歌舞伎のイヤホンガイドで解説を務めるなど、古典芸能好きとして知られている元フジテレビアナウンサーの吉崎典子さん。

そんな吉崎さんが注目している歌舞伎情報をお送りする本誌連載「吉崎典子の歌舞伎耳寄り話」を『婦人画報プレミアム』でも公開します。

今回は、2023年3月6日から全国12カ所で開催される「中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演2023」より「巡業」についてのお話です。

歌舞伎の未来を拓く巡業公演

毎年春になると、そろそろかな……とウズウズ。今年もわたくしは、3月6日から23日まで全国12カ所で開催される「中村勘九郎 中村七之助 春暁特別公演2023」に同行して、トークコーナーの司会を担当します。

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● ある手紙がきっかけで始まった中村屋の兄弟の全国巡業

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2005年にスタートした中村屋の兄弟による全国巡業は早いもので18年目を迎え、去年全国制覇を遂げています。今回は、東京都北区→千葉→埼玉→東京都江東区→長野→神奈川→大阪→岩手→宮城→福岡→広島→愛媛と回っていきます。近場は自宅から通いますが、ご覧のように決して近い順に移動するわけではありません。いわゆる「乗り打ち」という形態で、「乗り」込んだその日に装置を立て込んで昼夜2公演を「打ち」、片づけて次の地へと連日移動していくという、なかなかハードな行程です。わたくしが担当するトークコーナーでは、兄弟は洋服で登場し、数年前から弟分の中村鶴松さんも加わって、飾らない素顔の魅力を見せてくれます。

春暁特別公演2023
「春暁特別公演2023」(2023年3月6日~23日)

勘九郎さんのご子息の勘太郎さんと長三郎さんが参加したときもあり、親が踊っている様子を舞台袖に並んで正座して見つめている姿には、ホント感動しました。こうやって伝統芸能は受け継がれていくのだなあ、と、しみじみ思った瞬間でした。

中村屋の兄弟が全国巡業を始めたのは、ある手紙がきっかけ。「歌舞伎が見たいけれど、いざ行こうとするとチケット代、交通費や宿泊費がかかり行くことができません」という地方に住む学生さんからの訴えでした。それなら自分たちが行って見ていただこうじゃないか、とスタート。いつも会場で「歌舞伎を初めてご覧になる方は?」と質問をすると、地方によっては半数以上のお客様が手を挙げます。巡業をきっかけに歌舞伎を見始める方もいらっしゃることは本当に嬉しいですが、まだまだ先は長いかも知れません。

十三代目市川團十郎白猿 襲名披露巡業
協力=松竹
「十三代目市川團十郎白猿 襲名披露巡業」(2023年3月4日~27日)

このように歌舞伎俳優は通常よりも少人数で巡業公演を行っています。全国公立文化施設協会主催で「松竹大歌舞伎」中央コース、東コース、西コースや、来年にかけては十三代目市川團十郎白猿さんが襲名披露興行を全国で行う予定です。巡業公演のチケット代はお安くなっているので、もし近くのホールや市民会館で歌舞伎を上演していたら、お気軽に一度覗いてみてはいかがでしょうか。


よしざきのりこ◯東京都生まれ。元フジテレビアナウンサー。現在はフリーで歌舞伎イヤホンガイドの解説や同オンラインストア「耳寄屋(みみよりや)」にてウェブ講座の講師のほか、中村屋密着ドキュメンタリーの監修などを務める。神田松鯉師に講談を学び、古典芸能をこよなく愛する。

『婦人画報』2023年4月号より