光の秘密を英国版『GQ』が直撃した。
マーク・ウォールバーグ 勝利を掴んだ不良少年

コカインと暴力にまみれたギャング時代を経て、カルバン・クラインの下着モデルへ。そして、ついにはハリウッド屈指のアクションスターの座に上りつめたマーク・ウォールバーグ。プロデューサーとしても活躍する彼の次回作は、マイケル・ベイ監督によるアクション超大作『トランスフォーマー/ロストエイジ』だ。不良少年が手にした栄光の秘密を英国版『GQ』が直撃した。

Photos: Peggy Sirota
Text: Matthew Specktor
Translation: Midori Yamagata

マーク・ウォールバーグ Mark Wahlberg 1971年、マサチュ—セッツ州生まれ。19歳のときにラッパー、マーキー・マークとしてデビュー。93年にTV映画『悪女は三度涙を流す』で俳優デビュー後は、俳優兼プロデューサーとして活動。アクションからコメディ、人間ドラマまで幅広くこなし、2度オスカー候補となっている。またハリウッドにとってはバンカブルな(ドル箱)スターのひとりだ。

「よう、調子はどうだい?」

10分ほど遅れてインタビュー用の部屋に入って来たマーク・ウォールバーグは、どこから見てもリラックスした雰囲気だ。ルースフィットしたジャージーは新品みたいだし、ベージュのTシャツも42歳という年齢にふさわしい。室内をゆっくりと横切り、椅子に腰掛ける。その姿を見る限り、これから製作費数百億円もの超大作を宣伝しなければならないプレッシャーなど感じていないようだ。とはいえ椅子に座るや否やすぐに、仕事モードに切り替わった。

「映画をどう思った? ニコラ・ペルツのセクシーなショーパン姿は気に入ったかい?」

『トランスフォーマー/ロストエイジ』でマークが演じるのは、発明家ケイドだ。ニコラ・ペルツ演じる一人娘テッサを育てるシングルファーザーという役柄。偶然入手したトラックを修理したことから娘とその恋人とともに“トランスフォーマーの帰還”に巻き込まれる展開だ。“子どもを思いやる父親”は、少し前ならきっとハリソン・フォードやケビン・コスナーといった俳優が演じていた役どころだ。

「映画会社がいわゆるハリウッド流にこだわっていたら、ニコラと僕は恋人同士という設定になってたんじゃないかな。でも僕は中年男を演じるというアイデアが気に入ったし、思春期の娘を持つ父親というのは僕自身が近い将来直面するはずの役割だから、ぜひとも演じてみたかったんだ」

マークには結婚5年目になる妻リア・ダラムとの間に5歳と8歳の息子と10歳と4歳の娘がいる。そろそろティーンになろうかという年頃の長女がいるからこそ、マークがケイドを演じるのは自然なことに思える。

「生まれてくるのが女の子だと知ったとき、腹に一発パンチをくらったような気分だったよ。母親からは『私と同じで、子どもにやきもきさせられる運命なのよ』って言われたしね(笑)。でも娘を持つことは素晴らしい体験だし、僕と娘たちの関係は良好そのものだよ。娘たちといい関係を築いていることが僕の人間関係全般に良い影響をもたらしていると思う。もちろん女性全般との関係にも」

ファミリーマンとしての人生と俳優業、そしてプロデューサー活動と実業家活動をこなすマークだが、これらはすべて財産を築くことが目的なのだろうか? もしくは飽くなきチャレンジ? それとも今どきのスターとしてのブランディングの一環?

「プロデュ—サー活動は実際、俳優活動や実業家としての活動にいろいろな意味でポジティブな影響をもたらしているよ。しかも自宅で仕事ができるから家族と一緒に過ごす時間は増えるんだ。きちんと働き、さらにはちゃんと8時間の睡眠も取れる。最高さ」

しっかり睡眠を取るということは、はマークにとってはかなり貴重なはずだ。というのも彼が出演する映画は大抵の場合、肉体的にヘトヘトになるまでの準備を必要とする体が資本の作品ばかりだからだ。昨年公開の『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』では筋肉バカ役のためにポパイのようなボディメイキングを敢行し、撮影が終了したばかりの『熱い賭け』リメイクではマフィアと対決する羽目になるギャンブル依存症の大学教授を演じるために約30キロも減量した。役作りにかけるマークの熱意が彼を特別な存在にしていると言ってもいいだろう。

「僕にはジェイムズ・ギャグニーの演技哲学がしっくりくるんだ。『役作りをして、キャラクターになり切り、ものすごい努力はしないできちんと演技をしろ』ってことさ」

これは意外な発言だ。役作りに相当な努力をする彼のことだから、撮影現場でも“ものすごい努力”で演技をしていそうだが?

「そんなことないさ。『ローン・サバイバー』の撮影中には血まみれの衣装のままテイクの合間に共演者とアメフトをやっていたよ。監督の『アクション!』という声を聞いたらやるべきことをやるまでだからね」

映画製作愛と巧みな人付き合いで

気難しい監督もイチコロ

ここで少し、マークという俳優を分析したい。彼の粗削りなのに優雅な存在感は、レオナルド・ディカプリオが生まれ持った優雅さとは異なるものだ。またクリスチャン・ベールが身につけている超自然的な演技スキルを、彼は努力して体得した。デビュー直後は俳優としての期待度は決して高かったとは言えないが、今では誰もが驚くほど芸達者な役者に成長している。アクションが得意なこともあり、体を使った作品への出演が多かったものの『テッド』のようなコメディでとぼけた味を発揮し、『ザ・シューター/極大射程』では心に傷を負ったスナイパーを好演した。またオスカー戦線で善戦した『ザ・ファイター』では目を見張るほどの熱演を披露してもいる。ちなみにこの映画で実在のボクサー、ミッキー・ウォードを演じるために自宅にボクシングジムを設営した。4年以上もかけてボクサーらしい体型を作り上げている。

マークが築いてきたキャリアの鍵となるのはもちろん、入念な役作りと準備だ。ボディメイキングや持ち前の男らしさ、役者としての演技スキルや熱意だけでは足りないと感じた場合は、周囲も驚くほどの努力を払う。いったん役にコミットしたら、ピットブルのような獰猛さで役に取り組み、ねじふせてでも自分のものにしてしまうのだ。また役に応じて肉体のあらゆる部分の筋肉をつけたり、落としたり、自在にコントロールする。しかもマークの役作りはボディメイキングだけではない。撮影に入る6カ月前から毎日、何度も脚本すべてを音読するという。そして撮影の間中、同じことを繰り返すのだ。

例えば『ローン・サバイバー』のようなハードなアクション演技を要求される映画の撮影は肉体的に疲弊するし、撮影中疲労がずっと続く。「僕の肉体はもうボロボロさ。42歳だけど気分的には75歳って感じだよ(笑)」とつぶやくマークは一見悲しげだが、瞳には不敵な光が走る。そう、言葉とは裏腹に彼はまだ守りに入る気はないのだ。アクションに重きを置いた作品を見た人のなかには、マークが演技を芸術表現ではなくて持久性を必要とするスポーツだと思っていると誤解する人もいるかもしれない。しかし実際は誰よりも映画製作に熱心な役者のひとりだし、マイケル・ベイやデイヴィッド・O・ラッセルのような気難しいと評判の監督にも一目置かれる存在なのだ。

「僕は人付き合いがうまいんだ。優れたコーチにもなれるし、優秀なプレイヤーにもなれる。そして、どんなことでも成功するには優秀なスタッフが必要だとわかっている。僕ひとりでは何事も成し遂げられないよ」

行儀のいい回答だ。マークはTVシリーズ『アントラージュ★俺たちのハリウッド』でプロデューサーとしてのキャリアをスタートさせているが、実力を広く知らしめるためには彼の言う“人付き合いのうまさ”だけでなく、目的意識や情熱、そしてハングリーさから生まれる野心が必要だったはずだ。ハリウッドでは多くの俳優がプロデューサー業に進出しているが、マークほどの成功を収めているのはほんの一握り。そもそも彼がプロデューサー業に進出した理由はいったい何だったのだろう。

「当時の僕には同じような役のオファーしかこなかった。俳優として面白い企画が舞い込むのを待つのにうんざりしていた。それに作りたい映画もあったから、誰も行動を起こさないなら自分がやらないといけないと思った。そして誰も現場で正しい判断を下せないのなら、自分がやるしかないこともわかっていた」

撮影準備やリスクアセスメント、全体の統括と進行チェック。プロデューサーの仕事は果てしなく、多くのスタッフを使いこなすのも重要な仕事だ。

「スタッフのなかには褒めて伸びるタイプもいれば、『どたまカチ割るぞ』っておどなさいとダメなタイプもいるよ(笑)」

マークの声が恫喝的になることはない。「どたまカチ割るぞ」なんて怖いことを口にしても本気じゃないことは明らかだし、おどけたような笑顔は穏やかな性格を覗かせている。マークが家族を大事にし、日曜日には2回も教会に行く敬虔なクリスチャンであり、地元で奉仕活動も行うことは有名な話だ。しかし彼は、ずっとこうした高潔な人間だったわけではない。

服役もした不良少年が努力でスターに成長

ティーン時代にコカイン依存症となり、自らも薬物の売人になったマークがボストン警察の厄介になった回数は数知れない。当時、彼が起こしたトラブルの多くに人種差別意識が絡んでいるのは暗い秘密でもある。例えば15歳のときにはアフリカ系アメリカ人の小学生に石を投げつけている。最悪なのは翌年に起こした事件で、ベトナム移民の青年2人を棒でメッタ打ちにし、被害者の一人は片方の視力を失った。殺人未遂で逮捕されたマークは傷害罪で懲役2年の刑を受け、45日間服役した。当時のマークは若かったし、服役は試練であったはずだ。もちろん彼がしでかした凶行は一生かかっても償えるものではないが、人間は成長する。そして彼は確実にいい方向に変化したのだ。

マークの生い立ちや人生背景からくるプレッシャーは俳優として、また人間としての選択に大いなる影響を与えている。1997年の初主演作『ブギーナイツ』は彼のキャリアにとって重要な作品だ。前年に公開された『悪魔の恋人』で演じた精神的に病んだストーカー青年の演技も高評価だったが、巨根のポルノ男優ダーク・ディグラー役はマークにとって初めての大人の役でもあった。しかし実はマークは最初、出演オファーに首を縦に振らなかった。

「敬虔なカトリック教徒として生まれ、さらにはタフでマッチョな環境で育った僕のような男にとって、他人からどのように見られるかは大きな問題だった。脚本を読んだけれど、『ブギーナイツ』は僕が喜んで出演をOKするような話じゃなかった。巷ではちょうど『ショーガール』がけなされた直後だったし、僕自身もカルバン・クラインの下着モデルのイメージを払拭したかったんだ」

彼の決意を変えたのはポール・トーマス・アンダーソン監督の人柄と監督が生まれ育った環境だったという。作品と監督自身の背景を聞かされた瞬間、マッチョであることへのマークの妙なこだわりは消失していった。

「出演することにしたのは人生最善の決断のひとつだったと思う。『ブギーナイツ』出演後は俳優としての心構えが変化したし、あの映画に出ていなかったら『テッド』にも出ていなかったと思う」

ダーク役と口が悪いテディベアを親友に持つジョン役を思い浮かべる。もしも彼らが実在したら、スケベなテッドは当然ダークのフィルモグラフィを熟知しているに違いないと言うと、マークは大笑いした。

「それは面白い考え方だね。『テッド』でずっと相手役を空想しながら演じた僕にとって、ダークとテッドが実在すると想像するのなんて簡単なことさ(笑)。実は『テッド』で学んだ演技が『トランスフォーマー/ロストエイジ』の撮影ではすごく役に立ったんだよ。ほとんどのシーンでカメラの向こう側から聞こえてくる声を相手に演技をしなくちゃならなかったからね」

どのようなキャラクターであってもきっちりと役作りをするマークだが、その努力をみじんも感じさせないのも彼らしい。CGIがヘビーな作品は時として役者の人間性を無視するが、演じていてバカバカしいと感じたこともあったのだろうか?

「もう42歳だし、この10年ほどは鏡も見ていない。どんな外見だろうが構っちゃいない。肉体的な役作りを求められたら喜んで準備するけど、もう自分が何者かを証明するのに必死になる時期は過ぎてるよ。誰かを感心させようなんて思わないね」

肩をちょっとすくめたマークの答えは彼の粗削りなタフさと反抗心、そして自然な素っ気なさを反映した完璧なものだった。

The Life of MARK WAHLBERG

やんちゃ坊主の波瀾万丈な軌跡
マーク・ウォールバーグがラッパー、下着モデルを経て、ハリウッドの看板スターになるまでの長い道のり。

スポーツ選手やミュージシャンから転身する役者は少なくないが、マーク・ウォールバーグほど進化し、評価を上げてきたスターはいない。デビューはエミネム前の白人ラッパーで、服役経験もある正真正銘のワルというのが売り。生意気な態度とビッグマウス、そして見事なシックスパックで話題を集めていた。『グッド・バイヴレーションズ』でビルボード1位を獲得したこともあるが、音楽の才能がないと本人も自覚しており、わずか2年でラッパー業に見切りをつけている。

俳優転身はエージェントの勧めだったが、生来の負けず嫌いが幸いし、すべての作品に全力投球。「天才」と崇められるレオナルド・ディカプリオやアカデミー賞を受賞した同郷のマット・デイモンベン・アフレックら同世代俳優を横目に与えられた役を着実にこなす姿勢でファンは増やした。男らしい風貌と恵まれた身体能力でアクション俳優の座を勝ち得たが、新たなチャンスをつかむためにプロデューサー業に進出。自身の体験をもとにしたTVシリーズ『アントラージュ★俺たちのハリウッド』の成功では業界内外のリスペクトを集めた。しかも俳優としては演じる役の幅を拡大し、『ディパーテッド』や『ザ・ファイター』でオスカー候補となってもいる。今や押しも押されもせぬバンカブルなスター兼プロデューサーとしてハリウッドに君臨している。

『トランスフォーマー/ロストエイジ』

©2014 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ディセプティコンの襲来でシカゴが壊滅状態となってから3年、CIA高官アッティンジャーはオートボット狩りを強化。人間のために戦ったオートボットは次々と破壊され、アッティンジャーの命を受けた謎の企業「KSI」が人造トランスフォーマーの開発に乗り出していた。そんなある日、テキサスで一人娘テッサと暮らす発明家ケイドは放置されていたボロボロのトラックを発見。トラックは実は身を潜めていたオプティマスプライムで、ケイドの修理で復活するが……。