メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・アクター賞 大泉洋──「笑い」も「演技」も手放したくない

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で冷血非道な源頼朝を演じ、「日本中を敵にまわした気がした」。でもどんな悪役をやったところで彼の人気が衰えることはない。ドラマや映画、CM、バラエティと活躍の場を拡げ続ける大泉洋にメン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・アクター賞を贈る。
メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・アクター賞 大泉洋──「笑い」も「演技」も手放したくない
忘れられない景色があるという。

「8月に静岡の三島でパレードをしたんです。大河ドラマで頼朝役をやった縁で、3年ぶりに開催された三嶋大社の『頼朝公旗揚げ行列』というイベントに参加させていただいて、2キロ近くをパレード。10万人って言ってたかな、とにかく沿道にたくさんの人がいて、『頼朝さまー』とか『洋ちゃーん』って手を振っている。僕なんて金メダルとったわけでも、なにかで優勝したわけでもない。大泉洋ってだけだとパレードもできないし、人もあんなに集まらないですよ。あれは得難い経験。役者をやっていてよかったなあと思いましたね」

ジャケット ¥550,000、パンツ ¥176,000、スカーフ、カットソーともに参考商品by TOM FORD(トム フォード ジャパン)

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で演じた源頼朝役が大きな話題となった大泉洋。ドラマ前半のメインキャストとして、撮影は昨年の6月から約10カ月にも及んだ。

「最初に脚本の三谷幸喜さんから『大河で源頼朝をやってほしい』と言われたのは、もう数年前のことでした。そのときは教科書レベルの知識しかないから『え、頼朝ですか。初代征夷大将軍ですよね。カッコいいじゃないですか。僕でいいんですか?』なんて喜んでいたんですよ。でも、いよいよ撮影が近づいてきて頼朝のことを勉強し始めたら、なんだかエゲツない人だなと思い始めましたね(笑)。三谷さんに聞いたら『そうそう、頼朝は歴史ファンからめちゃくちゃ嫌われてます』って。でもそこは三谷さんがうまい具合に書いてくれるのかなと思いきや、『僕は美化するつもりはありません。大泉さんにとっては大変な役になるかもしれませんね』と。実際、ドラマが進むにつれて日本中を敵にまわしているなという感じはありましたよ。ある旅館に行ったときなんて、そこの女将さんから『頼朝ひどい人よねえ……あたし、大泉さんまで嫌いになっちゃった』とハッキリ言われましたから(笑)」

いっぽうで、それだけ嫌われる役を演じられたことに手応えも感じていたという。

「そこまで思ってもらえるのは役者冥利に尽きますね。でも、頼朝がドラマを退場してから〝頼朝ロス〟みたいに言ってもらうこともあって、悪役をただの嫌われ者で終わらせないのは、さすが三谷さんだなと思いました」

カーディガン ¥343,200、パンツ ¥104,500、シューズ ¥137,500 by Maison Margiela(マルジェラ ジャパン クライアント サービス)デスクに置いた眼鏡 ¥74,000 by 金子眼鏡(オプティシァン ロイド)

日本のエンターテインメントのど真ん中

軽妙なトークは、カメラがなくても観客がいなくても変わらない。真剣に話したかと思えば笑いをはさみ、馬鹿話と思いきやふと素の大泉洋が垣間見える。インタビューをしていると、まるで〝大泉洋トークライブ〟の司会をしているかのような気分になってくる。

思えば、最初は北海道で人気のローカルタレントという立ち位置で面白がられていた。でも気がつけば、日本のエンターテインメントのど真ん中。今年だけでも『鎌倉殿の13人』のほかにフジテレビの月9ドラマ『元彼の遺言状』に出演。NHKの音楽番組『SONGS』などでMCをつとめながら、北海道ローカルのレギュラー番組も3本継続。さらには、TEAM NACSの25周年ということで記念の映像作品『LOOSER2022』を公開。ゲスト出演したバラエティや舞台もあれば、主演映画『月の満ち欠け』の公開も12月に迫っている。そして年末は3年連続でNHK紅白歌合戦の司会。1995年、北海道でタレント活動を始めたときは、いまの自分を想像できていたのだろうか。

「こんなふうになるなんてことは思っていませんでした。でも、もともと楽観的な人間なので、なんとなくうまくいくんじゃないかなという気持ちは漠然と持っていました。こうしたことを言うと生意気に聞こえるかもしれないけど、僕は売れたいとか、忙しくなりたいとか思ったことないんですよ。北海道でテレビに出始めたらすぐ人気者になってしまって、気軽に外も歩けなくなってしまった。それを面倒くさいと思っていたのに、30歳すぎて今度は東京の大手事務所と契約することになりまして、その時思ったわけですよ。これはさらに面倒なことになるぞと。それもあって、契約するときに東京のマネージャーに『僕をブレイクさせないでほしい。ボーンと人気が出て、スーッと消えるような芸能人になりたくないんです』と言ったんです。マネージャーはポカンとしたと思いますよ。北海道からきた30過ぎのオッサンが『ブレイクさせないでほしい』と言ってるって(笑)。『ブレイクすると思ってるよこの人』みたいな。いま思えばとんでもない勘違い男ですけど、そのころは本気でそう思っていたんですよ。だから大きなCMの話も断ったりしていました。『そのCMに出ちゃうと芸能人っぽく見えてしまうので悪いけど断ってほしい』と。マネージャーはふざけるなって思ったでしょうね(笑)」

だが、エンタメ業界は大泉洋を放っておいてくれなかった。「がむしゃらにやってきたつもりはない」と本人は言うが、もう10年以上仕事が途絶えず、思うように休みの取れない日々が続いている。

「40歳になったら少しゆっくり、じっくりと仕事をしていこうと思っていたんですけどね。どうしてこうなってしまったんだろう(笑)。一応、事務所と相談しながら仕事を選んでいるんですよ。でも話があると、それもやりたい、それも出たいとなってしまう。それで気がつくとパツパツのスケジュール。この間もある仕事をやりたいと言ったら、マネージャーにスケジュール的に無理ですって言われて泣く泣く断りました。やりたいと思える仕事があるのは、すごくありがたいと思っています」

みんなが喜ぶ大泉洋

大泉自身は、ここまで忙しくなった自分の〝武器〟はなんだと思っているのだろうか。

「武器という感じではないのですが、自分のなかで大切にしているのは〝振り幅〟ですかね。頼朝のような役をやりながら、バラエティで求められれば全身タイツも着る。『頼朝までやった俳優にこんなことさせるのか』ってボヤきながらもやるっていう(笑)。いっぽうで、『月の満ち欠け』のようなシリアスな映画で、シリアスな演技もやる。もしかすると僕の演技を観ても、『水曜どうでしょう』でふざけている大泉がチラつく人もいるかもしれない。それを感じさせないだけの演技をするというのが、僕が俳優をやるときに抱えている大きな課題だと思っています」

笑い」と「演技」のどちらかを手放す、という気持ちもない。

「いまの自分が天職だと思っているんです。演じるのも好きだし、人を笑わせるのも好き。僕にはこれしかできないし、両方ともずっとやっていきたいと思っています」

あるTVディレクターに大泉洋がこれほどまでに売れた理由を尋ねたところ、2つの要素を挙げてくれた。ひとつは「なんでもできる」こと。演技もトークもMCもできれば歌も達者。どんな番組、どんな役割でも期待以上の答えを出してくれる。そしてもうひとつは「現場の空気をよくしてくれる」。ディレクター氏いわく「大泉さんは演者と製作側、両方に気をつかってくれるから、現場の雰囲気がよくなる。製作側にとってもすごく助かる、ありがたい人」だという。本人はそういったまわりの評価をどう思っているのだろうか。

「どんな現場でも、その場の雰囲気をよくしたいと思っているのは間違いないです。とにかく僕自身が空気の悪い現場にいたくないんですよ。なんだかピリピリした現場より、和気あいあいとした現場にいたいじゃないですか。たまに気をつかいすぎることもありますが、やっぱり楽しい現場のほうがいい。そうやってまわりに気をつかえる人間、自分よりまわりの人の幸せを考えられる人間でありたいとは思いますね。両親の教育のおかげもあったかもしれませんね。親には感謝しています。でも裏を返せば、『俺はこうしたい』って貫きたいほどの自分がないのかもしれない。まったくないわけじゃないんです。そこが僕のダメなところなのですが、その自分なりの何かみたいなものを追求するのが、面倒になっちゃう(笑)。それならまわりに求められることをちゃんとやろう、みんながよろこぶ大泉洋を出していこうと。優等生みたいだなと思うこともあるし、好き勝手にその壁を超えたいという気持ちもあるのですが、どうしてもみんなに迷惑かけちゃうかなと思って突き抜けられないんですよね……」

カーディガン ¥253,000、ニット ¥234,300、パンツ ¥135,300、ブーツ ¥148,500 by HERMÈS(エルメスジャポン)

来年には50歳の節目を迎える。自らが言う〝壁〟を突破して、NEW大泉が現れる可能性はあるのだろうか?

「いま娘が小学生で、一緒に遊んでくれるのもあと数年。その間はなるべく彼女との時間を過ごしたいなという気持ちがあります。でも中学生になってこっちを見向きもしてくれなくなったら、長い時間かかる振り切った仕事もできるかもしれない。無人島に半年行きっぱなしみたいな役とか。映画の監督をやるとか。いままで通り、仕事仕事ってがむしゃらになることはないと思いますけど、心のどこかには、この先、もしかしたらもっと新しい自分になれるんじゃないかという期待もあるんです」

自分だけでなく、みんなをハッピーにしたい。娘や家族との時間を大切にしたい。そういう彼だからこそ、多くの人から愛されるのだろう。でもいっぽうで、そんな壁を突き破り、誰も思いつかないようなとんでもないことをしでかす大泉洋を見てみたいと思うのは、私だけではないはずだ。

WORDS BY KOSUKE KAWAKAMI STYLED BY NORIHITO KATSUMI @ Koa Hole Inc.   HAIR STYLED & MAKE-UP BY TATSUYA NISHIOKA @ Leinwand  COOPERATION BY BACKGROUNDS FACTORY

【撮影の様子を公開】

撮影の様子をおさめたショートムービーを、Instagramで公開中!

GQ JAPAN公式Instagramアカウント( @gqjapan )をフォローして、ぜひチェックを!

▼ショートムービーはこちら
https://www.instagram.com/p/CmSi48XBwju/