薬師寺では国家の繁栄や五穀豊穣、万民豊楽などを祈願する「修二会」を「花会式」と呼びます。それは、境内いっぱいに造花がお供えされることから。12世紀、堀河天皇が皇后の病気平癒を薬師如来に祈願されたことに始まります。翌年、皇后はその霊験を得て快癒。女官たちに10種類の造花を作らせ、感謝の心を込めて薬師如来にお供えされました。以来毎年修二会のたびに造花がお供えされ、いつしか「花会式」と呼ばれるようになりました。
造花に携わる橋本家の人々。一良さんと娘の 眞智子さん、婿の安昭さん。
その舞台裏では
この造花を手掛けるのは、薬師寺と縁の深い橋本家と増田家。昔ながらの方法で一つ一つ、ひと冬かけてこつこつと花を作っていきます。10種の造花のうち、橋本家で作る花は梅、椿、山吹、牡丹、藤、菊の6種類。道具はほとんど先々代から引き継ぎ、使い込んで黒光りしているものばかり。橋本一良さんは言います。「花びらを丸めたり襞を付けるへらも花ごとに違うなど、作業ごとに使い分けています」。紙を裁断するのは、牡丹の花びらや葉、椿の花びら以外、すべて包丁。10枚ほど重ねて断つため、昔から男性のする力仕事でした。
花弁のカールを 保つ作業は、一良さんの仕事。花びらを重ねる前に薄く蠟を塗る。
一方、花びらを作るのは女性の仕事。「妻の房子は嫁いできたばかりのころ、見てもわからないことばかりだったので、一つひとつ祖母に尋ね、帳面を作って覚えました。それだけ花作りには多くの工程があるのです」と一良さん。
梅の花びらを「しべ」に付ける房子さん(右)と彩香さん(左)。糊はその日使う分のみ、炊いた米を練って作る。
材料の調達や土台作りにはじまり、紙を染め、裁断し、花びらごとに細工を施す花作り。毎年気の遠くなるほど時間と労力をかけますが、「これだけ手間をかけても、いいなあと思う花は、毎年何本もありません」と一良さんは言います。花を作り続けて71年。「今思えばほんとうにありがたい。花作りは橋本家の誇り。ずっと受け継いでもらいたいです」。
本堂に飾られて
薬師寺に運ばれた造花を飾り付けるのは、毎年全国から集った青少年の有志「青年衆」です。「花会式」が始まると、日中は献花や献茶の奉納もあり境内全体が華やいだ雰囲気になります。夜は灯明が灯され荘厳さを増し、力強い僧侶の声が堂内いっぱいに響きます。
「青年衆」がひとつひとつ花を本堂に飾り付ける。
節の付いたお経、声明(しょうみょう)を唱え行道(ぎょうどう)する練行衆。
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開催日程:3月25日~3月31日
場所:薬師寺金堂
問い合わせ:薬師寺 ☎️0742-33-6001
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