アイドル界のトップランナーであり続ける乃木坂46。その未来を担う五期生たちが語るエピソード。

4人の少女たちは、乃木坂46の何に憧れ、なぜここにたどり着いたのか。

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2022年2月。

乃木坂46公式YouTubeで、五期生のプロフィール動画の公開が始まった。

「神奈川県出身、16歳。井上和(なぎ)です」

先陣を切って世に飛び出したのは、現在も五期生の"顔"として11人を引っ張り続けている井上和。彼女は後に『週刊プレイボーイ』の取材でこう答えている。

「平日のお昼に私の動画が公開されたんですけど、それを見たほかのクラスや別学年のコたちが、お昼休みに教室にどんどん来て。帰り道でも、急に知らない人から『頑張れ!』って応援の声をもらいました」

いつしか"誰もが憧れる存在"となった乃木坂46に、応募総数8万7852人の中から選ばれた、たった11人の少女たち。

彼女たちもきっと、大きな憧れを抱いて乃木坂46にたどり着いたはずだ。今回、4人の五期生の幼少期から乃木坂46に出会うまで――その道程を聞いてみた。

■悲しみを忘れるために【冨里奈央の場合】

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乃木坂46の五期生メンバー・冨里奈央
愛嬌(あいきょう)があり、人懐っこい。誰からもかわいがられる愛されキャラ。そんな印象の冨里奈央だが、彼女の小学生時代は決して明るいものではなかったという。

「小学校中学年の頃に、同級生のある女のコとうまくいかなくなったんです。ささいなすれ違いから、そのコは"友達"とは言えなくなってしまいました」

本人は「ささいなこと」と語るが、多感な時期の少女が他者を恐れるようになるには、十分すぎるボタンのかけ違いだった。

中学に進学しても、誰を信用して、誰と目を合わせていいのかわからない。彼女はやがて、学校に通えなくなってしまった。

「授業を受けてないから勉強はできないし、行きたい高校もなくて。将来に行き詰まっていたときに、お父さんが『一度受けてみなよ』って、五期生のオーディションを勧めてくれました。

そのときに、昔見た『悲しみの忘れ方』って映画を思い出したんです」

2015年公開の『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』。「人は変われる」をテーマに、メンバーが過去の出来事から一歩を踏み出す瞬間を映したドキュメンタリー作品だ。

「それを見たとき、白石麻衣さんでも学校に行けなくなったことがあったんだって、びっくりしたんです。そのことを思い出して、私も『こういう自分も、何かを変えられる場所かもしれない』と思いました」

大先輩が暗い過去を払拭したアイドル――そんな乃木坂46に憧れ、冨里は居場所を求めてオーディションに参加。合格から2年がたった今、彼女はとある優しさに支えられているという。

「昔の私と同じように、いろんな経験をしてきたメンバーと出会ったんです。

『すごく強いコなのに、人の気持ちをよく考えるすてきなコだな』って、驚いた覚えがあります。そんな尊敬できるコに出会えて良かったですし、やっぱり乃木坂46は、合格する前のイメージどおり、周りのことを本気で思いやる人ばかりでした。その優しさのおかげで、自分らしく生きられているなって思います」

■終わらない青春感を求めて【小川 彩の場合】

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乃木坂46の五期生メンバー・小川 彩

乃木坂46の五期生メンバー・小川 彩

小川彩は、3歳から14歳までダンスに打ち込み、同時にピアノも習う、多忙な少女だった。

「3つ上のお兄ちゃんをまねるようにダンスを始めたんですけど、好奇心が強すぎて、踊りたいジャンルがどんどん増えていっちゃうんです。最大で、週6でレッスンに通っていました」

どんなに忙しくなったとしても、興味を持てば夢中で食らいつく。そんな小川の好奇心は、乃木坂46のオーディションのときも彼女を突き動かした。

「乃木坂46自体は、『Sing Out!』(23rdシングル)の頃に『アイドルなのに、こんなにはかなくて、きれいなパフォーマンスをするんだ』って好きになったんです。

それから2年くらいたって、『乃木坂46って、今オーディションやってたりするのかな?』と思って調べてみたら、ちょうど開催されている時期で。なんだか誰かに『受けなさい』と言われた気がして、すぐに応募しました」

彼女が当時から憧れていたのは、乃木坂46が醸し出す「女子校の青春感」だった。

「空想のようにキラキラした年上のお姉さんたちが、青春を楽しんでいる感じにすごく憧れていました。そのイメージは加入した今も変わっていないです。たぶん今の私は、普通の高校生らしい生活はしていないけど、それでも先輩後輩で作っていくアンダーライブなどは特に青春を感じます。それはきっと乃木坂46にいる限り感じると思うので。

幸せだと思います」

そんな小川は加入当初、先輩たちが築いてきた"乃木坂らしさ"に対して、縮こまることが多かったという。

「言い方は悪いですけど、去年までは『乃木坂46の仮面をかぶらなきゃ』と思い込んで、本音を出せずにいたと思います。でも、鈴木絢音(あやね)さん(今年3月卒業)が、卒業コンサートが始まる前、円陣を組んでいるときに、『みんなきっと、一、二期生が乃木坂46のイメージを作ってきたと思ってるけど、今のコたちが乃木坂46だから。過去にとらわれないでね』って言ってくださったんです。肩の荷が下りた気がしました」

3月、最後の二期生・鈴木の卒業をもって、一、二期生が全員卒業。迎えた8月の「真夏の全国ツアー2023」千秋楽公演では、キャプテン・梅澤美波が「私たちが乃木坂46です!」と宣言した。

そして今、小川は未来の自分について、こう語っている。

「昔から憧れているのは(齋藤)飛鳥さんです。でも、私は飛鳥さんではないし、飛鳥さんになりたくてもなれない。だったら、ただ飛鳥さんのように、メンバーやファンの方、スタッフさん......誰からも愛される人になりたいなと思いました」

■かわいい女のコに憧れて【一ノ瀬美空の場合】

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乃木坂46の五期生メンバー・一ノ瀬美空

乃木坂46の五期生メンバー・一ノ瀬美空

「小学校の頃はとにかくドッジボールが好きでした。15分休憩と昼休みはもちろん、放課後もできるように、マイボールも持ってました。今振り返っても、自分でもよくわからないくらいのめり込んでました」

あざといキャラとして過ごす一ノ瀬美空(みく)の小学生時代は、意外にも活発なものだった。

ドッジボールと同時に小さい頃から好きだったのは「かわいい女のコ」。AKB48に夢中になった時代を経て、最初にひと目ぼれした乃木坂46メンバーは、生田絵梨花だった。

「実は、私より先に母が乃木坂46を好きになったんですよ(笑)。母はもともと白石さん推しだったんですけど、ドラマでピアノを弾いていた生田さんの演奏に衝撃を受けたらしくて。私もピアノをやっていたので、『こんなにかわいくてピアノが上手なアイドルがいたよ』って教えてくれたのが、生田さん―乃木坂46との出会いでした」

かわいい女のコがたくさんいる、キラキラした世界。いつしか彼女も芸能界に憧れるようになった。しかし、看護師として働く母は、娘が安定した職業に就くことを願っていた。

「五期生のオーディションは誰にも言わずに受けました。ある日、学校から帰ってきたら、通過通知の封筒が届いていて、すぐにバレて(笑)。受験生で一番大事な時期だったので、ものすごく怒られました。でも、母も白石さんや乃木坂46が好きなので。相談し続けて、最後には母もオーディションを続けることを許してくれたんです」

こうして一ノ瀬は、乃木坂46の一員に選ばれることになる。加入前の乃木坂46の印象について、彼女はこう語った。

「どのグループよりも、女のコが憧れるものをたくさん持っているように見えていました。きれいな衣装だったり、みんなかわいいのに仲がいい雰囲気だったり。世間一般でいう"乃木坂らしさ"って、きっとそういう部分や清楚(せいそ)さだと思うんです。

でも、メンバーとして活動してみると、そういう部分よりも、『ひとりひとりの心が強いこと』に憧れるようになりました」

「例えば誰ですか?」と聞いてみると、彼女は山下美月の名前を挙げる。

「ドラマにたくさん出ていたりもして、世間的にも有名で本当に忙しいのに、ライブのリハーサルや番組、どんなお仕事にも誰よりも全力なんです。きっとそれって強い芯があるからで、その芯を手に入れられたときに、私も本当に乃木坂46になれるんじゃないかなと思います」

■温かさの連鎖に触れて【中西アルノの場合】

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乃木坂46の五期生メンバー・中西アルノ

乃木坂46の五期生メンバー・中西アルノ

イタリア・フィレンツェを流れる「アルノ川」。中西アルノの名前の由来は、両親が新婚旅行先で見たこの川だった。

「ある意味覚えやすいので、最近ようやくこの名前で良かったと思えるようになったんですが、小さい頃は『ハーフじゃないのに、なんでカタカナなの?』ってからかわれるのが嫌でした」

そんな名前も多少影響するのか、幼少期から「変わったコだね」と言われることも多かった。

「校庭で遊ぶ時間があっても、端っこでダンゴムシを丸めて遊んでたり、休み時間も、お気に入りで肌身離さず持ち歩いてた『キノコ図鑑』を眺めたりして過ごしてました。その頃からずっとひとりが好きで、あまり人と深く関わらないような人生を送ってきましたね」

どこか人ごとのような、熱のないトーンで当時を振り返る中西。オーディションを受けるときも、そこに大きな自分の意志があったわけではなかった。

「五期生のオーディションって、友達や姉妹で一緒に応募できる制度があったんです。乃木坂46が好きな大学の友達に誘われて、『あんなかわいいアイドルの中に私が入れるわけがないけど』って思いながら、記念受験の気持ちで受けました」

結果、友達と一緒にではなく、中西だけが合格することになる。

人と深く関わらず、とりわけて大志を抱くタイプでもない。そんな彼女の心は、加入してすぐ、ある先輩の行動によって動かされていく。

「初期も初期、右も左もわからない時期に、向井葉月さんが『遊ぼうよ』って連絡をくださったんです。うれしくて、正直に『心細かったので、誘ってくれて本当にありがとうございます』って伝えたら、葉月さんは『私もたくさん、先輩たちが助けてくれたからさ』って」

無条件の優しさに触れたのはほとんど初めてだった。中西はこの時期、あることに気がついたという。

「五期生のお見立て会の日、梅澤美波さんが司会で来てくださったんです。後から知ったんですけど、その日の梅澤さんって、朝の情報番組のために早朝から動いていて、その後も舞台の稽古に行って。最後にお見立て会に来てくださったらしくて。

そんな梅澤さんや葉月さんのおかげで、『先輩たちはどんなに忙しくても、後輩やグループのことを思って動いているんだ』『こういう温かさが連鎖してきたグループなんだ』って気づきました。それが私の中で乃木坂46に対する憧れになって、今があると思います。私もいつか、そういう先輩にならないとって思いました」

それぞれの物語をたどって、乃木坂46に集まった4人の少女たち。控えめな彼女たちは、きっといつまでも「いつの日にか、先輩たちのように......」と、謙虚な気持ちを持ち続けるのだろう。

しかし、彼女たちもすでに紛れもなく乃木坂46の一員。4人もまた、"憧れられる存在"として歩みを進めている。

●冨里奈央(Nao TOMISATO) 
2006年9月18日生まれ 千葉県出身

●小川 彩(Aya OGAWA) 
2007年6月27日生まれ 千葉県出身

●一ノ瀬美空(Miku ICHINOSE) 
2003年5月24日生まれ 福岡県出身

●中西アルノ(Aruno NAKANISHI)
2003年3月17日生まれ 千葉県出身

取材・文/アオキユウ(short cut) 撮影/熊谷 貫(冨里) 持田 薫(一ノ瀬) 三瓶康友(中西) 篠田直人(小川)