『おちょやん』第8週「あんたにうちの何がわかんねん!」

第38回〈1月27日 (水) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

『おちょやん』娘・千代(杉咲花)の着物を売ろうとするテルヲ(トータス松本) やっぱりクズだった
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「働いテルヲ」

今朝もまた、主題歌の<笑顔を諦めたくないよ♪>の歌詞が胸に染みた。

【前話レビュー】「千代はわいとは似ても似つかぬええ娘」寂しさも感じさせたテルヲの言葉

期待した新作映画の試験(オーディション)はけっきょく、お金を積んだ滝野川恵(籠谷さくら)に決まった。がっかりしたのは千代(杉咲花)よりもテルヲ(トータス松本)で、片金所長(六角精児)に食ってかかりに行く。


所長は伊達に、毎日、えい、えいと空手の型みたいなものをやっていたわけではなかった。えい! と一撃でテルヲを倒す。テルヲが弱いだけかもしれないが。

その晩、カフェー・キネマに、池田(F.ジャパン)ほか鶴亀撮影所のスタッフたちがこぞってやってくる。テルヲがくすねて所長に渡した割引券を持ってきたのだ。そこには小暮(若葉竜也)の姿もあった。


カフェーで働く姿を小暮に見られてもいいものなのだろうか。もう千代は彼への恋心を諦めているから関係ないか。よくわからないけれど、みんな楽しそう。羽目を外してわいわい大騒ぎ。

映画が好きな店主の宮元(西村和彦)は、映画好きな映画スタッフを見てニコニコしている。割引だからあまり儲からないけれど、宮元はそんなに儲けに執着していないように見える。
そこがカフェー・キネマのいいところ。とてものんびりしていて、ここで働いている女性は救われているんじゃないだろうか。

小暮の席につく千代。少し間をおいて、小暮がおずおずとソファの位置をずらし、隣に千代が座れるようにして、千代も思いきって隣に……とそこへテルヲが割り込んでくる。酔った無意識か、父の気持ちか。せっかくのいいムードを壊す。
でも、お店の客とホステスとしてじゃ、ムードも何もない気もしないではない。

テルヲはここで「働いテルヲ」という思いきったダジャレを言う。酔った小暮もそれに乗っかってゲラゲラ笑い、千代は唖然。小暮の「働いテルヲ」に目を剥く千代の表情が抜群に可笑しい。

でも、楽しいのはここまで。後半は暗雲が……。


『おちょやん』娘・千代(杉咲花)の着物を売ろうとするテルヲ(トータス松本) やっぱりクズだった
写真提供/NHK

やっぱりテルヲ、クズだった

鶴亀撮影所の人達を「お父ちゃんの借金取り立てに来たヤクザ」かと思ったと言った千代の言葉が現実化してしまう。借金取りがテルヲを追いかけてきたのだ。

慌てて千代の部屋から金目のものを探そうとするテルヲ。彼をいい人だと思っていた真理(吉川愛)や宮元は、彼の浅ましい姿に呆然……。ここまで、ちょっといい人なところを見せてきたからこそ、ここでの絶望は大きい。

「役者道とは常にひとりでいくもんや! 孤独との壮絶な闘いや!」

意外な面を見せたのはテルヲだけではない。所長も、ただの下世話な人ではなかった。

大部屋女優仲間の弥生(木月あかり)が解雇されたと聞いた千代が、所長に抗議に行くと、真顔で「役者とは自分との壮絶な闘いや」と千代を叱咤する。


弥生は腰を痛めていたから解雇せざるを得なかった。実力が発揮できないのなら仕方ない。それをかばって呼び戻せというのが「傲慢であり、彼女(弥生)への侮蔑」だとも。たしかに、役者は実力主義で、役をとるかとられるか、ライバルに情を抱いても仕方ないもの。

とはいえ、所長だって、お金に左右されたりする事情もあるから、自分のことを棚に上げてその場をうまく丸めこもうとしているようにも見える。映画の世界で生きている人だから、それくらいの胡散臭さはあるだろう。
だからこそ芝居がかったド真面目な言い方をしているとも考えられる。

ただ、小暮の書いてきた脚本を「中途半端」。「前のほうが気持ちが入っていた」とちゃんと見透かすところはプロ。内容はここでは明かされてないけれど、採用(受けるもの)を狙って書いても、心から書きたいものでないと人の心は打たないということ。つまり所長は、ものづくりの気高い精神も持ちつつ、生きるためには毒もないといけないことをわかった人物として描かれている。

『おちょやん』娘・千代(杉咲花)の着物を売ろうとするテルヲ(トータス松本) やっぱりクズだった
写真提供/NHK

これだけのことを書いた作家は、このドラマを心から書きたいと自身のテーマをもって臨んでいるという決意があると受け止めたいが、いかがであろうか。例えば、子どもを元夫に預け女優をやろうと京都で働く洋子(阿部純子)のその後の女優道をまったく描いていなかったり、やっぱり女優を目指していた真理も千代の相談相手でしかなかったりするのはコロナ禍で残念なことになんらかの変更が生じたと思っておく。「働いテルヲ」もたぶん渾身なのだろう。宮元がよく泣いてるみたいに、見ているこっちも泣ける。

どんな状況でもどんな脚本でも、しっかり成立させるのが俳優の仕事。唐突な名セリフふうでもしっかりやりきる名優・六角精児。守衛の役をなんだか面白く味わい深く見せてしまう渋谷天外。一見意地悪そうだが、筋が通って情もある髪結たつ子を演じる湖条千秋。彼らはさすが。こういうのを年季が入っているというのだろうか。

千代、反省する

所長にガツンと言われて、しょげる千代を「死にかけた幽霊みたい」と言って、励まそうとするたつ子。千代は、自分の実力のなさを人のせいにしていたことを反省する。以前は楽しかった芝居がいまは楽しくない。千代は分岐点に立たされている。そして、あとのない小暮も……。

さあ、ご一緒に。
<笑顔を諦めたくないよ♪>

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■吉川愛(宇野真里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(小暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami