pammpamm-lab について

ポリエステル樹脂製立体造形表現による肌の質感研究

ロンミュエク「スタンディング・ウーマン」

青森県十和田市にある十和田市現代美術館にロン・ミュエクの「スタンディング・ウーマン」という巨大な4メートルもの初老の女性の立体造形作品が展示されております。ミュエクのリアリティを追及する制作姿勢について、そしてその皮膚の質感から生み出されるリアリティついて、テレビ東京「新美の巨人たち」様にて6月の放送にて言及させて頂きました。親身に取材頂きました映像制作会社のスタッフ様には、私のリスペクトするロン・ミュエク様について言及させて頂き、大変恐縮ではありながらとても光栄でした。映像は私の一生の宝物となりました。ありがとうございました!

***
スーパーリアリズム作家ロン・ミュエクは、 人体があたかも生きているように表現しています。個人の物語を背景として取り扱う作品主題は、主に母や妊婦、新生児による人体です。命が生まれること生きることをテーマにしています。ここから生み出されるリアリティを表現するために特殊素材を用いて制作していると考えています。

テレビなどのメディアに露出されないロン・ミュエク本人から「スタンディング・ウーマン」作品への思いについてメールでメッセージを寄せられたそうです。
「私たち人間はお互いを理解するようにできています。その人の立場に立って、その人がどんな物語を描いて、どのように人生を生き、今に至っているのか想像することに、深い興味を持っています。共感が最も重要なのです。」

ミュエク作品の特徴として作品スケールの操作があげられます。実際のスケー ルを変えて表現することで鑑賞者に大きな感動をもたらし、単にマネキン製造の技術だけに陥いりません。巨大であったり小さかったするからこそ、鑑賞者は作品に引き込まれ共感を感じるだと思います。

アートトラベラーを務められた俳優の小雪さんの言葉より〜
「体っていうのはただの物体だから使ってたら古くなる。その中にある魂とかその人の信念みたいなものって体に現れるから顔色とかそういう部分ですごく生命力を感じるよね、この作品から」
「本当にその何%も人ってわからないじゃない
だって自分のことだってわからないじゃないですか
そういう意味では他人の生き様かもしれないけど自分の生き様かもしれないしっていうのでこの作品は自分との対話をさせてもらえる彫刻だなって思います」

「スタンディング・ウーマン」は特にモデルがいないそうです。
家族思いの心配性なおばあさんを想像したり、水仕事をたくさんしているのかもしれない、隣のおばさんかもしれない、すごく怖そうだけどお料理上手でおもてなしが上手なお母さんかもしれません。

ロン・ミュエクは、巨大化させたり手のひらサイズにさせたり等のスケール操作をしてシンプルでありながらもこの操作によって一歩踏み込んだスーパーリアリズムを追求しています。そして、現実世界の方向感覚を失ったような非現実世界へと誘われます。しかし、 単に鑑賞者を圧倒させるだけではなくて、言葉にできない親密さと愛、切なさのような複雑な感情を観るものに湧き起こさせ、心の奥底に入ってゆくのです。

 #ronmueck  #十和田市現代美術館  #新美の巨人たち

積層する最適色の組み合わせの実験

積層する最適色の組み合わせの実験をしました。

まずは、ウルトラマリンブルーとバーントアンバーの組み合わせになります。
A1)ウルトラマリンブルーが多めであると冷たい影の表現になります。
A2)バーントアンバーが多めであると暖かみのある表現となります。
次に、B)不透明色の赤であるカドミウムレッドパープルに透明色の赤であるアリザリンクリムソンを積層すると深みのある赤に変わリマス。
C)また、不透明色の緑であるコバルトグリーンに半不透明色の青であるコバルトブルーを積層すれば、深い青色となります。
D)サップグリーンは、グリーン系やブルー系に合わせるとグリーンの深みが引き立つ。今回はコバルトブルーを積層しました。
E)サップグリーン、コバルトブルーの変化した色を置き、その上からバーントアンバーを載せていきます。混ぜて作った色と違う透明感を持った色となり表現に幅を与えて全体的な色の統一を出すことが出来ます。  

筆者の作品は動物等の生き物を中心とした表現をしているが、幅広い色数の油絵具を用いることによって、様々な展開の可能性があると考えます。例えば、油絵具ないしは顔料の着色を安定させて混合すれば透過性が高くなり光沢感が出せます。透明度が高く艶かしさが出て、緊張感と高級感を持たせることが出来ます。植物等の静物をモチーフとすることも可能であり、模様等を用いた抽象的な表現も有効であります。また、凝集力が強く働いた場合、それをそのまま硬化させることによって、砂の表面の様なざらざらした表情や岩の様なごつごつとした表情を作り出し、作品の質感に変化を付けることが出来ると考えます。 

A1
A2
B
C
D
E

ロン・ミュエク(Ron Mueck)による着色方法の考察

スーパーリアリズム作家のロン・ミュエクは、人体があたかも生きているように表現し、内部着色を活かして、UP樹脂やシリコーンゴム素材等を使用した人体の立体造形を制作しています。現実の世界を再現することを追求してスーパーリアリズムの視点を変えました。ミュエクが生み出すスーパーリアリズム表現は、その造形制作に対する執着心からきています。このことは東京国立近代美術館にて開催された『現代美術への視点 連続と侵犯』36にて中林和雄(2002)が記述しています。

「ロン・ミュエクが人体の模造物をつくる異様なまでの執念。細部の仕上がりや肌理などに徹底してこだわり、時間をかけるあまり、まだ総作品数が20点にも満たないという、つくりものの仕上がりへのこの執着とは裏腹に、あるいはその執着ゆえにというか、ミュエクはいつも再現のスケールをずらし、本物より大きくまたは小さくつくる。精一杯似せようとした上で、偽物(似せもの)ですよと注釈をつける。だからそれはあまりにリアルでありかつ存在し得ない不思議な存在となる。」36(中林、2002、pp.7-8.)

『ロン・ミュエク DVD CD-ROM ナショナルギャラリー(Ron Mueck DVD CD-ROM by Nationalgallery)』38から、作品《妊婦(Pregnant Woman)》2002年(図1-74)と金沢21世紀美術館、『ロン・ミュエック展』39から、作品《A Girl》2006-2007年(図1-87)による内部着色を取り入れた制作進行を見て、ミュエクの着色方法を考察しました。

ミュエクの作品は、皮膚の下にある血管、毛穴、赤みがある部分や黄みがかっている部分を一つ一つ丁寧に最終的に着彩することによって肌の表情を作り出しています。身体のプロポーション、指や関節などの細かい表現を大切にしながらも深い肌理の表現にこだわりを感じます。柔らかい肌の質感を素材の物質感で見せることであたかも存在しているように見せています。ミュエクの作品は、人体の皮膚感を現実世界よりも艶かしく表現しています。使用する着色剤は、樹脂用着色剤を使用していると考えます。発色の良い樹脂用着色剤によって鮮明な肌理の仕上がりを表現しています。ミュエクによる樹脂用着色剤は、UP樹脂に顔料が練り合わせられており、顔料の粒子の量が多く、色相が鮮明で隠蔽力が大きいと考察します。

原型制作
原型
細部への追及
肌の表面へも追及している
型の制作
FRPでバックアップをしている
型を外し、中の粘土を掻き出す
着彩
型の内側に内部着色した樹脂を1層目に塗る
FRPを型の内側に積層する
分割型を繋ぎ合わせる
分割したパーツを順番に外す
型から外し、更に細部の着彩を施す
樹脂特有の艶あり
ニスでマットに仕上げる
毛髪、まつ毛などを植え込む
歯の取り付け
完成

ロン・ミュエク 《妊婦(Pregnant Woman)》 2002年
ミクスト・メディア D730×W689×H2,520 mm
オーストラリア キャンベラナショナルギャラリー蔵
(Owner:National Gallery of Australia Canberra) 
・村田大輔編、『ロン・ミュエック展』、2008年4月26日-8月31日、
金沢21世紀美術館、有限会社フォイル、2008年、p.27.
・『スカルプチャー リアリアスト ロン・ミュエク』、アートシェアリング社(“LES SCULPUTURES REALISTES DE RON MUECK”,THE ART OF SHARING),  http://houhouhaha.fr/ron-mueck (参照2015-09-26)

マスク造形の取材

先日、東京に所在していますアトリエ アルーア様にてマスクの造形制作の取材をさせて頂きました。シリコーンゴムを多様し、そのための着色剤を取材しました。シリコーンゴムにも様々な種類があり、造形物によって使用するシリコーンゴムを変えていました。そのための着色剤にも色々ありました。

内部着色

<内部着色>は、樹脂の中に色材を練り込み着色することです。樹脂と色材を混ぜ合わせるため、外部着色とは異なり、中まで均一に色づけされます。内部着色に用いる色材を総称し<着色剤>と呼びます。

上図:外部着色  塗装・印刷・メッキ・メタライジング等基材表面に着色したもの
下図:内部着色 ガラスや樹脂等の基材内部に分散または溶解して着色したもの

外部着色

こちらの作品は、2021年に制作しました。型にレジン樹脂を流し込み、型から取り外した後、バリ取りと研磨による修正を行い、成型品を完成させた。最終的にアクリルガッシュの着色剤を使って筆で塗り外部着色を行いました。
<外部着色>とは、樹脂の表面に着色することで、印刷や塗装、メッキなどです。顔料を溶剤で溶かして色をつけたい商品に吹き付け塗装を行います。

ロン・ミュエク(Ron Mueck)による主題

デュエイン・ハンソンと同じくスーパーリアリズム作家のロン・ミュエクは、人体があたかも生きているように表現しています。個人の物語を背景として取り扱う主題は、主に母や妊婦、新生児による人体です。

ミュエクは、1958年オーストラリアのメルボルン生まれです。おもちゃ工場を経営する両親の元で育ち、幼い頃からフィギュアの材料と技術に熟知していました。80年代の半ばからジム・ヘンソンの下でセサミ・ストリートなどの人形の制作に携わり、児童向けテレビ番組の操り人形制作会社に勤めました。この経験はミュエクの特殊造形技能を高め、1995年頃からは自身の作品制作に専念しました。2001年のヴェネチア・ビエンナーレに出品した巨大な少年像、《ボーイ(Boy)》1999年は、世界中の注目を集めました。ロンドンのサーチギャラリーに紹介されたミュエクは、初個展を開催して高い評価を得ました。その時の作品が、《死んだ父(Dead Dad)》1996-1997年です。サーチギャラリー企画のセンセーション展に4年間出品し、ロンドンのナショナルギャラリーにて個展を開催するなど国際的な作家です。
内部着色を活かしたロン・ミュエクの作品は、UP樹脂やシリコーンゴム素材等を使用した人体の立体造形を制作しています。現実の世界を再現することを追求してスーパーリアリズムの視点を変えました。ミュエクが生み出すスーパーリアリズム表現は、その造形制作に対する執着心からきています。

ロン・ミュエク《ボーイ(Boy)》1999年
ミクスト・メディア
D4,900×W2,400×H4,900 mm 
デンマーク アロスオーフス美術館蔵
(Owner:Aros Aarhus Kunstmuseum, Aarhus,Denmark) 
村田大輔編、『ロン・ミュエック展』、2008年4月26日-8月31日、金沢21世紀美術館、
有限会社フォイル、2008年、p.47.

デュエイン・ハンソンの着色方法の考察

デュエイン・ハンソンは、実際のモデルによる人間から型を取り、その型にポリ酢酸ビニルを注型しています。型に流し込む前に微量の油絵具とパラフィンワックスを混ぜ合わせて内部着色をしています。これを型に流し込み成形しています。ポリ酢酸ビニルは、無色の液体であり、一般的な使用素材として主にボンド等の接着剤として利用されています。ボンドは硬化すると白く濁るが、ハンソンの作品も硬化後、白く濁った皮膜が形成されます。UP樹脂の透明感と比べると透明度に劣ります。同時にポリ酢酸ビニルの濁りにより着色剤の発色性も奪われます。

ハンソンが作家として活動していた60年代は、立体造形における素材の開発や技術は、今よりもまだ発展途上だったと考えられます。このため、ハンソンはFRP、ポリ酢酸ビニル、ブロンズ等の様々な素材を多用し、技術と表現に磨きをかけて現在の立体造形表現に繋げてきました。様々な素材を使用しながらもハンソンの技術は高く、作品にインパクトを持たせています。


デュエイン・ハンソン《旅行者Ⅱ(Tourists Ⅱ)》
1988年 ファイバーグラス(FRP)、油絵具による多色彩 
ライフサイズ 
H.ブッシュ・マーティン、トーマス・ブッフシュタイナー、
『デュエイン・ハンソン スカルプチャー』、
カンツ・ベルラグ社、1990年、p.59.(Martin H.Bush, Thomas Buchsteiner,Duane Hanson Skulpturen, Edition Cantz  Verlag, 1990)

カーク・ヴァルネドー著 「デュエイン・ハンソン」 

カーク・ヴァルネドー『デュエイン・ハンソン カーク・ヴァルネドー著 』(Kirk Varnedoe, “DUANE HANSON By Kirk Varnedoe” 1985)による先行研究では、ハンソンの制作技術と作品テーマの関係性について述べています。

ハンソンの生まれは、主に中産階級または下位中産階級に属しました。少し時代遅れの家具、ポリエステルのファッション、ビニール、合成樹脂等は、家庭的で民俗的であり田舎的でも都会的でも無い、当時のアメリカの生活環境を表現しました。1970年代初頭のフォトリアリストの画家たちの作品に登場した世界にハンソンもこのリアリスト作家として加わりました。ハンソンの初期作品には暴力的なテーマが表現されました(ヴァルネドー、1985、筆者訳、2020、p.11.)。

ハンソンより先に人体から直接、型取りをした彫刻家は、エドワード・キーンホルツ(Edward Kienholz、1927-1994、アメリカ)とジョージ・シーガル(George Segal、1924-2000、アメリカ)です。彼らは、現代のアメリカの生活を主題に彫刻や絵画を制作しました。シーガルは真っ白な石膏による人体彫刻を作ってきた彫刻家です。彼の主題は聖書の中からイメージを取り上げ、現実と幻想の境界線を曖昧にした夢の世界を表現しました。一方で、中絶(1965)やレース暴動(1967)等の60年代から70年代における社会的重要なテーマをハンソンは取り扱い、特定の個人を彫刻によって表しました。ハンソンとキーンホルツ、シーガルとの共通点は、高い制作技術です。彼らは直接、人体から型を取ることによってリアリティを表現しました。特にシーガルにとってより重要だったのは石膏を最終的な素材とすることでした。厚い表面を持たせる石膏は、表情をはっきりと出すことが出来ません。このことによって感情的な意味を覆い隠しました。対照的にハンソンは、型に不飽和ポリエステル樹脂やビニル樹脂を流し込むことによって表情は明快に表され、明確なテーマを打ち出しました(ヴァルネドー、1985、筆者訳、2020、pp.13-15.)。

ハンソンは写真による一瞬の動きに不満を持ち、カメラを積極的に使用しませんでした。彼の理想に最も適したポーズは、動きのないポーズです。彼は人々の生活の中で典型的で永続的なものについて明確な信念を持っていました。エロティシズムや身体の動きだけでなく、笑い、笑顔、さらには対人コミュニケーションを除外し、「決定的な瞬間」とは対照的に、彼は習慣の状態を描写したいと考えました。各モデルの個性と調和に気を配り、配達員、ウェイトレス等の特定の「役割」を「キャスティング」し、彼らの側面を彫刻に取り入れました。個人的に特徴的な豊かさは、彫刻の「肉付け」に役立ち、彫刻に再現することによって個性の要素を超えるのです。モデルが普段着ている洋服や小道具を彫刻に取り付けることによって最終的にモデルのアイデンティティを表しました。モデルの背景からプロポーション、肌理等を含めて社会的存在が設定され、キーンホルツ、シーガルの作品よりも心理的にモデルを表現しました。ハンソンの作品にある中産階級の観光客や買い物客には些細な所有物をたくさん抱えさせています。物を持っていないと不安を持つ中毒の様な感じを覚えます。無情に生きる憂鬱に耐えるため、彼らの持ち物が彼らに尊厳を与えることを表しているのです(ヴァルネドー、1985、筆者訳、2020、pp.19-21.)。

ハンソンの作品に対する現代美術評論家、美術館等の反応の多くは、作品の内容ではなく、作品の技術的成果を評価しました。ハンソン自身は、その誤った賞賛が不快でした。アメリカの芸術に対する大衆の反応は、孤独、孤立、そして静かな絶望が国民の神経に触れるテーマであることを作品によって何度も示してきました。個人主義へのアメリカの投資がその絶滅への恐れを根付かせました。その様なアメリカの社会にある孤独や憂鬱をハンソンは作品を通して伝えたいと考えました。ハンソンの芸術的成功は、現代社会の問題を作品としたリアリズムの透明性です。現代社会の中でハンソンは自身の作品を構築し、作品としての品質を高め、そして芸術的伝統とのつながりを明らかにしました。皮肉なことに作品の中で最も印象的で特別な「自然な」即時性は、より永続的で重要なもののすべてを完全に理解する前に時代遅れになることがあります(ヴァルネドー、1985、筆者訳、2020、pp.23-27.)。