『おかえりモネ』第2週「いのちを守る仕事です」

第6回〈5月24日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』りょーちんこと及川亮(永瀬廉)の登場で未知(蒔田彩珠)と視聴者の心に風
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

父、迎えに来る

気象予報士を目指す主人公・モネこと永浦百音(清原果耶)の物語『おかえりモネ』第2週は、故郷の海の町(気仙沼の亀島)を離れ、山の町(登米)で働いているモネを心配して、父・耕治(内野聖陽)が予告もなしに訪ねて来る。

【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第6回掲載中)

「とにかく私はこの島を離れたい」と出て行ったモネの真意がつかめず不安な耕治。電話を何度もするがモネは出ない。
ようやくメールを返してきたと思ったら、「島がいやなわけじゃない。でも」「私はここにいます」(第5回)だから、モヤモヤするのもわからなくはない。

ちょうどモネは森林組合に正式採用されたところだったが、耕治は実家に戻したいとサヤカ(夏木マリ)に言う。モネを溺愛している感満々の耕治に「娘の気持ちを自分がいちばんわかっているって言う父親ほど愚かなものはないよ」とサヤカは宮城訛りでたしなめる。

朝ドラのお父さんにしては、耕治は普通な印象である。ちゃんと銀行で働いているし、娘を心配しているし、連絡もなしに迎えに来て泊まる気でいるとはいえ、あくまでも穏やか。
わあわあ騒いだりしないでわきまえがある。お土産も持ってきている。紳士的だ。

「おれ、こっちのほう(波の音より木の音)が好きかもなぁ」

音に敏感なのは音楽が好きだからだろうか。モネと父は音楽が趣味というところで共通している。静かな山の音を聞きながら語り合うモネと耕治の関係性がこの場面から静かに立ち上ってくる。


モネと山の音を聞きながら、実家の漁業を継かないで銀行員になった理由を話し出す耕治。かつて漁師はモテまくったが、この時代(2014年)、漁師は全然モテない、と一蹴する耕治のあとに現れたのは――

さわやかな「りょーちん」、Twitterトレンド1位に

モネの幼馴染・りょーちんこと及川亮(永瀬廉)だ。日に焼けた顔で気仙沼本土の港の船上で作業している。彼は耕治が選ばなかったモテないはずの漁師になっている。ゆるふわの金髪にピンクの作業着が目立っている。

そこに通りかかったモネの妹・未知(蒔田彩珠)は「すごく大変な仕事で、今なる人少ないし。なのに卒業してすぐ船乗るって……すごいです」とまぶしそうに彼を見上げる。
彼女が「りょーちんさん」と呼ぶのも初々しい。

するとりょーちんは船からひょいと飛び降りて未知をすっと引き寄せる。そこへ車が走り込んで来た。りょーちんは未知にこそっと本音を漏らす。船上に乗っている上司らしき年配の人物には本音を聞かせたくなかったに違いない。

未知を車からかばうことと、上司(?)に本音を聞かれないようにすること――船から降りるふたつの必然性をまたたく間に完遂するりょーちん。
この風のように瞬速な身振りは未知のみならず視聴者の心にも風を吹かせたことであろう。脚本と演出と俳優の三位一体によるじつにいいお披露目シーンになった。モテそうな漁師、ここにあり。Twitterトレンドも1位になっていた。

『おかえりモネ』りょーちんこと及川亮(永瀬廉)の登場で未知(蒔田彩珠)と視聴者の心に風
写真提供/NHK


『おかえりモネ』りょーちんこと及川亮(永瀬廉)の登場で未知(蒔田彩珠)と視聴者の心に風
写真提供/NHK

「死ぬがらね、漁師は」

なんとも瑞々しい生命を感じさせる、海辺のりょーちんと未知。そこから再び、山のモネと耕治に場面は転換する。

ランプの灯火を見つめながら、「死ぬがらね、漁師は」と心の準備なんておかまいなしにふいに「死」を口にする耕治。
「自然相手にきつい仕事して、下手したらあっという間に死ぬ」「それより科学とか経済とかさ、そういうもんで世の中よくしていくっていいなって。そっちのほうが俺は合ってるなって」と耕治は端的に漁師の仕事の危険性を指摘する。

海が嫌いなわけではないが、安全な道を選んだ。(悪い意味ではなく)保守的な人物であることが、彼の穏やかで波風立てない話し方に現れている。モネを心配してわあわあ喚き立てることはしない。娘を溺愛し心配し迎えに来るほどの行動力を発揮しながらも決して声を荒げず娘に感情で向かっていくことのない思慮深さのある人物だと感じる。
耕治もまた、データ主義の気象予報士・朝岡(西島秀俊)と同じく、自然の驚異に人間の知恵で向き合いたいタイプである。

「普通に仕事していて生命落とすようなの、そんなの納得いかないじゃない」

山に囲まれたオープンテラスで、できるだけ淡々と「死」について会話している中で、耕治のこのセリフはどこかやりきれなさがあって、「死」を観念的に語っているのではけっしてなく、実感として伝わってくる。ともすれば、耕治のバックボーンの説明セリフになりそうなところを、内野聖陽が見事に肉体に落とし込んで語り、清原果耶もそれをきちんと受け止めている。お互い、気遣いあいながら、でも気遣いし過ぎて、肝心の心のど真ん中のことは聞けない、話せない。その息苦しさも、山の空気で少しだけ緩和される。

BUMP OF CHICKENの主題歌「なないろ」はロングバージョン。冒頭の<闇雲にでも信じたよ きちんと前に進んでるって>の歌詞に励まされる朝だった。




※『おかえりモネ』第7回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami