Who is Lawrence Ho?

ローレンス・ホーとは何者か?──日本版IRの仕掛人

スロット、ポーカー、ルーレット……といえばカジノ。21世紀の統合型リゾート(IR)はカジノを備えるが、カジノは提供される娯楽のごく一部でしかない。世界でIRを手がける若きCEO、ローレンス・ホーとは何者か?そしてかれは、日本で何を仕掛けようとしているのか? 文・川上康介 写真・鷲崎浩太郎
ローレンス・ホーとは何者か?──日本版IRの仕掛人
1980年代の日本に刺激を受けた

世界中で統合型リゾート事業(Integrated Resort 以下IR)の開発・運営を手がけるメルコリゾーツ&エンターテインメント・リミテッドのローレンス・ホー会長兼CEOにとって、日本は特別な国だという。

「35年前に初めて行った外国が日本。80年代の日本はスペシャルなパワーを持った場所でした。きらびやかで近未来的なのに、歴史や伝統に対する尊敬の念も持っている。その調和やディテールへのこだわりに衝撃を受けた記憶があり、それ以来日本への特別な思いは変わりません。あれから200回以上、日本に来ていますが、いまも日本が大好きです。温泉は箱根の『強羅花壇』、天ぷらなら小川町の『天政』、寿司は銀座の『鮨かねさか』などが気に入っています」

昔の香港映画であれば、カジノのトップといえば、マフィアの首領。どんな人物なんだろうと思っていると、マフィアとはかけ離れた洗練された雰囲気の若きジェントルマンが現れた。会った瞬間、そんな率直な感想を口にすると、彼は声をたてて笑った。

「IR=カジノ、ギャンブル=マフィアという印象を持っている人は多いと思います。でも、私にとってIRはあくまでもエンターテインメント・ビジネス。私たちは、カジノではなく”ゲーミング”と呼んでいますが、私たちが手がけるIRでは、ゲーミングはレストランやショッピング、エンターテインメントと同じくリゾートの柱のひとつ。そこに行けば、家族みんなで充実した時間を過ごせる場所がIRなんです。カジノを超える歓び、楽しさを提供したいと思っています」

子どものころの夢は、プロスポーツ選手になることだったという。

「生まれたのは香港でしたが、9歳のときにカナダに移住しました。どんな人をも受け入れるカナダのダイバーシティ&インクルーシブな大らかさは、私の人生の糧となり、我々のビジネス、さらに東西のベストな組合せを探し当てることにも大きな影響を与えています。カナダで大学を卒業したあと、香港の投資銀行に就職したことがゲーミングビジネスへの足がかりになりました。2002年頃、それまで地元企業に独占されていたマカオのカジノマーケットが開放されたんです。これを機にマカオにより良い施設を作り、ゲストにより良い体験を提供するというビジョンで、IRの開発と運営を始めました。1980年代のカジノの雰囲気のまま一時は荒んだ状態になっていたマカオも、いまやラスベガスの6倍のビジネス規模に成長しました。それだけのエネルギーを秘めていたのです。カジノでギャンブルだけを提供していたのでは、ここまでの成長はできなかったでしょう」

ミシュランの星付きレストランを招聘し、世界のどこにもないショーを展開。マカオのイメージそのものの変革にメルコリゾーツが果たした役割は大きい。マカオで大きな成功をおさめた同社は、以後、フィリピンやキプロスにも進出。わずか十数年で世界から注目される企業へと成長した。

「開業したころは、まだ若く、資金を獲得するのは大変でしたが、銀行での金融経験を生かし、IRの開発資金を株式と銀行融資の組合せで調達しました。それ以後ひとつずつ結果を出すことで、信頼を積み重ねてきました。成功できたのは、人との出会いに恵まれたから。単に金を儲けようということではなく、クリエイティブな才能やマインドを持った仲間、パートナーがいたからここまでやってくることができたんだと思っています」

語り口は朴訥で誠実。必要以上に自分を大きく見せようと虚勢を張るような人物ではないように思える。そんな彼がいま、本気で目指しているのが日本でのIR展開だ。

文化・芸術・環境……
日本独自のIRを造りたい

「日本でのIR展開はまだ先、具体的には東京オリンピック後になると考えています。でも、もし実現することができたら、これまで世界にないレベルのアメージングなIRを造ることができると信じています。2020年以降も、日本を訪れる観光客はどんどん増えていくでしょう。もっと爆発的なエネルギーが生まれる可能性があります。私は日本が大好きですが、すべてを知り尽くしているわけではない。マカオでもマニラでもキプロスでも、私が心がけてきたのは、現地の人々、地元企業の方とのパートナーシップを強めること。ラスベガスのIRをそのまま持ってくるような開発ではなく、日本の文化・芸術・環境に即した、日本独自のIRを造ることができれば、持続可能なビジネスに成長していくと信じています。そのためにいま一生懸命、この国について勉強しているのです」

メルコリゾーツでは、世界中のトップアーティストと日本の京友禅などの着物作家がコラボレートする「KIMONO ROBOTO」というプロジェクトに取り組み、各地でエキシビションを展開している。そこにある伝統が如何に未来をインスパイアするのか。そこには、彼らが目指すIRのビジョンが隠されている。

「最新のテクノロジーと最高の才能、そしてこれからも守るべきレガシーを融合することで、未来を刺激し、文化をつないでいくことができるんです」

日本ではIR=カジノというイメージが強い。それはIRの一面だけれど、一面でしかない。もし彼が理想とするような日本の芸術、思想、環境や伝統をもIntegrate(融合)したリゾートが生まれるのであれば、そこから新しい”カルチャー”が生まれてくる可能性がないとはいえない。ローレンス・ホーは、その気でいる。

テクノロジーと才能と レガシーを融合して 未来を刺激する

「KIMONO ROBOTO」では、ビョークなど、世界中で活躍するアーティストと、京友禅、加賀友禅などがコラボレーション。
メルコリゾーツが手がけるマカオのIRでの水上ショー「ザ・ハウス・オブ・ダンシング・ウォーター」。ゲーミング以外のエンターテインメントにも力を入れている。
ローレンス・ホーメルコリゾーツ&エンターテインメント・リミテッド会長兼最高経営責任者(CEO) トロント大学を卒業後、香港の投資銀行へ。2001年、メルコ・インターナショナル・ディベロップメント・リミテッドの経営権を取得。マカオで「アルティラ・マカオ」「シティ・オブ・ドリームス」「スタジオ・シティ」を手がける。現在、フィリピンやキプロスにも進出。
日本版IRのイメージ画像。ローレンス・ホーCEOが感銘を受けた日本の「御来光」の美しさも表現されている。