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東京2020オリンピックを振り返る! 辛酸なめ子の私的印象場面とは?

8月8日、東京2020オリンピックが閉会した。17日間の会期を通し、印象的だったシーンをマンガ家・コラムニストの辛酸なめ子さんが振り返る。
東京オリンピック TOKYO2020 OLYMPIC 五輪 橋本聖子 バッハ会長 IOC パラリンピック 東京音頭 閉会式 スケートボード・男子パーク  アーティスティックスイミング
24 July 2021, Japan, Tokio: Olympia: Opening ceremony in the Olympic Stadium. The Olympic fire is burning. Photo: Swen Pförtner/dpa (Photo by Swen Pförtner/picture alliance via Getty Images)picture alliance
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テレビの向こうで繰り広げられた東京2020オリンピック。テレビでのリモート観戦が感染を防ぎ、1番体力的にラクだったと実感させられました。

仕事中、テレビをつけていると、ボールを打ったり、肉体がぶつかり合ったりといった試合の音が聞こえてきて励まされることも多かったです。

ワクチンの副反応でダウンしていたときは、例えばスケートボードの選手が転んでも痛みを見せずにスッと起き上がる姿を思い出し、乗り切ることができました。

総じて言えるのは、真剣にスポーツに打ち込んでいる人間は美しい、ということです。ただPCやタブレットの前に座っている自分とさまざまなギャップを感じつつ、心に残った試合やイベントを振り返ってみます。

(1)スケートボードの男子パーク

スケートボード・男子パークで、金メダルを獲得したオーストラリアのキーガン・パーマー選手(Photo by Ezra Shaw/Getty Images)。

Ezra Shaw

スケートボードのフリースタイルではプロスケートボーダーの瀬尻稜氏の「ゴン攻め」とか「鬼ヤバい」「ビッタビタ」といった解説のワードが話題になっていました。今回のオリンピックで選手の発する言葉よりも目立っていたパワーワードです。

パークの実況はおとなしめでしたが、その分パフォーマンスを集中して見ることができました。予選では、オーストラリアのキエラン・ウーリー選手がカメラマンと激突するハプニングがありましたが、そのあとグータッチしている姿に和みました。オリンピックという大舞台の試合なのにどこか平和な空気が流れています。

でも危険と隣り合わせで、転倒が相次いでいましたが、痛みを見せない姿に感動。そして自分が失敗しても仲間を称え、ハグし合う姿が美しかったです。

美しいといえば、選手たちが汗をTシャツで拭く瞬間、腹筋がチラ見えしていて目の保養になりました。予選で敗退してしまいましたが、南アフリカの46歳(ヒゲに白いものが……)、ダラス・オーバーホルツァー選手は、母国で子どもたちのためにパークを作ってまわっているという人格者だとか。インタビューでの「失うものはなく、証明するものもない」という言葉が達観していました。

本戦で金メダルを獲得したオーストラリアのキーガン・パーマー選手も、天使のようなルックスで、重力を感じさせないジャンプでは背中に羽が見えました。今回スケボー界に逸材がたくさんいることを知れただけでも良かったです。

(2)アーティスティックスイミングのフリールーティン

“祭”とプリントされた水着を着用し演技に挑む日本代表(Photo by Fred Lee/Getty Images)。

Fred Lee

日本は惜しくも4位になってしまいましたが、一糸乱れぬパフォーマンスは圧巻でした。情報番組で紹介された時「氏神様がツイッターで和歌をつぶやいたら……」といった演出プランが聞こえてきて、この斬新な世界観は必見だと思い、観賞。

蛍光色を多く使い“祭”とプリントされた水着のパンチ力も相当ありました。ネットではダサいとか言われていましたが、一周まわって“COOL JAPAN”だと思います。

さまざまな祭りを融合させた構成で、「せいやせいや!」といったかけ声が流れたり、水中ジャンプして和太鼓を叩くような動きをしたり、途中氏神様パートなのか和歌が流れたり、祭りの楽しさが凝縮されていました。

「今日は強いです」と実況の人も評価していましたが、ロシアオリンピック委員会や、中国、ウクライナは強敵で、それぞれ高速足技やナナメ回転ジャンプ、足がまっすぐ伸びたストレッチ力などを見せつけてきて、メダル獲得は叶いませんでした。

でも、夏祭りの中止が相次ぐ中、水中から祭りのエネルギーを届けてもらえたようです。

(3)閉会式

閉会式の諸行無常感のおかげで、金27銀14銅17というメダルラッシュの祝祭気分に浸ることなく、スッと現実に戻ることができました。

前半、光の粒子が集まって五輪マークになる演出に感動していたら、テレビ画面だけで見える合成画像だったとは……。海外メディアも、空中に光が浮かび上がったと信じていたようですが、実際の会場では見えていなかったようです。一切は無であり、諸行無常……。

閉会式では『東京音頭』も流れた(Photo by Jean Catuffe/Getty Images)。

Jean Catuffe

現実には存在しない“休日の公園”の演出を見ているうちに、さらに無の境地が高まりました。選手入場のときよりも、長い時間、役者やミュージシャンの姿が抜かれるのはちょっともったいない気がしました。もっと各国選手の姿を映してほしかったです。

そしてまたもや国際オリンピック委員会のバッハ会長と東京オリンピックパラリンピック組織委員会の橋本会長のスピーチは長かったです。橋本会長のスピーチ時、演台の五輪マークにとまっていた蛾が、1番まじめに話を拝聴していたようです。生物の多様性を感じさせます。

スピーチする橋本聖子氏。演台の五輪マークには、1匹の蛾が止まっていた(Photo by Dan Mullan/Getty Images)。

Dan Mullan

バッハ会長にいたっては、話が終わった感を出して拍手を浴びてから「確かに……」「同様のことが……」と、話し出す、というのを3回くらい繰り返していて、もしかしたら彼は嫌われ役をわざと演じているのかも、と、思えてきました。

パリへの引き継ぎのライブ中継では、フランス空軍による、赤と白と青の煙を出しながらのアクロバット飛行など圧巻でしたが、日本の閉会式はあえて地味めにすることでパリに花を持たせたのかもしれません。

同時にパリでは、フランス空軍による、赤と白と青の煙を出しながら三色旗を描くアクロバット飛行がおこなわれた(Photo by Vincent Koebel/NurPhoto via Getty Images)。

NurPhoto

さまざまなトラブルや紆余曲折があり、社会の闇が露わになった今回のオリンピックですが、選手たちの笑顔や汗や涙によって浄化されたと信じています。