CULTURE

ヒュー・ジャックマン、新作『レミニセンス』と家族を語る

9月17日(金)公開の『レミニセンス』は、人の記憶を蘇らせるビジネスの主人公が暗躍するSFサスペンス・スリラー映画だ。主演のヒュー・ジャックマンにLA在住の映画ジャーナリストの猿渡由紀がZOOM取材をした。
ヒュー・ジャックマン、新作『レミニセンス』と家族を語る
2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

SFで、フィルムノワールで、犯罪アクションで、恋愛映画。夫のジョナサン・ノーランと共に製作したSFドラマ「ウエストワールド」を大成功させたリサ・ジョイの監督デビュー作『レミニセンス』は、そんないくつもの要素が絡みつつ、独特の世界を展開していく。

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舞台は近未来のマイアミ。退役軍人のニック(ヒュー・ジャックマン)は、テクノロジーを使って、客が求める記憶をもう一度体験できる商売を行っている。そんな彼の店へ、ある夜、予約もなしに美しい女性メイ(レベッカ・ファーガソン)が訪れた。そこからニックの人生は大きく変わっていくことになる。

ニック役にヒュー・ジャックマンを切望していたジョイ監督は、まずメールを送り、返事が来るとすぐL.A.から彼の住むニューヨークまで飛んで、この映画を売り込んだ。「この役にはあなたしか考えられないのです」と言われたのは、ハリウッドきっての売れっ子であるジャックマンにとってですら、感激だったという。

「そんなふうに言ってもらえるなんて、すごく光栄なことだよ。とは言っても、頭の片隅で、『本当かな?実はブラッド・ピットに断られたから僕のところに来ていたりして』なんてちらっと思ったりはしたが(笑)。これは、彼女が最初に書いた映画の脚本。しかも、5年か6年も前に書いているんだ。そんな特別なものを僕に託してくれたなんて、とても嬉しい」

ニックの店に来た客はバスタブに浸かり、ニックの誘導のもと、望む記憶に戻っていく。その記憶はプロジェクターのように映し出され、ニックも見ることができる。その夜やってきたメイの記憶を見て、彼女がナイトクラブで歌っていることを知ったニックは、彼女が忘れていったピアスを返すことを言い訳に、そのクラブに足を運んだ。そして彼はすっかり彼女に惚れ込んでしまうのだ。彼の仕事のパートナー(タンディ・ニュートン)がメイに不信感を覚え、「あなたは彼女を知らない。きちんと彼女を見ていない」と忠告しても、有頂天になっている彼の耳を通り過ぎるだけ。そして、ある日突然メイは姿を消してしまうのである。

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「恋に落ちた時、自分は相手のことを本当に知っているのだろうか? この人にはこういう人であってほしいという自分の願望を相手に投影しているのではないか? 自分が必要としているもの、自分が望むものを。後になって、『自分はどうしてあんな人と付き合ったんだろう』と思うこともあるよね。『自分はあの時、一体何を見ていたのだろう』と。そこが愛の面白いところなんだけれど。恋のはじまりで、人は盲目になる。睡眠時間が足りなくてもなぜか平気だったり、バブルの中にいるんだ。ニックは、その真っ最中に、それを取り上げられてしまった。彼女に完全に夢中だった時に」

メイを忘れられないニックは、彼女がニューオリンズにいるかもしれないという手がかりを得ると、急いで現地に向かう。そこで思いもしなかったことに巻き込まれ、どんどん深みにはまっていく。そして物語は、切ないというのともまた違う、なんとも言えない結末を迎えるのだ。

「あのエンディングはすばらしいよね。僕もすごく心を動かされた。あそこには、愛と喪失の、すべてが詰まっている。あれこそヒューマニティだ。この物語は、予測がつかない。脚本の最初の数ページは、『(俳優の)ハンフリー・ボカートが出る映画みたいだな。この後はだいたい想像がつくぞ』と思って読んでいた。そうしたら全然違うほうに行くんだよ。そうやっていろんなことが積み重なっていく。とても美しく、我慢強く、繊細で、オリジナルな形で」

そう語るジャックマン自身も、強烈な恋愛を経験している。幸いなことに、彼はきちんと相手を見ていた。その女性デボラ・リー=ファーネスとは、結婚して今年で25年。幸せな結婚を長く続けられてきた最大の秘訣は、「自分にとって正しい相手を選ぶこと」。とは言っても、もちろん努力もしている。

「僕らの間には、いくつかシンプルなルールがある。たとえば、怒ったまま寝ないこと。意見の食い違いがある場合は、寝る前に解決する。そのせいで遅くまで起きていないといけなくなることもあるよ。それと、2週間以上お互いと離れることはしない。僕らはお互いに対して正直だ。正しい相手を選ぶと、常に素の自分でいられる。フリをしなくていい。人はみんな、どこかで自分と違うもののフリをする。でも人生のパートナーに対しては、そのままを見せ合わないと。そして、そんな相手を受け入れるんだ。その人を、その人として愛するのさ。そうじゃないと続かない」

夫妻が育てる養子も、もう20歳と15歳になった。パンデミックのロックダウン中、ジャックマンは、家族と充実した時間を過ごしたようだ。

「20歳や15歳の子供は、親と一緒に時間を過ごしたいと思わないものだけれど、あの時期を通じて、僕はわが子をもっと良く知ることができた。ジグゾーパズルをしたり、パンを焼いたりしてね。普段、僕らはみんな速いスピードで生きている。幸運にも僕は健康だし、自分の人生を見直す機会になったというポジティブな側面もあった。そのことに感謝しているよ」

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『レミニセンス』
都市が海に沈み、水に支配された世界で、〈記憶潜入エージェント〉として暗躍するニックに、検察からの仕事が舞い込む。新興勢力のギャング組織の男が瀕死の姿で発見された。彼の記憶に潜入し、ギャングの正体と目的を掴めという依頼だ。彼の記憶に映し出された事件のカギを握る謎の女性メイを追って、多くの人々の記憶に潜入(レミニセンス)するニックは、だが、膨大な記憶と映像に翻弄される。そして、予想もしなかった陰謀へと巻き込まれていく――。9月17日よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー。

文・猿渡由紀