[世界の地域]チューリップの起源とガガーリンのロケット発射台、幻の動物ユキヒョウの⽣息地、-40℃の世界にきらめく未来都市 カザフスタン
中央アジア最⼤の国カザフスタン
ステップの真ん中に⿊川紀章⽒のデザインした未来都市、中央アジア最⼤の国カザフスタン。冬はまつ⽑も凍 る-40℃の氷の世界。野⽣のチューリップ、グランドキャニオンのような⼤⾃然、旧ソ連時代からのバイコヌ ールロケット基地、絶滅を危惧され、その姿を⽬にすることが稀なことから幻の動物と⾔われるユキヒョウの
⽣息地 など、歴史と未来を感じる国。
カザフスタン共和国の地図
カザフスタン共和国は、ユーラシア⼤陸の中⼼に位置しており、⾯積約272万㎢と世界第9位の広⼤な国⼟⾯ 積。また、世界最⼤の内陸国です。東、北、北⻄はロシア(世界で最も⻑い陸境)、南東は中国、南はキルギ ス、ウズベキスタン、キルギスタン、トルクメニスタンと国境を接し、国⼟の約3分の1は、乾燥ステップ、草 原地帯。東部はアルタイ⼭脈やカルバ⾼原など⾼⼭地帯や⾼原、⻄部のカスピ海沿岸低地、南部には砂漠が広 がります。
⽯油、ガス、ウラン、鉄、銅などのエネルギー資源や鉱物資源に恵まれている資源国であり、豊富な天然資源 を基盤とした経済発展を遂げました。ソ連からの独⽴後は、NursultanNazarbayev(ヌルスルタン・ナザルバ エフ)が国家元⾸として、数⼗年にわたり継続して⼤統領を務め、2019年3⽉に⼤統領を退任し、後任のトカ エフ⼤統領によって⾸都アスタナはヌル・スルタンと改称されました。
(上)2018年撮影 I♥ASTANA (下)2019年撮影 NUR-SULTAN
ハン・シャティール・ショッピングセンター前より撮影。⾸都改称による変化。国営のガス⽯油企業の⼤きなビルの間からバイテレク(後述)が⾒えます。
⾸都ヌル・スルタン(旧アスタナ)は、国⼟の北部に、最⼤の都市アルマティは南東部に位置。カザフスタンが伝統的に遊牧⺠の地域であることは、国旗や国章でもあらわされています。
(国旗)
⻘地は空、中央の⾦⾊は32本の光を擁する太陽と翼を広げて⾶ぶ鷲。左端には雄⽺の⾓(カザフ語でコシュカル・ムイズ)をモチーフにしたカザフ⼈の伝統的な模様が配置されています。⻘地は、カザフスタンの広い空と⾃由を象徴。
(国章)
中央の、円の中に三本の線が交差した形のものは、遊牧⺠の伝統的な移動式住居であるテント式家屋(ロシア語でユルタ、カザフ語でキイズ・ウイ)の頂部にあるドーム型の構造・シャニラク。⻩⾊いシャニラクは⻘空の中に輝き、⽇光のような光を放射。その左右に、神話に登場する⾺が⼆頭、背中合わせになって翼でシャニラクを⽀え、頂上には⻩⾊い星。シャニラクは家族の健康・平和・平穏を、歴史と未来、エンブレムの円形は⽣命と永遠性。⻘い⾊は⼤空と平和、すべての⼈々の間の統⼀を表し、⻩⾦⾊は光、カザフスタンの⼈々の明るい未来を表しています。
切⼿の絵柄としても採⽤されたバイコヌール宇宙基地
ソ連と⽶国の宇宙開発競争の舞台となったバイコヌール宇宙基地は、カザフスタン南部にあり、現在もロシア が租借しています。⼈類初の有⼈宇宙⾶⾏に成功したボストーク1号は、ユーリ・ガガーリンを乗せ、1961年 4⽉12⽇にバイコヌールから打ち上げられました。
広⼤な国⼟には、砂漠や草原だけでなく、⾃然も多く美しい⼭々や湖もあります。美しい景⾊と花などの植物 を⾒ながらトレッキングやハイキングを楽しむフラワーウォッチングをするカザフスタン⼈も多くいます。⽶ 国のグランドキャニオンのような歴史を感じる地形もあります。
カザフスタンのグランドキャニオンともいわれるこの渓⾕は、アルマティから東に200kmほどの場所にある国⽴公園です。チャリン川が削り上げた奇岩が続く渓⾕が続きます。⽶国のグランドキャニオンほどではありま せんが、ミニグランドキャニオンという感じで、その地層から歴史を感じることができます。
チャリンキャニオンの景観
1990年10⽉に当時のカザフ・ソビエト社会主義共和国は共和国主権宣⾔を出し,1991年12⽉のソ連崩壊に伴 い同年12⽉16⽇に独⽴。1997年12⽉10⽇に⾸都をアルマティからアクモラ(現ヌル・スルタン(旧アスタ ナ))に遷都。翌年1998年アクモラからカザフ語で⾸都を意味するアスタナに改称。議会コンプレックスや 政府機関、銀⾏、外国の⼤使館などの新しい建物が必要となり新⾸都に建設しました。
新⾸都の建設をした際から⽇本との関係は深く、1998年に新⾸都設計国際設計コンペが現ヌル・スルタン
(旧アスタナ)で開催され、⽇本の著名な建築家の故⿊川紀章⽒が優勝。JICA(国際協⼒機構)は現ヌル・ス ルタン(旧アスタナ)の⾸都建設に関するマスタープランの作成を⽀援し、基本設計は⿊川紀章⽒が実施。カ ザフスタン共和国政府に承認され、⼈⼝増加に合わせて修正が加えられながら⾸都建設が進められました。2005年3⽉にオープンした現ヌル・スルタン(旧アスタナ)国際空港旅客ターミナルも⿊川紀章⽒のデザイン。また、国際空港ターミナルだけでなく現ヌル・スルタン(旧アスタナ)の上下⽔道整備なども⽇本の⽀援 によって建設されました。2017年にExpo「未来のエネルギー」が現ヌル・スルタン(旧アスタナ)で開催され、宇宙船のような建物が 多くあります。
ナザルバエフ初代⼤統領の⼿形のあるバイテレクモニュメント兼タワーは、105mの⾼さの印象的な建物の ひとつ。形は⿃の巣で真ん中の⾦⾊は⿃の卵。カザフスタン⺠話の「⽣命の⽊」と「幸福の魔法の⿃」をイメ ージしたデザインなのだそうです。
−40℃の氷の世界
冬のカザフスタンは、⾮常に寒く、-40℃になる⽇もあります。2⽉の寒い⽇で-30℃程度と聞いていましたが、私の滞在した期間は平均-38℃。湿度が低く乾燥しているため、想像よりも寒さは感じないかもしれませんが、空港に降り⽴ち、外に出るとまつげが凍るほどの寒さを感じます。何⽇か滞在すると慣れてきますが、 外に濡れたタオルを持っていくと凍ってパキパキ、乾燥で肌もパリパリです。
ブーツと⽑⽷の帽⼦や⼿袋は必需品です。
「ハン・シャティール(王者のテント)」。2010年にオープンしたショッピングセンター。針のような頂上部と全体が傾斜したデザインは、カザフスタンの歴史と結びつきが深い遊牧⺠の移動式住居ユルタをイメー ジ。ヌルスルタン・ナザルバエフ初代⼤統領と設計者のフォスター・パートナーズ社(英)は、「世界最⼤の テント」と太⿎判を押す未来都市の建物のひとつ。
ヌル・スルタン(旧アスタナ)では、雪景⾊の中に未来都市のような建物がとても美しく映えており、真っ⽩ な⼤地にキラキラした宇宙船のような建物。冬ならではの光景を⽬の当たりにすることができます。
冬は真っ⽩な雪景⾊が広がるため、寒さを体験しに中東などから冬に観光に来る⼈もいるのだとか。
オランダでおこったチューリップフィーバーが有名であるため、チューリップはオランダの花だと思っている⼈もいるかもしれません。また、語源がトルコのターバンからきていることもあり、トルコだと思われている かもしれません。諸説あるものの、チューリップは、中央アジアを起源とする花です。
カザフスタンには、野⽣のチューリップがあり、実はチューリップの国としても知られています。
チューリップフィーバーとは、世界で初のバブル経済といっても過⾔ではありません。
チューリップ独特の美しい曲線や⾊鮮やかでさまざまな⾊のある美しさから、絵画などでも⼈気が⾼まりまし た 。17世紀のオランダでは、オランダの⻩⾦時代の進展とともに、チューリップマニアと呼ばれる⼈々が球根を買 いあさり、球根が⾼値となり市場が崩壊するほどとなりました。チューリップの球根はお⾦の代わりにも使わ れました。
世の中の⼈を熱狂させましたが、そのかわいらしく美しい花チューリップは、カザフスタンが起源の花です。
幻の動物 ユキヒョウ
(写真提供)旭⼭動物園 2020年6⽉19⽇撮影
ユキヒョウは、中央アジアやヒマラヤなどの⾼⼭地帯、チベット⾼原などに分布していて、絶滅危惧種や天然 記念物にも指定されています。絶滅を危惧され、その姿を⽬にすることが稀なことから幻の動物と⾔われる美 しいユキヒョウは、北はロシアから、南はインドやパキスタンまで⽣息。
(写真提供)旭⼭動物園 2019年11⽉18⽇撮影
(写真提供)旭⼭動物園 2019年12⽉23⽇撮影
ヒョウよりも⼩柄でモフモフした、かわいらしいネコ科の動物です。⽇本の動物園でも、かわいいユキヒョウ の⾚ちゃんが産まれています。
カザフスタンは、ユキヒョウの⽣息地としても有名です。
カザフスタンの5,000 テンゲ紙幣にはユキヒョウの絵が描かれています。
ユキヒョウがモチーフになっているカザフスタンの市章
(左)アルマティ市の市章(右)旧アスタナ市の市章(ヌル・スルタン改称後、市章が変更されました)
⽣息エリアの各地では、国章や市章、紋章などにユキヒョウの絵が描かれています。
カザフスタンでは、旧アスタナとアルマティの市章にユキヒョウ。ウズベキスタンのサマルカンド市の市章に もユキヒョウが描かれています。
第7回アジア冬季競技⼤会のマスコットキャラクター
出所)カザフスタン共和国国⽴オリンピック委員会
2014年ソチ(ロシア)で開催された冬季オリンピックでは、マスコットキャラクターにホッキョクグマ、野 ウサギ、ユキヒョウが選ばれ、2011年にアスタナ(現ヌル・スルタン)とアルマティで開催された第7回アジ ア冬季競技⼤会のマスコットキャラクターもユキヒョウでした。
オオカミと⾁⾷⽂化
ひつじのくるぶしのおつまみ
冬の寒さや砂漠地帯の多さから農業に向いていない地域の多いカザフスタンでは、⾁を⾷べる⽂化が根付いて おり、⾁が好きな⼈も多いです。
世界で最もオオカミが⽣息しているともいわれており、地域によってはオオカミが番⽝のように⼈と⼀緒に⽣ 活することもあります。
「この世でオオカミの次に⾁をよく⾷べる」、「オオカミの次に⾁が好き」と、カザフスタン⼈が⾔うほどで す。気候に合わせた⾷⽂化が根付いています。
寒い冬に備え、内臓や脳まで保存の⼯夫をしています。極寒の地の知恵。
⾺⾁の⽯板焼き
遊牧⺠の多いカザフスタンでは、⽜や⽺だけでなく⾺やラクダの⾁を⾷べる習慣もあり。⾺⾁の⽯板焼きは有 名です。臭みもなくとても美味。
また、⽇本ではあまりお⽬にかかることがないのですが、⽺のくるぶしをおつまみに⾷べるようで。⾻に付い た⾁をしゃぶります。
マントゥなど、中央アジアでポピュラーな伝統料理も⽺の⾁が多く使われています。
乳製品にはラクダの乳も使われますが、乳酸菌と酵⺟で発酵させた酒もあり、ラクダ乳酒(シュバット)と⾺ 乳酒(クムス)があります。ヒトコブラクダの⽅が乳量は多いですが、フタコブラクダの⽅が味は濃厚だそう です。
宇宙を夢⾒たロケット基地 バイコヌール
ソ連と⽶国の宇宙開発競争の舞台となったバイコヌール宇宙基地は、1955年に建設されました。カザフスタ ン南部にあり、現在もロシアが租借しています。⼈類初の有⼈宇宙⾶⾏に成功したボストーク1号は、ユー リ・ガガーリンを乗せ、1961年4⽉12⽇にバイコヌールから打ち上げられました。
政令指定地区バイコヌールは、ロシア連邦がカザフスタンより年間1億1,500万USドルの契約で町全体を租借 し、事実上の⾏政区としています。ロシアにとって今もなお重要な宇宙開発施設であることがわかります。市
⻑は、ロシア⼤統領が推薦し、カザフスタン⼤統領が承認することで任命、ロシアの法律が適⽤され、通貨も ロシアのルーブル。⾏政権はロシアとなっています。租借契約は1994年に合意され、2050年まで続く予定で す。
バイコヌール宇宙基地から、他国の宇宙船も打ち上げています(NASAが2011年にスペースシャトル計画を終 了したあと、⽶国⼈宇宙⾶⾏⼠たちはロシアの宇宙船に同乗させてもらって宇宙に⾶び⽴っています。)。
バイコヌール宇宙基地の発射台
格納庫からは列⾞で⽔平に移動させ、打ち上げ台に垂直に設置します。
ソユーズの訓練施設やソ連の宇宙ステーション「ミール」なども⾒学でき、宇宙ステーションやロケットの内 部がどのようになっているのかを知ることができます。ソユーズの訓練施設は現在でも使⽤されています。国 際宇宙センターに宇宙船をドッキングさせるドッキングレクチャーやシミュレーション、宇宙服グローブボッ クス体験装置で無重⼒下でのグロ−ブの使⽤を疑似体験ができます。無重⼒下での作業の困難さを体感することができます。
草原地帯の中にある格納庫には、旧ソ連初の宇宙連絡船「ブラン(Buran)」や「エネルギアM」が現在も眠 っています。
博物館では、宇宙開発の歴史やJAXA関係の展⽰物、ガガーリンのコテージなど、国際宇宙学校では、ロケッ トの本物のエンジンや宇宙服、宇宙船の帰還モジュールなども⾒学できます。
1990年⽇本⼈初の宇宙⾶⾏⼠として秋⼭豊寛⽒が、バイコヌール宇宙基地からソユーズTM-11で宇宙へ出発 しています。
バイコヌールでは、現在でも国際宇宙ステーションへの宇宙⾶⾏⼠や無⼈の補給機などが打ち上げられてお り、発射台から約1.5kmの場所から⾒学することができます。迫⼒満点です。
宇宙旅⾏が⾝近になり「地球が⻘かった」という⽇が近い将来訪れるかもしれません。
現在、コロナ禍で残念ながら海外旅⾏が難しく、カザフスタンへの訪問も難しくなっております。幻の動物"ユキヒョウ"は、⽇本でもその美しい姿を⽬にすることができます。
⽇本各地の動物園にユキヒョウはおりますが、旭⼭動物園には2019年7⽉に⽣まれたユキヒョウの⼦供ユーリ と⺟ジーマの親⼦がおり、じゃれあう愛らしい姿を⾒ることができます。
ドイツ⽣まれのジーマから⽣まれたメスの⾚ちゃんは、ドイツ語で7⽉の意味と、7⽉の誕⽣花ユリにちなん で、ユーリと命名されました。
(写真提供)旭⼭動物園 2020年3⽉6⽇撮影
⺟ジーマとじゃれあうユーリ。お⺟さんの⻑い尻尾で遊んだり、上にのっかったり、仲の良い親⼦の姿。
https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/zuroku/asia/d056179.html
JALパックのダイナミックパッケージで旭⼭動物園のユキヒョウに会いに⾏きましょう。
https://www.jal.co.jp/domtour/hok/asahiyama/
国⼟⾯積 |
約272万㎢(⽇本の7倍、世界第9位) |
⼈⼝ |
約1,860万⼈(2019年時点) |
⾸都 |
ヌル・スルタン(旧アスタナ) |
公⽤語 |
カザフ語(国語)、ロシア語(公⽤語) |
宗教 |
イスラム教 スンニ派、東⽅正教 |
通貨 |
カザフスタンテンゲKZT(1テンゲ=約0.27円 2020年6⽉末 時点) |
野村総合研究所
https://www.nri.com/en
出典:野村総合研究所 2020年7⽉30⽇
著者:⾕⼝ ⿇由⼦(Mayuko Taniguchi)
出典元:NRI 2020年7⽉30⽇
著者:MAYUKO TANIGUCHI ⾕⼝⿇由⼦