大人気ノベルゲーム『Fate/stay night』のスピンオフ作品である『Fate/Zero』。それは破滅の物語です。
7人の魔術師がマスターとなり、それぞれがサーヴァントを召喚して争う聖杯戦争。勝者が願いを叶えられるこの戦いへと身を投じた者たちの死闘と悲劇が描かれています。

 この悲劇に巻き込まれた一人であり、マスターでもある人物が今回ご紹介する「間桐雁夜」。彼は魔術の名門、間桐家の人間として登場します。一度は魔術の世界に背を向け、生家を飛び出した彼。しかし愛する者・大切な者を救う為、聖杯戦争に参戦した「間桐雁夜」とは、一体どんな人物なのでしょうか?

【※一部、ネタバレの内容を含む可能性が御座います。
ご注意下さい。】

■間桐家らしからぬ人柄。優しい雁夜おじさん

 人を人とも思わぬ非道な間桐の魔術を嫌い、魔道から背を向けた人物。それが間桐雁夜です。家督を継がず、家を出てからは一般人として生きてきました。そこに、幼馴染である遠坂葵の娘、桜が間桐家へ養女に出された事を聞いた雁夜は気が気ではありません。
「魔術師の妻となったときから一般的な家庭の幸せなど諦めていた」、そう語りながら目じりに涙を溜めている葵の姿を見て、雁夜は決意します。自分が聖杯を勝ち取り、引き換えに桜を解放させる事を。そして、当主であり父であり、人の領域を超えた存在である間桐臓硯に取引を持ちかけます。

 一応は親子でありながら、父親を吸血鬼と吐き捨てる息子と、その息子を落伍者と罵る父。この緊迫した雰囲気は『Fate/Zero』の世界観によく合っています。死ぬ気かと問う臓硯に対し「まさか心配だとは言うまいな?お父さん」と皮肉めいた言葉を投げ返す雁夜。
その姿には、幼馴染の娘を救おうという決意が見て取れ、非常に格好良いです。

■捨て身の覚悟。葵への哀しき宣言

 刻印虫と呼ばれる、間桐特有の魔術で産まれた虫が存在します。この虫を体内に導入することで、雁夜は即席の魔術師と成りました。しかし短期間で行われた無茶な措置により、雁夜の肉体はボロボロに。体は一部麻痺しており、黒髪は白髪に、顔面は苦痛に歪んだ形で固まってしまいました。
その様相たるや死人同然、ゾンビに近いものがあります。

 魔術を行使する度に体内の刻印虫が暴れまわり、激痛が襲いかかります。もはや生きているのが不思議な状態。事実、彼の寿命は極端に短くなってしまいます。その上、サーヴァントとして契約したバーサーカーは雁夜の命を無視して暴れまわり、主たる雁夜から魔力を搾り取ろうとします。それでも苦痛に耐えながら、雁夜は聖杯戦争に挑むのです。
それはひとえに桜救出の為、葵と凛の為。聖杯戦争の最中、雁夜は葵と再会します。痛々しく変わり果てた姿で「俺のサーヴァントは最強だ」と語る雁夜のなんと虚しきことでしょうか。

■吹き上がる憎悪。サーヴァントに並ぶ狂者

 桜を間桐家に養女に出すことを決め、葵たちを悲しませる原因となった遠坂時臣。物語が進むにつれて、雁夜はこれまで気づくまいとしていた時臣への並々ならぬ怒りを明確にしていきます。
故に聖杯を手に入れ彼を出し抜き、失脚させるつもりでした。

 そしてついに対峙した二人。両者は桜の事で意見の食い違いを起こします。桜を養女に出したことを怒る雁夜。魔術に関わる者としての幸せを願えばこそ、と語る時臣。一般人として生きることを「凡俗に落とすこと」と切り捨てる時臣に対し、雁夜はいよいよ怒りを超えた激しい憎悪を抱くのです。

 明確な殺意をもって雁夜は戦いに挑みます。手駒たるバーサーカーの暴走に苦しめられながらも、時臣抹殺、ひいては桜救出のため、雁夜は戦うのです。しかし時臣が殺されたと聞いた時、葵たちがどう思うか、雁夜はそこまで頭が回っていません。バーサーカーもマスターに相応しい暴走ぶりです。皮肉な事に。

 大切な人たちを救う為、という崇高な目的を持って参戦した雁夜。大切な人たちの大切な人を抹殺するという大きな矛盾を抱えた雁夜。その事に気づかず暴走し、戦うたびに消耗していく姿からは目が離せません。『Fate/Zero』が完結する時、雁夜がどうなってしまうのか。様々なキャラクターが登場する本作ですが、彼の行方にも是非注目して下さい。

【原稿作成時期の都合により、内容や表現が古い場合も御座いますがご了承下さい】

★記者:羽野源一郎(キャラペディア公式ライター)

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