新田真剣佑、壁を突き崩すスーパーヒーロー──映画『聖闘士星矢 The Beginning』

車田正美の漫画を原作としたハリウッド映画『聖闘士星矢 The Beginning』が、4月28日(金)に日本公開される。主人公の星矢を演じるのは、「世界が照準」と公言する俳優、新田真剣佑。本作がハリウッド映画初主演となる新田が「世界で学んだこと」とは。(本誌5月号掲載)

日本で俳優として活動してきたこれまでの数年間は、「助走だった」と新田真剣佑は語る。助走の先にあったのは、大いなる飛翔。この春、ハリウッド初主演作となる『聖闘士星矢 The Beginning』が公開される。

「監督がいて、助監督がいて、カメラマンがいて、俳優がいる。準備して、撮影して、編集する。そういうことは日本と同じです。でも、同じなのはそのくらい。あとは、なにもかもが違っていました。まずとにかくスケールが大きい。それは、脚本を読んだ段階で文字からも伝わってきました。そこには自分が頭の中で描いていたようなハリウッドのアクション映画の世界が広がっていた。だから、撮影の前からめちゃくちゃ楽しみでした。すごい映画を撮るんだと、ワクワクした気持ちで準備を進めていました」

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『聖闘士星矢 The Beginning』は、80年代に人気を博し、世界的な大ヒットとなった伝説的漫画『聖闘士星矢』を原作とするアクション映画だ。星矢たち聖闘士の超現実的な戦いを実現すべく、Netflixで世界視聴率ナンバー1となった『ウィッチャー』のトメック・バギンスキー監督をはじめ、ハリウッドの錚々たるスタッフや俳優が集結。星矢を演じた新田は、堂々たる演技でその真ん中に立ち、見事主役を演じきっている。

「大掛かりなセットがあって、大勢のプロのクルーがいて。そこで主役をやるということに正直、プレッシャーもありましたが、それも含めて幸せな経験をさせてもらったと思っています」

日本とハリウッドの違いは、スケール感だけではない。たとえば製作にかける時間。日本では1本の映画を数週間で撮るのが一般的だ。だが、この映画は4カ月以上かけて撮影。新田も星矢の美しく鍛え抜かれた肉体を3カ月かけて作り上げたという。この肉体も見どころのひとつといっていいほどだ。

「もともとトレーニングはしていたのですが、トレーナーをつけ、しっかり食事制限もしました。自分としては、ほぼ理想のカラダになりました。映画の前半ではまだちょっと頼りないカラダの星矢が、後半どんどんたくましくなっていく。それは僕のカラダが本当に鍛えられていったからなんです」

スタッフやキャストが集まってから最初の1カ月は、この映画の最大の見せ場であるアクションのトレーニングのために使われたという。

「怪我をしないように細心の注意を払いながら、どう見せるかをみんなでトレーニングしながら考えていく。それが週5回、午前中から夕方まで1カ月続きました。そこまでやっているから、本番ではみんな完璧に動けるわけです。もちろんトレーニングは楽ではないですが、夕方には終わるから睡眠はしっかりとれるし、休日もある。これは撮影のときも同じです。プロフェッショナルの仕事をするためにしっかりと休息をとる。日本だと深夜まで撮影して、2、3時間後の早朝に次の日の撮影がスタート、ということもよくある。しかも休みなしで。もちろんそうしなければならない事情があることはわかっているのですが、なかには、疲れ切った顔をしているスタッフもいるわけです。『聖闘士星矢』の現場にはそういう人はひとりもいなかった。みんな生き生きと楽しそうに仕事をしていました」

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2020年にそれまで所属していた事務所から独立。アメリカで生まれ育った彼は、ネイティブの英語を武器に海外に活躍の場を求めた。以来3年、コロナ禍で世界中のエンターテインメント業界が混乱するなかでの挑戦となったが、すでにこの『聖闘士星矢 The Beginning』とNetflixで配信されるドラマ『ONE PIECE』(今年配信予定)を撮り終えている。日本から世界に出たことで、なにか学んだことはあったのだろうか。

「世界には可能性があるということを知りました。日本人の俳優がハリウッドで主役をやったんです。それって、すべての日本人俳優にとって大きな可能性があるということを証明したわけじゃないですか。僕は『アベンジャーズ』が大好きなのですが、10年前の僕がアベンジャーズに出たいと言ったら、みんな『そんなの無理だ』と笑ったと思います。でも、この『聖闘士星矢』は、アベンジャーズみたいなものなんですよ。そこで僕は主役をやることができた。残念ながら、そのせいで僕はアベンジャーズにはもう参加できないと思いますが(笑)、日本人俳優にも可能性があることはじゅうぶん示せたと思っています」

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すでに撮影や準備に取り掛かっている日本国内の作品もあるそうだ。自らが学んできた“ハリウッドスタイル”の撮影・労働環境を、日本でも実現しようとは思わないのだろうか。そう訊ねると、彼は苦笑し、しばらく考えてからこう答えた。

「そうなればいいと思いますし、俳優仲間でもそんな話をすることはあります。でも、これまでそこに挑んだ先輩が頑強な“壁”に弾き返されてきた。正直、日本の映画界、芸能界には昭和の時代から連綿と続く“日本ならではのやり方”、“日本独自のビジネス”があって、それを必死に守っている人たちがいる。その壁はひとりの俳優ががんばったところで、ビクともしないんです。そこはもう仕方ないというか……。

でも、このままでいいとは思っていません。僕は『ちはやふる』に出演したことで、俳優という仕事の楽しさを知ることができました。だから、日本映画に恩義を感じているんです。ハリウッドで主役をやれたというのは、その恩返しのひとつだと思っています。ハリウッドで主役を演じる僕の姿を見て、若い人たちが刺激を受ければいいし、もっといえば、その子どもたちの世代が可能性を感じてくれればいい。そこから日本映画も変わっていくんじゃないでしょうか。10年後か20年後かわかりませんが、そうなっていたらいいなと思っています」

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確かに、かつてはメジャーリーグやヨーロッパのサッカーリーグで日本人選手が活躍するなんて夢物語でしかなかった。だが、パイオニアたちが壁を突き崩し、結果を残してきたことで、多くの日本人選手が当たり前のように世界で活躍する時代になったのだ。日本人俳優のパイオニアとなった新田は、これからどこへ進もうとしているのだろうか。

「僕にとっては、ここがスタート。あれもやりたい、これもやりたいというのはないんです。『聖闘士星矢』も今作が“Beginning”ですから、物語はまだまだ続く。僕の構想だと8本でようやく完結します(笑)。『ONE PIECE』だってまだまだ終わらない。その2本だけで、これからの10年間を使っても構わない。ただし、自分にしかできないことをやっていきたいとは思っています。そのとき、そのときで出合った作品を大事にして、自分が出せるすべての力を出し切って最高の作品を作っていく。ただそれだけ。それを続けていくだけです」

映画がエンディングを迎え、エンドロールが流れる。そのいちばん最初に「Mackenyu」という大きな文字が現れたとき、なんともいえない誇らしさを感じた。やはり同じ日本人が世界で活躍するのを見るのはうれしい。新田ならこの喜びをこれから何度も味わわせてくれるだろうと、その自信にあふれた顔を見て確信した。

『聖闘士星矢 The Beginning』

自らの身体に“小宇宙(コスモ)”という力が宿っていることを知らない若者、星矢。地下格闘技でその日暮らしをしながら生き別れた姉を探していた彼は、ある日闘いの最中にその“小宇宙”を発したことで謎の集団から狙われることになる。ペガサスの星のもとに生まれた星矢の使命は“知恵”と“戦い”の女神アテナの生まれ変わりであるシエナという女性を守り、世界を救うこと。自らの秘めた力に気づいた時、彼はこの世界を救う“聖闘士”となる。

4月28日(金)全国公開。
配給:東映
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公式ホームページ:https://kotzmovie.jp/

新田真剣佑

俳優

1996年生まれ、アメリカ・ロサンゼルス出身。2014年より日本を拠点に活動をスタート。『ちはやふる ―上の句―/―下の句―』(16年)で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。

取材と文・川上康介、写真・久富裕史(No.2)、スタイリング・櫻井賢之、ヘアメイク・いたつ、編集・横山芙美(GQ)