2022.11.24

“視聴者に一番近いテレビ局”を目指すテレビ東京に聞く、ファンベースカンパニーの伴走支援で得たもの

株式会社テレビ東京 
曺 絹袖さん・前田 有花さん

  • ファンベース伴走

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テレ東ファンに、テレ東をもっと好きになってほしい。その想いから、テレビ東京では社内横断プロジェクトとして、テレビ東京ファンプロジェクト『Fan more Fun!』を2019年末に発足。ファンとの交流を通じ、ファンにもっと喜んでもらえる方法を考え、最終的にはファンの声を番組づくりやグッズ開発などに繋げることを目指しています。

ファンベースカンパニーでは、プロジェクトの立ち上げ時期に伴走し、ファンミーティングの実施支援・ファンタイプの分析・分析に基づくファンベース施策の提案。同時に、テレビ東京社内に向けたファンベースへの理解浸透のサポートを行いました。

このプロジェクトの推進を担っているテレビ東京総合マーケティング局の曺絹袖(ちょう きょんす)さんと前田有花さんは「現在に至るまでプロジェクトが継続できているのは、ファンベースカンパニーの伴走支援から得た学びが大きい」と言います。ファンベースカンパニーの松田紀子と蜂須賀亮(以下、FBC松田、FBC蜂須賀)が、おふたりから詳しく話をうかがいました。

ファンの顔が見える『テレ東ファン支局』とは?

FBC蜂須賀ファンプロジェクトの開始から3年ほど経ちましたが、テレ東社員とファンとの交流がますます深まっていますよね。立ち上げを支援させていただいた僕らも嬉しい限りです。

曺さんそうですね。ファンプロジェクトの一環で、スタッフによる番組制作の裏話が読めたり、番組の感想などを自由に投稿できるコミュニティサイト『テレ東ファン支局』を2021年10月に開設しましたが、会員数は1.8万人(2022年10月時点)を突破しました。

コミュニティへ投稿されるコメントを読ませていただくと、テレ東ファンが前提になっているためか、温かい内容が非常に多いです。ファンミーティングでも、テレ東のファンの方々はみんな性格が温かいと感じていましたが、オンラインの場でも改めて感じます。

FBC松田テレ東ファン支局では、どのような企画がファンの方々から特に喜ばれていますか?

前田さん人気が高いのは、番組制作の裏側を社員自らが語るコンテンツですね。例えば、ドラマの太田プロデューサーが『5分で読めるテレビの裏側日記』というコラムを連載していますが、どう見ても5分で読めない文量なんですよ(笑)。演出のこだわりとか、ドラマ制作への想いがたっぷりと書かれています。

ありがたいのは、こうした発信によって、その社員が担当する番組を見てみようと思ってくださるファンの方が登場していることです。社員を知っていただくことで、テレ東をもっと好きになってもらえたらと考えていたので、こうした反応は本当に嬉しいですね。

FBC松田番組を一緒に見ながらテレ東スタッフが裏話を話す生配信も行われていますよね。驚いたのは、その配信にキリンビールさんがスポンサーとしてついていたことです。どうやってスポンサーになっていただいたんですか?

2022年9月に開催された生配信。「supported by SPRING VALLEY」として、キリンビール株式会社がスポンサーに。

前田さん営業局のメンバーがファンプロジェクトを紹介したところ、取り組みに共感してくださり、テレ東ファンにビールを楽しんでもらいたいという思いからスポンサーに名乗り出てくださったんですよね。キリンビールさんとの取り組みは3年前から続いています。

正直、はじめは私たちも驚きました(笑)。タレントが出演しているわけでもなく、社員が話しているだけの配信ですからね。ただ、スポンサーについていただいたことで、自分たちは価値ある活動をしているんだと改めて自信をもつことができました。

社内協力を得る鍵は、ファンの価値をデータで語ること

FBC蜂須賀社内横断で取り組まれているファンプロジェクトですが、もともとの発起人は曺さんら数名だと聞いてます。テレビ局でこうした活動に注力するのは珍しいと思いますが、曺さんがプロジェクトを立ち上げた経緯を紹介いただけますか?

曺さんそもそもの発端は、さとなおさん(佐藤尚之)の著書『ファンベース』を読んだことです。人口減少により新規顧客を増やすことが物理的に困難になるなかで、既存のファンを大切にする重要性が説かれていますが、私たちが抱える課題と重なると感じました。

テレビといえばマスメディアの代表格として、番組を放送すれば多くの方に視聴していただける時代が長く続きました。ですが、現在はメディア環境やライフスタイルの変化により、若年層を中心にテレビ離れが加速しています。そうした時代において、どうやってテレ東の視聴者を増やしていくかは難題です。

一方、テレ東で働いていると、取材先の方々から「テレ東が好きです」「テレ東を応援してます」と言われることが多く、少なくない規模でテレ東ファンが存在していることを感じていました。それで、もしかしたらファンベースを実践していくことが、難題を解く鍵になるかもしれないと思ったんですね。

テレビ東京総合マーケティング局 総合マーケティング部の曺絹袖さん

FBC松田ファンベースに可能性を見出した曺さんが、会社全体としてファンプロジェクトに取り組むべきと確信に至った理由は何だったんですか?

曺さんファンを大切にすることが、どんな価値をもたらすのかが不明確だったので、試しに調査をしてみました。すると、視聴時間の長い上位3割の視聴者が、全視聴時間の多くを占めていると判明し、まさに「パレートの法則」(顧客全体の2割である上位顧客が売上の8割をあげているという法則)が成り立っていたんです。

この結果を受けて、コアな視聴者であるファンのことや、ファンの方々が私たちに何を求めているのかをきちんと知るべきだと確信しました。

FBC松田調査から始めたというのは、すごくいいですね。データとしてファンの重要性を社内に伝えていくのは、多くの社員の協力を得るために大切ですからね。

前田さんその通りですね。ファンプロジェクトには様々な部署の社員が参加していますが、本業にプラスアルファで関わってくれています。みんな本業で忙しいなかで、何となくファンを喜ばせようだけでは、ここまでの協力は得られなかったと思います。曺さんがデータでファンの重要性を示してくれたおかげで、社内理解がスムーズに進みました

テレビ東京総合マーケティング局 総合プロモーション部の前田有花さん

最初にファンへの理解を深めたことで、議論がスムーズに

FBC蜂須賀テレ東ファンプロジェクトの立ち上げと同時に、ファンベースカンパニーに伴走支援を依頼いただきました。依頼いただいた背景を改めて教えていただけますか?

曺さんプロジェクトの最初の取り組みとして、「ファンミーティング」の開催を考えていました。同時に、ファンミーティングで聞いたファンの声をもとに、「テレ東ファンとは、どういう人か」という社内の共通認識をつくる必要があると感じていました。それがないと、ファンに喜んでいただく施策を企画する際に、お互いの目線がブレてしまいますからね。

ただ、どうやってファンと出会えばいいのか分からないし、ファンミーティングで何をすればいいかもわかりません。それにファン像を整理するにしても、自分たちだけで進めることに難しさを感じていました。そこで、その道の専門家であるファンベースカンパニーに支援をお願いしたいと思ったんです。

FBC蜂須賀最初に実施したファンミーティングは、2020年2月にテレビ東京の本社で2日間実施しましたよね。報道スタジオ見学からスタートし、社員食堂でクイズ大会をし、「テレビ東京の好きなところ」「テレビ東京をもっと好きになるには」といったテーマでグループごとに話し合いました。

FBC蜂須賀ファンベースカンパニーでは、ファンミーティングの実施支援として、参加いただくファンの選定から当日の運営サポート。イベント後は、発言録からテレ東ファンの分析(ファン像やインサイトなど)や、分析結果から考えられる今後のファンベース施策の提案などをさせてもらいました。

曺さん本当にテレ東の熱心なファンという方に集まっていただくために、平日の昼間開催を提案いただいた時は驚きましたね。こういったイベントって休日や夜に開催するものだと思っていたので。でも、おかげで、とても熱量のあるファンの方々とお会いすることができました。

前田さんその後も、ファンミーティングを継続的に実施していますが、この時に分析いただいたファン像からズレている人はほとんどいません。ファン像が共通認識できるようになったおかげで、企画を考える時の議論がスムーズになりました。

また、番組制作の裏側やスタッフの想いを伝える企画は、最初のファンミーティングで明らかになったファンに喜んでいただけるツボを念頭に企画したものです。ファンベースカンパニーに手伝っていただいて、最初にファンへの理解を深めたことが、その後のプロジェクトに活きていると感じます。

手弁当でも真心をこめればファンは喜んでくれる

FBC蜂須賀プロジェクトの立ち上げにおいて、色々と細かい提案をさせてもらいました。おふたりが印象に残っているものが他にあれば教えていただけますか?

曺さんそれでいうと、ファンミーティングの企画を考えるにあたって、「タレントを呼ばなくていい」と提案してくれたのは大きいですね。

テレビ局でイベントの企画を考えると、ついタレントさんを呼んでしまって、それをメインとして見せようと考えてしまうところがあるんです。でも、「社員さんが参加してくれれば大丈夫です。どの会社のファンミーティングでも『社員さんと話せたことが一番良かった』とファンの皆さんからコメントいただくので」と提案してくれました。

提案いただいた時は半信半疑でしたが、結果として正解でした。ファンミーティングに参加いただいた方へのアンケートで、「社員の話が聞けて嬉しい」という声が多くありました。

前田さんあと、会場に飾る装飾をプロの美術さんに頼んで、ハイクオリティなものを作ろうと考えていたんですが、ファンベースカンパニーの皆さんが「社員さんの手作りで大丈夫です」と言ってくれたのも記憶しています。その提案も正解で、「社員さんが一生懸命にやっている感じが伝わってきて良かった」という声をファンの方々からいただきました。

前田さん実際、ファンプロジェクトは予算が潤沢にないプロジェクトで、ゲストを呼んだり、装飾を凝ろうとすると継続が難しくなってしまうんですよね

自分たちのできる範囲内で、ファンに喜んでもらうために精一杯頑張る。そうした手弁当でやることが、ファンに受け入れられることを、プロジェクトの初期段階で気づけたのは本当に大きいです。その気づきがなければ、ここまで継続することは難しかったと思います

FBC松田おふたりの話を聞いて、ファンベースの実施において「手弁当」は重要なキーワードだと感じました。ファンベースの取り組みは売上や利益にすぐに直結するものではないので、最初はどうしても予算が限られてしまいます。だから、まずは自分たちができる範囲内で、無理のない形ではじめたほうがいい。

ハイクオリティなものをやらないとファンは喜んでくれないんじゃないかと思われるかもしれませんが、そうではないんですよね。手弁当でも真心をこめればファンは喜んでくれる。それをテレ東さんが証明してくれていますよね。

視聴者に一番近いテレビ局でありたい

FBC蜂須賀最後に、ファンプロジェクトを推進するなかで、ご自身のなかで変化が生まれたことがあれば教えていただけますか?

前田さん私はドラマを中心とした宣伝の仕事をしているんですが、例え数字として結果がでても、自分の仕事に手応えを感じづらいところがありました。テレビは視聴者の顔が見えないので、宣伝を担当した番組がどう受け止められているのかを実感しづらいんですね。

それが、ファンの方々の顔が見えるようになり、「今回の番組、面白かったです」といった声をかけていただけるような距離感になったことで、手応えを感じやすくなりました。数字に加えて、ファンの方々に喜んでいただける状態を目指すことが、自分の実現したい仕事だと自然と思うようになりましたね。

FBC松田コンテンツを制作したり、メディアを運営する人にとって、ファンからの反応をダイレクトに得られるというのは、純粋にやりがいに繋がりますよね。

前田さんまさにそうですね。また、ファンプロジェクトによってテレ東社員のことをよく知るようになり、「こんな想いで番組を作っているんだ」と自分もファンになることがあります。そのメンバーが一生懸命に手がけている番組は、宣伝をもっと頑張っていきたいと思っちゃいますね。

曺さん私もそうですけど、ファンプロジェクトを通じて、テレ東への愛を再燃させているスタッフは多いと感じます。自分たちの作ってるものや、自分たちの会社がこんなに愛されていることを知るのは社員として嬉しいことで、純粋に仕事へのモチベーションが上がりますよね。

どのようにファンの声を番組制作やグッズ開発などに活かしていくかといった課題はあるものの、初期段階としてはいいスタートが切れたと感じています。双方向でコミュニケーションするところまでは行けたので、今後はファンの方と一緒にもっと色々なことをやっていきたいです。

視聴者に一番近いテレビ局でありたいと思っていて、これからもファンプロジェクトを盛り上げていきます。

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インタビューをした人

Profile松田 紀子ファンベースディレクター

新卒からずっと出版業界でしたが他の世界も見たくて転職。広報部運営やコミュニケーション周りを担当。生活情報誌編集長の経験があるので生活まわりの案件担当多め。ファンの声を聴いて言語化することが得意。それには語彙が豊富じゃないと!ということで年間100冊読破することを目標に、空き時間は読書に費やす。

Profile蜂須賀 亮プロデューサー

ファンベースカンパニーの立ち上げから参画。プロデューサー業務のほか、プランナー業務・広報・新規事業開発もちょっとずつ担当。ファンと企業を繋げていくことを考えていると、その企業のファンになっていくことが発覚。それはそれで素敵な事やなぁと前向きに考えられる関西人。好きな食べ物は杏仁豆腐。

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