連載第8回にして、初のよしもとクリエイティブ・エージェンシー以外からの参戦となったのは、グレープカンパニー所属のお笑いコンビ、カミナリの石田たくみだ。“スニーカー芸人”という言葉を世に知らしめたテレビ朝日系のバラエティ『アメトーーク!』でも、よしもとの芸人にひとり、石田が混ざっていたのが強く印象に残っている。
一時期、芸人をやりながら、原宿にあるスニーカーショップ「CHAPTER(チャプター)」の店員として働いていた石田は、そのころにお客として来店したチョコレートプラネットの松尾駿(連載第7回)やマテンロウのアントニー(ビデオシリーズ「GQ SNEAKER HOLICS」MC)と知り合いになったという。スニーカーがつなげた縁が、いま現在も活きているというのはなんと素晴らしいことか。
テレビでは茨城弁での鋭いツッコミが印象的な石田だが、スニーカーとファッションを語る彼は、終始ニコニコと優しい表情を見せていた。
「ニューバランスならたくみ」
──たくみさんは、現在どのくらいの数のスニーカーを持っていらっしゃいますか?
たくみ:“スニーカー好き”としては少ないと思われるかもしれないんですけど、いまは全部で20足くらいですね。半分以上がニューバランスで、あとはヴァンズとコンバースが多いです。僕は小学生のころからバスケットボールをやっていたので、ナイキなんかのバッシュ系のシューズも昔はよく履いていたんですけど、最近は買っていないですね。
僕はスニーカーは好きだけど、それと同じくらいデニムもTシャツも好きなんです。だから、スニーカーを買うときは常にトータルコーディネートとして自分に似合うものを考えています。
──だから、スニーカーの数もそこまで増えないんですね。
たくみ:大切な20足をメンテナンスしながら履いて、ボロボロになったら捨てて、それと同じモデルを買う、ということを繰り返している気がします。
──とくにお好きなのがニューバランスですか?
たくみ:そうですね。たとえば、『アメトーーク!』にも一緒に出たグッドウォーキンの上田(歩武)さんとイベントをやるときなんかは、「ニューバランスはたくみが持ってくるだろうから自分は違うのにしよう」って考えてくれるくらいには、周囲に伝わっていると思います(笑)。
でもじつは、ニューバランスって最初は印象がよくなかったんです。なぜかというと、中学校の指定靴が、町の洋品店で売っているようなニューバランスの白いシューズだったからなんですよ(笑)。だから「ニューバランス=かっこ悪い」というイメージがずっと強かった。
それがあるとき、大好きだった『木更津キャッツアイ』(2002年)というドラマで、岡田准一さん演じる主役の“ぶっさん”がニューバランスの靴を履いてるのを見かけたんです。まずそこで「あれ?」と思うわけですね。そしてそのあと、僕はNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDというヒップホップグループを好きになるんですが、メンバーがみんなナイキの「エア フォース 1」を履いているなか、ある場面でMACKA-CHIN(マッカチン)さんがニューバランスを履いているのを見つけて。そこから「あれ? もしかしてニューバランスってかっこいいの?」と、のめり込んでいくことになりました。
わたしの1足
──ではここで、たくみさんの「わたしの1足」を教えてください。
■New Balance M1300CL S
たくみ:ニューバランスのなかでも、想い出の1足を持ってきました。先ほどの話の続きになりますが、僕はヒップホップ・ミュージックが大好きで、ファッションもなにかの雑誌を参考にするより、好きなラッパーさんの格好から影響を受けることが多かったんです。
このニューバランス「1300」を知ったのは、たぶん20歳のころ。THE SEXORCIST(註1)というヒップホップユニットが「1300」という曲を出していて、そのリリックに「1300、定番の名作」って言葉があったんです。調べたら、どうやらニューバランスのスニーカーのことを歌ってるんだとわかってきて、「大好きなラッパーがニューバランスを認めてる! ニューバランスかっこいい!」と自らの認識を改めることになりました(笑)。
そして、すぐに1300を買いに行ったんです。だけど、その時の自分の格好がダブダブのファッションだったからか、なんだか全然似合ってない気がして……。そこから約8年が経って、28歳のときにやっと手に入れたのがこの1足です。そのときの自分にピッタリとハマった感じがして、大人になったような思いでした。
──欲しいと思ってから、8年も耐えていたんですね!
たくみ:1300って、“綱渡りをしているような靴”だと思うんです。似合わない人が履くとすごくカッコ悪い。僕が20歳のころは、その綱をわたり切る自信がなかったんですね。この1足をきっかけに、いろんなニューバランスを買うようになりました。
わたしのもう1足
■New Balance MH1500TN
──今日履いていらっしゃるスニーカーも自慢の1足だとか。
たくみ:これはニューバランスの「1500」ですね。1500は1989年に誕生したモデルなので、ちょうど今年が30周年なんです。僕もこの7月まで30歳だったので、「同い年だ!」っていうシンパシーがあって(笑)。今年は“30周年モデル”というのがたくさん出ているんですが、それを根こそぎ買いました。1500は、サイドの「N」が小さいのが好きなんですよね。
この1足は、僕が1500が好きだということを知った『カミナリのチャリ旅!』(とちぎテレビ)のスタッフさんが誕生日にプレゼントしてくれたものです。レザーとバリスティックナイロンのアッパーで、自分ではなかなか買わないハイキングブーツタイプだったので嬉しかったですね。
あと、僕は靴のサイズが25センチなんですけど、会社のホームページではなぜか背伸びをして「26.5センチ」って載せてるんですよ。スタッフさんはそれを見て買ってくれたので、すこし大きいっていうのも気に入ってます(笑)。普段は中敷きを入れて履いてますけど、サイズがズレてるっていうのがプレゼントの良さですよね。
自然体でありたい
──いま、新たに狙っているスニーカーはありますか?
たくみ:来年、5年にいちど発売される「1300」のオリジナルが出るので(「M1300JP」[註2])、それが欲しいですね。1985年に最初に登場したモデルの復刻で、1995年から5年おきに発売されているんです。僕が持っている1300とはやっぱりすこし違って、ベージュっぽいグレーの色合いが好きなんです。
──さいごに訊かせてください。スニーカーへのこだわりと、芸人としてのスタンスに共通点はありますか?
たくみ:「無理しない」ことですかね。20歳のとき、ニューバランスに手を出さなかったのは無理したくなかったからなんです。お笑いでも、たとえば番組のスタッフさんから、「この女性芸人さん、女性アイドルさんを『ブサイク』っていじってください」って言われることがあるんですけど、僕はそういうことは言いたくない。だったら、もっとべつの魅力を見つけていじってあげたいと思うんです。スニーカーもお笑いも、なるべく自然体でいたいというのが僕の理想ですね。
註
(1)THE SEXORCIST(ザ・セクソシスト):ブッダブランドのNIPPSと、ラッパーのB.D.が中心となって結成したヒップホップユニット。
(2)M1300JP:初代「M1300」を復刻したモデル。「JP」は日本企画という意味で、M1300JPは日本のニューバランスジャパンが独自に企画しているモデルでもある。5年ごとの復刻では、シルエット、シュータンに入る文字など、すこしずつデザインがアップデートされている。
石田たくみ(いしだ たくみ)
PROFILE
1988年、茨城県生まれ。2011年に保育園時代からの幼馴染みであった竹内まなぶと、お笑いコンビ「カミナリ」を結成。特技はバスケットボールで、中学時代には全国大会に出場した経験もある。
文・横山芙美(GQ) 写真・塚本弦汰