大人気ノベルゲーム『Fate/stay night』のスピンオフ作品である『Fate/Zero』。それは破滅の物語です。
7人の魔術師がマスターとなり、7つのクラスのサーヴァントを召喚して争う聖杯戦争を軸にストーリーが展開されます。そしてこの物語の中心として据えられたのが、今回ご紹介する「衛宮切嗣」です。

 魔術師らしからぬ装備と、独自の魔術、信頼できる部下という三つの武器を有する切嗣。聖杯戦争において彼は、セイバーと妻・アイリスフィールとは別行動を取りながら戦いに臨みます。正義の味方を目指した男「衛宮切嗣」とは、一体どんな魅力的なキャラクターなのでしょうか?

【※一部、ネタバレの内容を含む可能性が御座います。ご注意下さい。


■異端なる正義の味方

 魔術師らしからぬ装備で戦いに臨む衛宮切嗣の戦闘スタイル。劇中でも複数の銃器、プラスチック爆弾、クレイモア対人地雷と現代的な武器を多用します。そして彼と共に戦う女性が久宇舞弥。切嗣にとって、必要不可欠な武器たる彼女は、戦いの裏で様々な工作を施していきます。

 部下と共に武器を使い戦う切嗣ですが、勿論魔術も行使します。代表格が『固有時制御』。
それは衛宮家に継がれてきた魔術に独自のアレンジを加えた術です。本来の用途とは異なり、戦闘用に特化させたこの魔術。劇中で切嗣は己の反射速度を上昇させる、心肺機能を意図的に低下させるなどの荒業をこなしていきます。無論ノーリスクという訳ではなく、使用する度に彼の肉体にとてつもない負担がかかります。このハイリスクな魔術と、彼を“魔術師殺し”たらしめる『切り札』。この二つを用いた彼の戦闘シーンは必見です。


■非情なる正義の味方

 切嗣はフリーランスの魔術師として、魔術協会からも聖堂教会からも一目おかれ、忌み嫌われる男です。その理由は彼のスタンスにあります。目的の為に非情に徹する切嗣は、手段を選ばず、毒殺・爆殺など様々な方法で任務をこなしてきました。その魔術師としての誇りを感じさせないやり方が、他の面々からすると理解し難く許せないのです。

 劇中においては、他の陣営を叩く為に「子供を虐殺してまわるキャスターを囮として放置する」という作戦を立案します。自身のサーヴァントたるセイバーからも非難されるこの作戦。
それでも勝利を確実なものにするためには、数十人の子供を犠牲にすることもいとわない。彼の非情さが伝わるシーンです。

 しかし、切嗣は単なる卑怯者というわけではありません。全ては「聖杯の力で世界を救う」ため。犠牲を少数に抑え、聖杯の力で多くの人、すなわち世界を救う。これが正義の味方たる切嗣の基本スタンスなのです。


■覚悟を決める正義の味方

 衛宮切嗣は「少数の犠牲を払って多くを助ける」スタイルを貫いてきた、強靭な精神の持ち主。しかし、もはやそれは過去の話。妻と娘、家庭を持ったことで彼は冷徹な「魔術師殺し」だった頃の自分との乖離に悩まされていくのです。

 守るべき家族ができてしまった切嗣は、聖杯戦争の最中に妻と娘を残して死ぬかもしれない・・・という可能性に恐れを抱きます。更に恐れを加速させるのが「言峰綺礼」の存在。一体何を考えて生きてきたのか?それが読めない経歴の綺礼は、切嗣にとって他のどの対戦相手よりも異質であり脅威であった訳です。
聖杯の奇跡により世界を救う。これまで犠牲にしてきた人たちの為にも勝利する。その考えで聖杯戦争に切嗣は挑みました。しかし、綺礼への恐れ、家族を残して死する恐れから、妻・アイリスフィールに「何もかも抛り投げて逃げ出すと決めたら――」と押し隠していた本音を漏らしてしまいます。

 そんな彼を支えるのが、他ならぬ家族。仮定の話とはいえ、逃げ出すと言った切嗣に対し、「自分たちが守る」と優しく語るアイリ。共に戦場に立ち、「貴方はまだ壊れてはいけない」と激励する舞弥。そしてアインツベルンの城に残した愛娘・イリヤ。彼女らの存在が切嗣にとっての恐れであり、支えでもある訳です。

 こうした彼の内面を知った上で、先述の非情な判断を下している場面を見ると、「聖杯の奇跡により世界を救い、これまで犠牲にしてきた人たちの為にも勝利する」という、彼の覚悟の重みと苛烈さが伝わってきませんか?

 現代兵器と魔術を組み合わせた独自の戦法を使い、切嗣は聖杯戦争に挑みます。劇中で展開される綺礼との死闘は最大の見所です。そして世界を救うという大望を果たす為に、非情に徹する切嗣。物語の最後までこのスタイルを貫き通す彼の姿には、何やらこみ上げてくるものがあります。『Fate/Zero』の主人公に相応しい、「衛宮切嗣」の活躍に注目です。

【原稿作成時期の都合により、内容や表現が古い場合も御座いますがご了承下さい】

★記者:羽野源一郎(キャラペディア公式ライター)

(C)Nitroplus/TYPE-MOON・ufotable・FZPC