2016年、『婦人画報』は創刊111年を迎えました。
ここでは、日本で最古の月刊ライフスタイル誌である
『婦人画報』の、とっておきの記事を
少しずつお届けしていきます。
2016年もあっという間に師走──正月支度、
おせちの準備に入るころです。
そもそも、おせちとは正月を祝う節会料理
しかも、出汁をひき、それを含めるように煮炊きするという、
世界に誇れる“和食”の調理技術のすべてが
込められている料理でもあります。
そんな和食の集大成ともいえる「日本のおせち」のルーツを
小誌アーカイブから探り、改めてご紹介しましょう。

1 一年で最も大切な行事、正月迎えの活気を中央市場よりルポ

 遡ること半世紀以上──まずは、1955年の『婦人画報』アーカイブより。
 当時、大阪に事務所を構え、物凄い売行きを誇っていた『あまカラ』編集長の水野多津子さんが、年末に向け活気づく中央市場を訪問。自ら食べ歩いて、素材を吟味し、コメントを寄せるというアーカイブ企画に注目します。家族揃って、正月を祝う「おせち」料理は、この記事が紹介された半世紀以上前から、私たち日本人にはやはり特別なものでした。そして、その素材選びには、その家それぞれのこだわりやアイデア、思いが込められてきたようです。
 「ここの店の、あるいはどこどこの産地のものでなければ」と、指名買いする方も多いようで、黒豆、栗の甘露煮、活け車海老など、年末に近づくにつれ入手が困難になる素材も多数。正月迎えで一層活気づく市場のルポを通じて、日本人にとって正月が、それを祝うおせちがいかに特別で、大切なものであるかが臨場感たっぷりに明かされています。

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1955年『婦人画報』の誌面より。トップページを飾ったのは、中央市場で素材を吟味中の水野多津子さん(右端)。水野さんの左横は、かまぼこで有名な「大寅」のご主人、小谷さん。

2 おせちのルーツは、皇室の「晴の御膳」にあり

 では、一年で最も大切な行事である正月を祝う「おせち」のルーツはどこに? 2012年の正月特集では、天皇家のおせちを再現し、おせちのルーツを探っています。
 おせちの由来は中国から伝わった五節供の行事にあります。奈良時代に朝廷の節会(儀式)として行われはじめ、そのときに天皇が召し上がる供ぜんを節供と呼んだそうです。かつて「おせち」は、五節供の料理ことを指しましたが、現在一般的には正月料理だけの呼び名になっているようです。
 また、歴史書を繙くと、鮎白干し、干した雉の薄切りなど、年神さまに一年の無事と平安をお祈りする元日節会で調えられていたお膳があるようです。これは「晴の御膳」と呼ばれる儀式上の料理。歴代の天皇は、朱塗りの台盤にのせられたこの御膳に、お箸をたてる所作だけをなさってきたようで、この「晴の御膳」がおせちの起源と考えられています
 そして、現在私たちがいただくおせちは、江戸時代に、「晴の御膳」に端を発する天皇家のものが武家に伝わり、町人が発展させたものだといわれています。

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2012年の正月特集で、再現してご紹介した御膳。写真は、現代の宮中で、天皇皇后両陛下が1月1日の朝に召し上がるお料理を再現したものです。「本膳」と下写真の「二の膳」からなります。

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3 新年の食卓を彩る、海の恵みは「北前船」がもたらしたもの

 昆布、鮭、鱈……おせちの重箱には、北国で獲れる食材が数多入っています。なぜ、北国なのか? その疑問を解く鍵となるのが「北前船」の存在なのです。
 江戸時代中期から明治初期にかけて日本海の各地を経由して、大阪と北海道を行き来した貨物船が、ここでいう「北前船」。上方と北国──遠く離れたこの二つの地域を結び、豊かな海の恵み、そして食文化をも運んでいたのがこの北前船だったのです。

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2014年のアーカイブより。今でも、北前船由来の港町には、おせちの「原風景」ともいえるような正月料理が多く残っています。

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こちらは、最北の酒蔵を営む本間家の皆さん。「国稀酒造」の玄関にて。北前船が運び、この旧家に受け継がれてきたおせちを誌面で紹介。

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本間家に受け継がれている五段重。一の重は北海道の海産物を中心に。

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こちらも本間家のおせち。家族でいただくもので、鰊漬け、具だくさんのお雑煮、そして数の子も豪快に盛り付けられています。


撮影=佐伯義勝(1955年) 大山克己(2012年) 阿部 浩(2014年)
文=水野多津子(1955年)