カン・ドンウォンが語る、映画『ベイビー・ブローカー』と是枝裕和監督のこと

カンヌ国際映画祭で2冠を獲得した是枝裕和監督の最新作が6月24日(金)に公開された。これを機に、韓国映画界を代表する豪華俳優陣が緊急来日! 『GQ JAPAN』は運良く、カン・ドンウォンに話を訊くことができた。
カン・ドンウォンが語る、映画『ベイビー・ブローカー』と是枝裕和監督のこと
UTSUMI

『ベイビー・ブローカー』は、各登場人物にストーリーがあり、それらが束になって進んでいくような映画だ。赤ん坊を売ろうとするブローカー2人組をソン・ガンホとともに演じたのが、『MASTER/マスター』(2016)、『1987、ある闘いの真実』(2017)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)などのスター、カン・ドンウォン。彼が演じた「ドンス」のストーリーとは、是枝監督とのコラボレーションとは? 6月下旬の東京で、短時間ながら単独インタビューの機会を得た。

──是枝監督とは以前からお知り合いだったそうですが、そのきっかけは何でしょうか。また、今回一緒に仕事をしてみて、それまで監督に対して持っていた印象が変わった部分はありますか。

カン・ドンウォン(以下、GD):2016年に東京のホテルのロビーで、偶然お会いしたのが最初です。そのあときちんとアポイントメントを取って、何か一緒にできるプロジェクトがあるといいですねというお話をしました。その後、実際に提案していただいたお話が、今回の映画のもとになっています。是枝監督に対しては、とてもソフトで優しそうなかただという印象を持ちました。一緒にお仕事をしてみても、実際そのとおりのかたでした。

『ベイビー・ブローカー』より。カン・ドンウォンさんは、ソン・ガンホさん演じる「サンヒョン」と、“赤ちゃんブローカー”としてタッグを組む、児童養護施設出身の「ドンス」を演じた

──是枝監督の演出の特徴を挙げるとしたらどのようなものでしょうか。

GD:リハーサルを見て演出の方向性を変更したり、とても柔軟に考えていらっしゃると思います。現場に行くと、前日とはコンテが変わっていたことも結構ありました。

UTSUMI

──監督がインタビューでお話しされているところによると、物語の大まかな骨子はもちろん撮影前に決まっていたけれども、細かい展開などは、撮影を進めながら俳優と相談して決まっていったそうですね。

GD:登場人物一人ひとりの物語を作り上げて、作品に厚みを持たせるためにそうされたのでしょうね。言葉が違うこともあり、もっと俳優と話をしなければいけない、という気持ちもあったのではないかと思います。僕の場合は撮影前から関わっていたので、事情が少し違います。プロットはあるけれどもシナリオはない、最初のシナリオを書いていく段階から関与していたわけです。

『ベイビー・ブローカー』より。中央は、イ・ジウンさん演じる「ソヨン」

──ドンスを演じるために、ご自身でも何か取材をしたり、誰かに会ってお話を聞いたりということをされたのではないかと思うのですが、どのようなことをされましたか。

GD:児童養護施設の関係者のかたと、施設で育ったかたにお話を聞きました。そのお話から得たものを監督に伝え、話し合った結果をドンスの感情に反映させています。

施設のかたからは、養子になって家庭で育ちたいという気持ちを子どもたちは強く持っている、というお話を聞きました。また、施設出身のかたは、もうかなりの年齢になっているのですが、それでもまだお母さんを恋しく思っているとお話しされていました。

『ベイビー・ブローカー』より

──ドンスがウソン(赤ん坊)を抱いている姿から、まるで性格の異なる映画ではありますが、『群盗』(2014)のクライマックスを思い出しました。あの映画であなたが演じた人物は、「この子は俺なんだ」という気持ちから、赤ん坊を抱えたまま手放せずにいましたね。

GD:ドンスも、自分と同じとまでは行かないとしても、ウソンに自分を投影しているところがありますね。だからウソンにはできるだけいい家庭にもらわれてほしい、そうすれば自分のようにはならないで済むと考えている。そして同じ脈絡から、ソヨンには自分の母親を投影しています。

UTSUMI

──イ・ジウンさんが演じるソヨンと、観覧車のなかで向き合うシーンが素晴らしいですね。ドンスがソヨンの顔の前に手をかざしますが、あれはどなたのアイディアだったのでしょうか。

GD:あの動きはシナリオに書かれていました。目の部分にモザイクがかかるとこんなふうに映るのかな、という台詞と一緒に。ところが、韓国ではそういうモザイク処理をすることはないんです。だからこの動きはやらないほうがいいという反対意見もあったんですよ。でも僕は、監督が考えているこのシーンのイメージがとても気に入っていました。演じる自信もありました。そこで、モザイクというよりは涙を隠すという意味で、その手の動きをすればいいと考えました。

『ベイビー・ブローカー』より

GD:ジウンさんの目に涙がたまってきて、流れ落ちる瞬間に手を顔の前から外しました。これは僕のアイディアです。彼女と撮影前にタイミングを打ち合わせたりはしませんでしたが、そろそろだと感じて外したら、ぴったりタイミングが合いました。もちろん、涙がこぼれそうになったら手を外します、ということは、監督には事前に伝えていました。

──あのシーンは狭い場所での撮影だから、おふたりのほかはカメラマンさんだけしかいなかったのでしょうね。

GD:そうです。監督は下で待っていました。観覧車は4人しか乗れないので、ジウンさん、僕、カメラ、ホン・ギョンピョさん(撮影監督)で満員。でも、狭い空間ですぐ横に撮影監督のかたがいらっしゃるというのは、なかなか感情を入れるのが難しい状況でしたね。あと、すごく暑かったです(笑)。

UTSUMI

──赤ちゃんと一緒のシーンも、難しいことが多かったのではないかと思いますが。

GD:それがほんとうにいい子で、泣かないし、むずかったりもなくて、すごく順調に撮影が進んだんです。最初はまだひっくり返ることもできなかったんですよ。ところが1カ月ぐらい撮影が進んだところで、寝返りができるようになった。そうしたらそれからは、すきあらばひっくり返ろうとするので、それを戻すのがたいへんでした(笑)。

──可愛いエピソードですね(笑)。今日はありがとうございました。

UTSUMI
『ベイビー・ブローカー』

6月24日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
© 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED 
配給:ギャガ
公式ホームページ:https://gaga.ne.jp/babybroker/

カン・ドンウォン(강 동원/Gang Dong-won
PROFILE
1981年1月18日、韓国・釜山広域市生まれ。大学時代にモデル活動を始め、2003年にMBCドラマ『威風堂々な彼女』で俳優デビュー。CMやドラマを中心に活躍し、04年に映画界へ転向。代表作に、ソン・ガンホと共演した『義兄弟 SECRET REUNION』(10)や『群盗』(14)、『MASTER/マスター』(16)、『ゴールデンスランバー』(18)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)などがある。

篠儀直子(しのぎ なおこ)
PROFILE
翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』(以上青土社)『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(DU BOOKS)『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社)など。

写真・UTSUMI

是枝裕和監督最新作『ベイビー・ブローカー』をもっと面白く観るための是枝映画3選
6月24日(金)に、カンヌ国際映画祭で2冠を獲得した是枝裕和監督の映画『ベイビー・ブローカー』が公開される。観る前でも観た後でも、是枝監督の歩みをもっとよく知ることができる3作品を、篠儀直子がセレクトした。
『ベイビー・ブローカー』是枝裕和監督インタビュー
第75回カンヌ国際映画祭2冠! 『パラサイト』のソン・ガンホをはじめ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨンと、韓国の錚々たる俳優たちが豪華共演する傑作が、6月24日(金)に公開される。是枝監督に話を訊いた。その前編。