COMEDIANS OF THE YEAR

漫才コンビ・千鳥が語る──「ダメなことも2人だから笑いにできる」

千鳥というコンビは、圧倒的に仲が良い。芸人100点だが人間3点(ノブ評)の大悟を、きちんとノブがリスペクトしている。そんな、ろくでもなく素晴らしい漫才師だからこその笑いがある。 文・近藤正高 Photos: Maciej Kucia @ Avgvst Styling: Kaz Ijima @ Balance Prop Styling: Chihiro Ogura Hair & Make-up: Ken Yoshimura @ Avgvst
漫才コンビ・千鳥が語る──「ダメなことも2人だから笑いにできる」
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お笑い界からMen of The Year 2018に選ばれたのは、千鳥の2人である。思えば、2018年、彼らほどブレイクしたコンビもいない。バラエティ番組のほかCMにもあいついで出演し、いまや彼らを見ない日はないほどだ。ただしブレイクしたといっても、一発芸的なギャグでいきなり弾けたというのではなく、これまで着実にキャリアを積み重ねてきて、気づけばそうなっていたという感じが強い。

── ブレイクしたっていう実感はあったりしますか?

ノブ「ロケ先で『見てますよー』とか言われるのが、ちょっと前より増えたかなとか、そういう実感はありますね」

大悟「ただ、仕事は増えたことは増えたと思うんですけど、今年売れたという感じはあんまりないんですよね」

ノブ「女子高生の読む雑誌が調べた人気の芸人ランキングで、ついに(それまでトップだった)NON STYLEの牙城を崩したというんで、うれしいと思ったんですけど、こないだ単独ライブで、『女子高生の人、手を挙げてください』って言ったら、2000人お客さんがいて2人だけでした(笑)。だから、あんまりファン層は変わっていないのかなって」

── 昔からのお2人のファンに聞いたら、漫才はたしかに上達したけれど、やっていることは昔から変わらないって言ってましたね。

ノブ「そうなんですよ、昔からずーっとやってる漫才のスタイルですし、見てくれる人は増えたのかなって感じだけで、やってることは15、16年前と何も変わらないですね」

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大阪弁じゃなきゃ通用しないという常識を覆す

2人は岡山の高校の同級生。ずっと同じクラスで、休み時間はもっぱらお笑いの話をして、学校が終わって からも、大悟がノブの家に行き、朝までお笑いのビデオを見るといった日々を送っていたという。

── 一緒にお笑いをやっていこうと意気投合したのはそのころですか。

大悟「いや、2人ともお笑いは好きは好きやったんですけど、高校を卒業すると、ノブは就職して、まず僕一人で芸人になるって言って、大阪に出たんです」

ノブ「さすがに岡山では、大阪や東京みたいにあんまり芸人になるって文化がないんですよ。だから、まあ(一緒に芸人を)やるようなことはないんやろなと思いながら、僕は就職して。そうしたら大悟は芸人になるって言い出したんで、『エーッ、すげえな』って。見送ったの覚えてますもん」

大悟はオーディションを受けながら芸人を目指した。その後、ノブを呼び寄せてコンビを結成する。大阪では 圧倒的に関西弁の芸人が多いなか、岡山弁で、大悟の育った瀬戸内の島の話など地元ネタも織り交ぜながら漫才を演じる彼らは異色の存在だった。

大悟「最初は『大阪弁じゃなきゃ通用しないよ』みたいなこと言われたんですけど、ノブと一緒やったんで。地元のやつの前で大阪弁や標準語で話すのは恥ずかしいってあるじゃないですか。だから岡山弁で通したっていう」

── 漫才でも地元の話が出てきたりしますけど、それは何かきっかけがあったんですか。

ノブ「吉本の劇場って若いお客さんだけの劇場もあれば、なんばグランド花月だと、おじいちゃんおばあちゃんが多くて。そのなかでいきなり僕らのちょっと変なネタをやったら、まあ滑るんですよ。だから、これは岡山弁とか岡山の話をちょっと入れたほうが(お客さんも)入りやすいんかなと思って、そっから始めたんですね」

大阪では情報番組のレポーターの仕事をこなしながら、漫才を続けた。全国的に注目されるようになったのは、2003年にM-1グランプリの決勝に進出したときだろう。以来、M-1や『THE MANZAI 』(フジテレビ)といった賞レースの常連となり、優勝こそ逃したものの、出場するたびに強い印象を残した。型にはまらない自由な発想のネタには、毎回意表を突かれる。

── 売れる漫才って、フォーマットが固まっていくパターンが多いですよね。でも、お2人にはあまりそうい うところがないですね。

ノブ「そういうのがあったほうがお客さんもわかりやすいし、楽なんでしょうけどね。でも、僕ら、何のチャンピオンにもなってないんで、それを求められることもないし。漫才に関しては、本当はダメなんでしょうけど、絶対ウケなきゃあかんとかあんまりないんですよ。好き勝手なことやらせてもらう4、5分みたいな感じですね(笑)。むしろテレビのトーク番組のほうが、これウケんかったら迷惑かかるなっていう感じはありますね」

── でも、2人とも返しの発想力が素晴らしいじゃないですか。それは何か秘密があるんですか。

大悟「2人で笑うてるからじゃないですか。2人とも乗ってなかったら、たぶん『なに言うとんねん』で終わってるけど、どっちかが笑うてるから、『ああ面白いこと言うてんのかな』っていう感じになってるというか」

おなじみの「クセがすごい」のフレーズも、そんな2人の乗りから生まれた。これは、童謡をおかしな曲調で歌う大悟に、ノブが思わずそうツッコミを入れたのが始まりだという。その後、『アメトーーク!』(テレビ朝日)でこのネタを披露した際、先輩芸人たちからいじられたのがきっかけで一気に広まった。

コンビだから相方の失敗も笑いにできる

上京して6年ほど経つ。最近では、ノブが一人でもCMに出演するようになり、大悟も深夜番組「志村でナイト」(フジテレビ)でお笑い界の大先輩・志村けんとコントを演じたりと、それぞれ単独での活動も目立つ。

── 大悟さんは(ピースの)又吉(直樹)さんから小説を書いたらどうかとも言われたそうですけど、将来的にお笑い以外でやりたいことってありますか。

大悟「たしかに又吉にそんなん言われて、一回書いてみようかなと思ったんですけど、いざノート開いたら1文字も出てこんかったんで。将来はまあ、ずっとこんな仕事やれてたら最高ですけど、それが無理やったら無理で、タバコ屋かたこ焼き屋をやろうかなって思いますね」

── ファンからすれば、大悟さんには小説とか書かずに、お笑い一筋でいてほしいっていうのはあるかもしれませんね。

大悟「まあ、でもね、いま、なかなかお笑い番組もないですしね。そうなってくると早めにカネためて、東京で4畳ぐらいの土地買ってタバコ屋を……」

ノブ「何でタバコ屋に固執してんねん(笑)」

こうしたやりとりを見ていると、やはり千鳥の笑いは、芸人肌の大悟と真面目なノブと対照的な2人がいてこそという気がしてくる。プライベートでは酒で失敗することもよくあるらしい大悟だが、ノブは「そのおかげで僕は助かってますけどね」と話す。

ノブ「相方のダメなことも全部ネタになるんで。飲みすぎてロケにズボン穿かずに来ることもあったりして、これがサラリーマンだったら大悟は即クビになってるでしょうけど、こういう仕事なんで全然ありがたいですね」

コンビだから笑いにできる。たとえ単独での活動が増えても、千鳥のベースがそこにあることはきっと変わらないだろう。

CHIDORI
大悟(左)は1980年3月25日生まれ。ノブ(右)は1979年12月30日生まれ。いずれも岡山県出身で、高校で出会う。コンビ結成は2000年。03年、M-1グランプリの決勝に出場して全国的に注目される。大阪から東 京へ進出後、16年にテレビ東京『NEO決戦バラエティ キングちゃん』で初めて在京キー局でMCを務めたことなどを機にブレイクを果たした。