愛車の履歴書──Vol20. 今井翼さん(前編)

愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第20回の前編。俳優・タレントの今井翼さんが、かつて乗っていたボルボのステーションワゴンと久しぶりの対面!
愛車の履歴書──Vol20. 今井翼さん(前編)

850エステートを選んだワケ

「そうそう、このテールランプ! 僕たちはバルタン星人みたいな形だね、なんて言ってたんですけど、この形に憧れたんです」

そう言いながら、今井翼さんが歩み寄ったのはボルボの「850エステート」。大のクルマ好きで知られる今井さんのカーライフの出発点が、このボルボのステーションワゴンだった。

850はエステートのほかセダンも選べたが、日本では圧倒的にエステートの人気が高かった。

ボルボ「240」の後継車種として1992年に発表された850は、ゼロから新開発されたモデル。240はFR(フロントエンジン・リアドライブ)だったけれど、850はFF(フロントエンジン・フロントドライブ)レイアウトを採用し、話題になった。

また、ターボエンジンを積んだ高性能仕様はツーリングカー選手権でも活躍。ぱっと見、レースとは無縁に思える四角いボディがサーキットを疾走する絵ヅラは、実に新鮮だった。

撮影車両は高性能ターボエンジンを搭載したハイパフォーマンスグレードの「R」だった。

ホイールはR専用デザイン。駆動方式は前輪駆動。

フロントに搭載するエンジンはターボ付きの2318cc直列5気筒DOHC20バルブ。最高出力は250psに達した。

トランスミッションは4AT。

「このクルマはターボの高性能版ですが、僕が乗っていたのは普通の5気筒エンジンのモデルでした。正確な年式?は思い出せないんですけど、買ったのは1990年代の後半だったと思います。後継モデルのボルボ『V70』も発表されていて、どっちを選ぶか迷ったことを覚えています。V70は、もうちょっと丸っこいスタイリングでしたよね。結局、カクっとしたスタイルの850を選んだわけですけど、いまあらためて眺めると、この四角い850が最初のクルマでよかったかな。こんなに角ばった形のクルマには乗ることもないと思うので」

初めて自分で購入するクルマとしてボルボ850を選んだ理由を尋ねると、今井さんは遠くを見るような目つきになって、こう振り返った。

「初めて購入した愛車だから、思い出深いんですよね」と、今井さん。

現代のボルボと異なり、物理的なスイッチが数多く並ぶインパネまわり。

「大きなクルマに乗りたいという気持ちがあったんですね。大きなクルマといってもいろいろあるんですけれど、街中で見かける大きなクルマでカッコいいと思ったのが850だったんです。クルマのボディカラーは今も昔も白が好きなので、色は迷いませんでした。850の場合はバンパーやボディサイドのモールに黒い樹脂パーツが入るので、白と黒のコントラストもすごく気に入っていましたね」

ボルボ850の運転席に座ると、「あーっ、このメーターだった」と、懐かしそうにメーターパネルを覗き込んだ。

シャツ 4万700円、パンツ7万5900円(共にEMPORIO ARMANI/ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社03-6274-7070)。

今井さんはクルマに乗り込むとオーディオのパネルを触りながら、「音質を調整出来るツマミが懐かしいですね!」と、話す。

メーターはアナログタイプ。走行距離に注目! なんと約69kmしか走行していない極上車だった。

「すごいシンプルで、使いやすかった記憶があります。納車されたときはめっちゃうれしくて、仕事の合間に楽屋で850の取扱説明書を読み込んだことを覚えています。トリセツを読むだけでわくわくしちゃうんですよ(笑)。友だちと出掛けたり、ひとりで遠出したり、このクルマは大活躍でしたね。とにかく荷物はたくさん載るし、後ろの席も広い。クルマで出かける楽しさを850に教えてもらった、みたいなところがあります」

ラゲッジルームに腰掛ける今井さん。

スクエアで広大なラゲッジルーム。さすが、ボルボのエステートだ。実用性はかなり高い。

人工皮革「アルカンターラ」を使ったシート。

リヤシート中央部には、世界初のインテグレーテッド・ブースタークッションを設置。4歳以上の子どもを対象とした車両組み込み型のチャイルド・セーフティ装備だ。

2台乗り継いだスポーツカー

ボルボ850の次の愛車として今井が選んだのは、ステーションワゴンから一転してスポーツクーペの5代目フォード「マスタング」だった。

「僕はステーションワゴンもスポーツカーも、それからSUVも、あらゆるスタイルのクルマが好きなんです。ただ、どちらかというと大きなクルマが好きだという傾向はあるみたいですね」

日本にも正規輸入された5代目マスタング。

2005年に発表された5代目フォード・マスタングは、ひとめでマスタングだとわかる形にするために初代マスタングのモチーフを散りばめつつ、モダンに仕上げたデザインが特徴だった。このデザイン戦略があたり、ヒット作となった。

「僕のマスタングは、限定仕様の『GTカリフォルニア・スペシャル』というモデルでした。もともとはパフォーマンスホワイトというボディカラーだったんですが、知り合いのクルマ屋さんに全塗装でマットブラックにしてもらったんです。内装にもこだわって、助手席のシートの下にLEDを仕込んで、スイッチを押すと間接照明みたいにポワーンと車内が明るくなるようにしました」

写真はGTカリフォルニア・スペシャル。内外装に専用パーツを多数装備。

今井さんがマスタングの次に選んだのが、メルセデス・ベンツのSL。クルマ好きの間では「R231」という型式で呼ばれる、SLとしては第6世代のモデルだ。

「SLはつや消しのグレーで、あれも気に入って乗っていました。ただ、SLはふたり乗り、マスタングも後席はあるにはあるけれど実質ふたり乗りだったので、今度は人や荷物を乗せるクルマにしたいと思いました。だからSLの後はSUVを選んで、いまに至っています」

2011年7月のデトロイトモーターショーで発表された6代目の「SL」。

Daimler AG - Global Communications Mercedes-Benz Cars

電動開閉式のメタルトップを持つ。

Daimler AG - Global Communications Mercedes-Benz Cars

意外に感じたのが、これだけのクルマ好きでもあるのに、所有した台数が少ないことだ。もっとたくさんのクルマに乗りたいという気持ちはないのだろうか。

「うーん、車検ごとに乗り換えたほうが経済的という意見も聞きますし、それを否定はしません。でも僕は、心の底から好きになれるクルマをじっくり選んで、できるだけ長く1台のクルマに乗りたいタイプなんですね。メカには全然詳しくありませんが、クルマについて教えてくださる方が周囲にいるので、大事に大事に乗っています」

定員はふたり。上質なレザーをたっぷり使った贅沢なインテリア。

Daimler AG - Global Communications Mercedes-Benz Cars

とっかえひっかえ乗り換えるのではなく、1台のクルマに長く乗り続けるという“今井翼スタイル”に、共感するクルマ好きも多いのではないだろうか。

今回は、今井翼さんのカーライフの出発点を振り返ったけれど、後編となる次回は、いつかは乗りたい憧れのクルマを紹介したい。

今井翼(いまいつばさ)

1981年10月17日生まれ、神奈川県出身。1995年に芸能活動を始め、歌手、俳優、タレントとしてテレビや舞台など多彩なジャンルで活躍。2012年にはスペイン文化特使に就任。近年の出演作として、ドラマ『おじさんはカワイイものがお好き。』(YTV)、Amazon Originalドラマ『星から来たあなた』、主演映画『TELL ME ~hideと見た景色~』など。

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Vol4.坂本九さん&柏木由紀子さん 前編後編
Vol5.チョコレートプラネット・長田庄平さん 前編後編
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文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) スタイリング・渡邊奈央(Creative GUILD) ヘアメイク・中谷圭子(AVGVST) 編集・稲垣邦康(GQ)