『おちょやん』第11週「親は子の幸せを願うもんやろ?」

第55回〈2月19日 (金) 放送 作:八津弘幸、演出:大嶋慧介〉

朝ドラ『おちょやん』いがみあっていた福富と岡安が子供同士の結婚により雪解けした55回
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「親は子の幸せを願うもんや」

「よそさんの前で夫婦げんかは絶対にしたらあかん。それがうちの決まりです。よう覚えとき」

【前話レビュー】一平や千之助の作る芝居には熱があり情があり芯がある 劇中劇で描かれる理想の世界

菊(いしのようこ)がさりげなく、みつえ(東野絢香)福助(井上拓哉)の結婚を認めるセリフを言って、ふたりがはっとなる瞬間が、第11週、最大の名場面。
いしのようこの、決して崩さないきりっとした表情と口調から漏れる母の情は痛快。

『おちょやん』は月曜日にはじまって、途中、いろいろあるが、金曜日に良い感じにまとまる安心感がある。今週はみつえと福助の恋が、ロミオとジュリエットのように、家同士の確執で引き裂かれそうになったものの、千代の奮闘によって一転解決し、昭和4年の幸せな祝言まで描かれた。

千代の奮闘、ひいてはみつえと福助を助けたのは演劇。“母の無償の愛情”を探ろうと一平(成田凌)が書いた戯曲を千之助(星田英利)が大幅に直したうえに本番でもまた大幅に内容を変えた喜劇「マットン婆さん」。これが意外にも“母の無償の愛情”を感じさせるものになっていた。


それを見た千代は、みつえとシズの確執を解決するヒントに気づく。子供の無理を聞くことが生きる喜びであるとマットン(千之助)が涙ながらに語るセリフと、シズ(篠原涼子)が、幼いみつえのわがままを聞いて着物を買ってあげた思い出が重なる。

要するに、シズは意地を張っているだけであり、本心はみつえが可愛くて可愛くて仕方ない。だから諦めずぐいぐい押し続ければ、福助との結婚を認めてもらえるということだった。千代は芝居を通じて、母親の本質――「親は子の幸せを願うもんや」を悟ったのである。

「うち、わがままな娘やねん」

雨上がり。本番を終えた千代が衣裳のまま猛然と走って追いかけていくと、駆け落ちしたみつえと福助が、神社にお参りに立ち寄ろうとしているところを発見する。


千代を演じているのが、大河ドラマ『いだてん』で健脚少女を演じた杉咲花であるとはいえ、みつえと福助は、ずいぶんとのんびりしてはいないか。みつえが置き手紙を残して家を出たのは、お芝居がはじまる前。お芝居は5作くらいやるから全部で2時間くらいだとして、その間、みつえたちは何をしていたのだろう。食事とかしていたのかも。そこが、のんきなお嬢ちゃんとお坊ちゃん育ち。ふたりにとっては駆け落ちもちょっとしたイベントなのだろう。


そこへ今度は、シズまで追いついてくる。さすがにここは、神様にお祈りに来たら偶然――という理由付けがされる。一平や千之助が描いた演劇よりもいかにも作り話な展開であるが、現実よりも演劇のほうが真実なのだという逆説を描いているのだと考えることができる。これはおそらく『おちょやん』の本質であり、重要ポイントなので、見逃してはいけない。

朝ドラ『おちょやん』いがみあっていた福富と岡安が子供同士の結婚により雪解けした55回
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』いがみあっていた福富と岡安が子供同士の結婚により雪解けした55回
写真提供/NHK

「お母ちゃんの代わりだす」

母の本質――“甘やかすこと”というなんともイージーな真理が提示されてしまったのだが、結婚式によって、疑問点をすべてしゃんしゃんとまとめるのは、喜劇の定番。昭和4年、長いこといがみあっていた福富と岡安が、みつえと福助の結婚によって雪解けした。

ハナ「ええ飲みっぷりや。
お母ちゃん譲りやな」
菊「お母ちゃんの代わりだす」

ハナ(宮田圭子)と菊が、亡くなった菊の母でハナのライバルだった先代の福富のご寮人さんを思って酒を酌み交わす場面は、長かった家同士の争いがようやく終焉を迎えた瞬間であり、これまたお芝居のように、しみじみ良い場面であった。やっぱり、ハナが主人公の、ライバル芝居茶屋の話を見たい。スピンオフ候補でぜひ。

ふたつの家族の笑顔を見ながら、千代は、家族っていいなあと思っているように見える。母の無償の愛を芝居で感じた千代だが、現実では、母の愛情は知っているものの、父の愛情を知らない。けれど、マットンやシズの提示した、困らされても嬉しい、無理を聞くことが愛情という愛情は、千代には得られない。
むしろ、父テルヲに娘の千代がどれほど困らされても無理を頼まれても聞いてあげることが愛情ということになっている。この逆転は今後、解決されるのだろうか。

そもそも母の無償の愛を、泥だらけになった着物を買ってあげたエピソードと若く未熟なふたりの結婚で表現してしまっていいものなのだろうか。シェイクスピアも墓の下で泣いていることであろう(ロミジュリは母の無償の愛を描いたものでないことはわかったうえで書いています)。

他者の幸福のためにいつも走り回り、まるで童話『幸福の王子』のつばめのような千代の今後の活躍に期待する。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami