“2時間ドラマの帝王”・船越英一郎が6月3日にスタートする土ドラ『テイオーの長い休日』で主演を務める。演じるのは元2時間サスペンスの帝王で現在は仕事に恵まれない俳優・熱護大五郎という、まるで自身をパロディ化したような役柄。
熱護とは対照的に、常に第一線で活躍する船越に、2時間ドラマの魅力について話を聞いた。

【写真】ドラマで“2時間ドラマの帝王”役に、『テイオーの長い休日』場面カット【8点】

初めて2時間ドラマに出演したのは『火曜サスペンス劇場』(日本テレビ系)の『歯止め』で、1983年4月5日に放映。松本清張原作の短編小説が原作で、長山藍子演じる主人公・津留江利子の息子役を演じた。

「『火曜サスペンス劇場』が誕生したのが1981年ですから、2時間ドラマの黎明期と言っていい時代。撮影現場は映画そのもので、出目昌伸さんという元東宝の監督がお撮りになって、撮影日数は1ヶ月近くと、今よりもずっと贅沢な時間の使い方をしていました。ビデオではなくフィルム撮りで、映画との違いはフィルムが35ミリではなく16ミリというぐらいで、打ち上げも大層豪華でした。
松本清張さんの原作は特別感があったというのもありますが、当時の2時間ドラマは一作ごとに大作感がありましたね」

2時間ドラマの先駆けである『土曜ワイド劇場』(テレビ朝日系)、『火曜サスペンス劇場』の視聴率が好調なことから、この流れに他局も追随した。

「それまで『土曜ワイド劇場』と『火サス』ぐらいしかなかったのに、数年で飽和状態を迎えるぐらい各局が2時間ドラマを作るようになりましたし、全盛期は時代劇スペシャルなどを入れると週10本くらいあったんじゃないですか。それが月日と共にゴソッとなくなって、映像文化の大変な損失であることは間違いありません。全ての映像表現を凝縮したものが2時間ドラマだと思いますし、僕は日本が生んだ世界に誇る文化だと思っています」

これまで2時間ドラマで数多くの主演シリーズをヒットさせてきたが、単独主演を務めたのは2003年1月25日に『土曜ワイド劇場』内で放映された『火災調査官・紅蓮次郎』の第1作目と意外に遅かった。

「20代の頃からバディものの相手役をやっていましたので、今風に言えばW主演の作品はたくさんありました。だから、『2時間ドラマの単独主演は40歳を過ぎてからです』と言うと、皆さん驚かれます。
2時間ドラマは女優さんが主役の作品が多かったですから、わりと遅かったんですよね。

自分のメインフィールドだと思ってやってきた2時間ドラマで、初めて1人で作品を背負うことは感慨深かったですが、プレッシャーはありませんでした。おかげさまで『火災調査官・紅蓮次郎』は1作目から視聴率が20%を超えましたので、ずいぶん大きく報道していただいて。それをきっかけに、次の年には各局の2時間ドラマの主演を制覇させていただいて、あっという間の出来事でした」

2時間ドラマが量産された頃は、撮影日数も限られており、過酷な現場も多かった。

「映画と変わらない尺ですから、僕が2時間ドラマに出始めた頃は、同じように時間をかけなきゃ作れなかった。それが、いろんな事情で時短されていって、気づけば10日間で撮らなきゃいけなくなった。
そうなると1日の分量は増えていきます。でも人間ですから、そんなに集中力は続かない。しかもロケものだと自然とも戦っていかなきゃいけないですから、とにかく過酷でした」

2時間ドラマのクライマックスと言えば、“崖”の印象が強いが、「皆さんが思っているほど崖に行っている訳ではないんです」と振り返る。

「日本は島国ですから、どこに行っても崖はあります。内陸部ですら、山岳地帯には崖がありますからね。ただ、全ての作品で崖に行く訳ではないですし、僕の出演作でも崖は半分もないですよ(笑)。
それだけ崖はインパクトが強いんでしょうね。崖のシーンに恐怖心はありません。撮影中はアドレナリンも出ますから、恐怖なんて味わっている暇がないんですよ。むしろ僕がギリギリまで行くものですから、年中スタッフに怒られていました」

2時間ドラマの撮影で全国津々浦々を訪れ、30代半ばにして全県を制覇したという。

「それだけ旅情サスペンスと呼ばれる作品が多く作られていたんですよね。僕がやらせていただいているシリーズも、ほとんどが旅情ものですから。
なぜ、それほどまでにニーズがあるかと言うと、一つは疑似体験ができるということですよね。お茶の間にいながらにして、様々な風光明媚な場所を巡ることができて、登場人物たちが美味しいものを食べれば自分たちも食べたような気持ちになれる。あるいは自分自身が旅に行く時のレシピも、それを参考に組み立てることもできますし、いろんな楽しみ方がありますよね。

もう一つは松本清張さんの小説で大ヒットした作品は旅情ものが多い訳です。西村京太郎さんにいたっては、ほとんどが旅情ものですから。旅情っていうぐらいですから、『旅に情け』で、そこにドラマがある訳です。
だからドラマを構築しやすいっていうのもあるでしょうし、日本人はやっぱり旅が好きなんです」

現在、地上波民放で2時間ドラマのレギュラー枠は消滅、完全撤退を表明したテレビ局もある。だがBSなども含めると毎日のように過去の名作が放映されているし、不定期ながら新作も作られ続けている。

「2時間ドラマは事件を解決していく、犯人を探していく、それを皆さんに楽しんでいただくミステリーが基本。でも、その骨格には繊細な人間ドラマがあって、ホームドラマやラブストーリー、時にはコメディも存在します。だからこそ、今まで映画やテレビドラマでたくさん語られてきた全てのカテゴリーが、2時間ドラマの中にギュッと凝縮されて詰め込まれている気がするんですよね。

あと2時間という尺。映画の大半も2時間前後ですが、これは長い歴史の中で、人間が一番集中してリラックスして楽しんで見られる時間だろうと。しかも一話完結ですっきり終わる。だから多くの方に支持されてきたと思うんです」

『テイオーの長い休日』で船越が演じる熱護大五郎は、2時間サスペンスが作られなくなり、テレビから消えて、1年以上も仕事がない状態の“元2時間サスペンスの帝王”で、風前の灯火とも言える2時間ドラマの現状が描かれている。

「2時間ドラマが消滅する日が来てしまうのは、身をよじるぐらい残念なこと。とにかく、この火を消さないで、また皆さんに2時間ドラマを楽しんでいただける時代が来るように、虎視眈々と面白い作品を作り続けなきゃいけない。再放送を観ていただくのもいいですけど、また新作が観たいと思っていただきたいですし、そんな時に『ほら、面白いでしょう』ってお出しできるように準備は怠らないように心がけています。

2時間ドラマ愛あふれる人たちが作った『テイオーの長い休日』が皆さんのところに届いて、『また2時間ドラマを観たい』というお声を聞くことができたら、これはもう役者冥利に尽きますね」

▽テイオーの長い休日
毎週土曜日夜11時40分から東海テレビ・フジテレビ全国ネットにて放送(6月3日スタート)。TVerでは最新話無料配信。FODでは最新話ま で全話配信。

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