ロコ・ソラーレ
吉田知那美インタビュー(後編)

カーリング女子日本代表の吉田知那美「私たちは大きく成長する前...の画像はこちら >>

カーリング女子日本代表のロコ・ソラーレが平昌五輪銅メダルに続いて、北京五輪でも銀メダルを獲得した。その快挙を記念して、かつてのインタビュー(取材は2020年7月。

掲載は2021年1月~2月)を改めて紹介。ここでは吉田知那美がロコ・ソラーレのメンバー、そしてチームの魅力について語っている――。

――新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今季(2020-2021)はいろいろと大変だったと思うのですが、自粛期間中はどのように過ごしていましたか。

「基本的には、みんなと一緒です。行ける時はジムで、行けない時は家でトレーニングしていました。あとは、たくさんミーティングをして、英語の勉強をして、という感じです」

――吉田知那美選手の英語はだいぶ上級者だと思いますが、それでも勉強されるのですね。

「ここ数年、英語でのインタビューも増えてきたので、それに対応するために『EAT(ENGLISH FOR ATHLETES)』という、アスリート専門のオンライン英会話プログラムを使って勉強しています。でも、いくら勉強を重ねても、ゲームの詳しい展開や、その時の感情を適切に英語で表現するのは、本当に難しいですね。

 また、このプログラムではアメリカ人講師から日本の歴史や文化、時にはデリケートな時事問題などを質問されます。英語の勉強をしながら、日本の文化や歴史を調べて学び、日本という国に対して、自分はどう考え、将来的にどういう展望を抱いているのか。そういったことをしっかり考えるいい機会にもなっています」

――知那美選手のSNSなどを拝見する限り、ステイホーム中でも充実した生活を送っているように見えました。

「家族との時間が増えたことはうれしかったですね。

久しぶりに家庭での行事をすべてやったような気がします。母の日や父の日、これまでやったことのなかったサンクスギビング(感謝祭)までやりました。

 なかでも、いつもは遠征でいない11月のお母さんの誕生日を、手巻き寿司でお祝いできたことはよかったです。みんなで『あと、どれだけ一緒にいられるかな』という話もできて、(昨年の)世界選手権がなくなったことも、ひょっとして神様が『休みなさい』と言っているのかなと思ったりしました」

――オフには、妹の夕梨花選手とともにカーリングカレンダーに登場したことも話題になっていました。

「以前からお話はいただいていて、時間が取れそうな今季は、寄付したい団体もあったので、参加させていただきました。(寄付先は)神戸の『チャイルド・ケモ・ハウス』という医療ケアが必要な子どもたちのための施設なんですけれど、少しでも力になれたらうれしいです」

――さて、チームでは藤澤五月選手とコンビを組んで5年以上の時が経ちました。

いちばん近くで見ていて、どういったところに彼女のすごさを感じますか。

「いっぱいあるなぁ~。例えば私にミスが出ても、さっちゃんは絶対に責めないですね。人のミスを責めないのは当然で、それに加えて『私がもっとこうしたら、このミスは起こらなかったね』という感じで、いい意味で自分軸でモノを考えられるところ、それを自然にできるところがすごい。

 あと、すごく勉強家です。いろんな試合を見て、データを取って、ノートをつけて。

私たちはそのデータをもとにして、戦略を組むことも多いです。カーリング以外でも、仕事で使う保険の勉強をしたり、アロマの資格を取ったり、この前は人体解剖図を読んでいました。本当にいろいろと勉強している人です」

――他のチームメイトのことも聞かせてください。鈴木夕湖選手はいかがですか。

「私は、あらゆる意味で"天才"だと思っています。ああ見えて、カーリング界のことをしっかり見ているし、すごく考えてくれています。

(他人に対して)垣根とか、バリアとかを作らない人だから、リーグ戦で他のチームの助っ人にいったり、ぴーちゃん(相田晃輔/コンサドーレ)と弥子(松澤弥子/ロコ・ステラ)のミックスダブルスの練習に付き合ったり、いろいろなところで頼られていますね。

 私にとっては(小笠原)歩ちゃんとか、(船山)弓枝ちゃんとか『ああ、こういうふうに技術を伝えてくれた先輩がいたなぁ』ということを思い出させてくれる存在。身近にいながらすごい技術を見せてくれる、そういう人になっていると思います」

――妹の夕梨花選手のことはどう見ていますか。

「夕梨花も、言葉に出さなくても、すごくたくさんのことを考えている人ですね。今はきっと言語化する力を養っている最中だと思うので、今後もぜひ、話を聞いてあげてください。名言が出てくると思います。

 また、今シーズンは体作りであったり、コンディショニングであったり、そういったことに時間をかけているのがすごく伝わってきました。基礎から体を作るのって、相当きつくて、根気がいる作業なんです。でもそれを、周囲に見せずに努力できる人。小さい頃、彼女の口癖は『無理』とか『できない』だったんですけれど、あの頃の夕梨花はもういないですね」

――そんな個性が強い選手がそろうチームにあって、知那美選手はどんな役割を果たしているのでしょうか。

「え~ッ!? 何だろう、何だろう? ちゃんと考えたことがないです、すみません......」

――外から見ていると、率先してメディアに対応したり、場合によっては(周囲から)チームを守ったりしている印象を受けます。

「いやいや、ちっぽけですよ、私なんて。でも、『私の役割はこう』っていうものがなくても、ロコ・ソラーレには居場所があるな、とは感じています」

――変則的なシーズンとなった今季もクライマックス。大一番となる日本選手権を迎えました。

「昨シーズン(2019-2020)の世界選手権の中止から始まって、楽しみにしていた大会や海外遠征がすべて中止になって、ずっと悲しかったです。どれだけ準備をしても、真剣に準備すればするほど、傷つくし、悲しかったし、苦しかった。

 今季も、日本選手権は開催されましたが、この先、まだどうなるかわからない。それでも、どんなにショックを受けても、今まででいちばんいい準備をしたいし、しなくてはいけない。何が起きても『それまで、最高に楽しい時間を過ごせたよね』と言い合えるように準備してきました」

――悲しい、苦しい思いをしても、心が折れることはなかった。それは、どうしてでしょうか。

「成長している実感はちゃんとあるから、ですかね。普段のトレーニングをしていても、それを感じるメニューを組んでもらって、JD(ジェームス・ダグラス・リンドナショナルヘッドコーチ)、亮二さん(小野寺亮二コーチ)、(石崎)琴美ちゃんという客観的な目があって、(そうした人たちから)的確な意見をもらえる。それには救われました。

 そして何よりも、私たちは諦めていないです。グランドスラム(ワールドツアーの最高峰の大会)にまた出たいし、そこで勝ちたいです。グランドスラムは、どれも決勝戦みたいな試合ばかりで、アイスの上には最強の人しかいないんですけれど、ロッカールームに行けば、お互いに認め合っている選手同士が作る雰囲気が穏やかで、ハッピーで、すごく楽しい。あの舞台でタイトルを獲っていないので、あそこに戻って挑戦したいという気持ちは強いです」

――その前に、まずは日本選手権。今回は2022年北京五輪につながる重要な大会となります。知那美選手はこれまで、どんな大会においても「負けられる時に負けられていた」という独特の表現をされていますが、今大会に向けての抱負を聞かせてください。

「もちろん、すべての試合で勝とうと思っていますけれど、ずっと勝ち続けることはできません。当然、負けた時はものすごく悔しいです。でも、結果論ですけれど、私たちは大きく成長する前にしっかり負けて、悔しい思いをしているんですよね。

 日本選手権も最近は、特にレベルが上がっているので、勝敗はどうなるかわからないです、本当に。でも、『勝つか負けるか』よりも『勝つか学ぶか』というところで、ここ数年はやらせてもらっています。負けたあとに何を思って、(次に)どう取り組むかが大切なので、悔しさはあっても、負けることに関しては、怖さや悲しみはないです」

――最後に五輪への思いを改めて聞かせてください。

「うまく言えないんですけれど、カーリングをやっている選手だったら『オリンピックに行きたくない』なんていう人はいないと思うんです。でも、『絶対にオリンピックに出場します』とか、『金メダルが目標です』とか、それを口に出したり、強く願ったりすれば、それが叶うわけではないので、それよりも今やれることをしっかりやるだけ。それが、先につながるのかな、と。

 オリンピックで得たあの経験が、人生の中で特別であることは間違いないですし、チャンスをつかめるのであれば、また行きたいなと思います。だからこそ、明日の練習も、次の試合も、同じくらい楽しみですし、大切なもの。今はそう思います」

(おわり)

カーリング女子日本代表の吉田知那美「私たちは大きく成長する前に、負けて悔しい思いをしている」
吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日北海道北見市生まれ。小学校2年時にカーリングを始め、中学時代から日本選手権に出場するなどの実績を残す。2011年に北海道銀行フォルティウスに加入し、2014年ソチ五輪出場を果たす。同年6月からはロコ・ソラーレでプレーし、2016年の世界選手権銀メダル、2018年の平昌五輪銅メダル獲得に貢献した。最近ハマっているのは再読した漫画『バガボンド』で、「高校時代に読んだ時は宮本武蔵が何に悩んでいるかわからなかったけど、大人になって読んで少し武蔵の気持ちがわかった」
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