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第2節 

1 少子高齢化及び過疎過密問題と環境影響

 20世紀終わりのわが国の人口構成については、急速な少子高齢化の進行と過疎過密の継続という二つの大きな問題を抱えている。21世紀に入って総人口は増加から減少に転じ、その後も少子高齢化は進行する。一方、都市圏の過密問題は若干緩和されるものの、過疎地域の人口減は依然として続くと見込まれている。
 ここでは、少子高齢化といった人口構成の変化によりこれまでの経済社会システムがどう変化していくのか、また、環境の保全という観点からこの変化にどう対応すべきかについて考察する。

(1)少子高齢化の進行は環境にどのような影響を与えるか

ア 少子化による人口減少の影響
 世界規模でみると人口は増加しており、途上国を中心とした人口増加が環境悪化の原因の一つとなっている。しかし、わが国を始めとする先進諸国では、出生率が低下しており、近い将来、人口減少に転じることが予想されている。
 国立社会保障・人口問題研究所中位推計(平成9年度)によると、わが国の総人口は2010年頃をピークとして減少に向かい、2050年頃には、1億人になると推計されている。
 人口の減少は、環境に対してどのような影響をもたらすのだろうか。
(ア)資源消費の減少による生産・消費パターンの転換の可能性
 人口の減少と環境への影響との関係については、これまでの環境悪化の要因が、主に経済活動の拡大であったことに鑑みると、一般的には、人口減少は全体としては、資源消費の減少をもたらし生産・消費パターンを変え、環境負荷を減らす効果があると考えられる。他方、1人当たりのエネルギー消費量や廃棄物量の伸び等の増加が人口の減少率を相殺する可能性、生産性の低下による環境投資額の減少や技術開発力の低下、さらには、過去の環境汚染を回復するための資金等の不足の可能性等も考えられる。現時点では、これらの要因がどのように作用するかについては不明である。
(イ)人口1人当たりの国土面積の増加
 人口の減少により、人口1人当たりの国土面積は増加する。現在1億2,700万人の人口が、2050年には1億人となると予想されるため、1人当たりの面積は25%増加する。この結果、土地や住宅への需要が減少し、価格が下落すると見込まれており、余剰となった土地や住宅をどのように活用するかが問題となる。
 今後、都市の人口規模が小規模化する中で、郊外における人口集積が進み、非都市圏においても広大なる過疎化が進行することにより、わが国における自動車依存度はますます高まり、環境に対する負荷も高まる可能性がある。
 一方、人口の減少を見込んで適切な土地の利用に関する計画などが立てられた場合には、十分な公共空間の確保や緑地の確保等が図られるため、環境保全に配慮した街づくりが可能となると考えられる。

イ 少子高齢化の影響
 現在のわが国の年代別人口構成は、年少人口(0〜14歳)が全体の約14.8%、生産年齢人口(15〜64歳)が約68.5%、老年人口(65歳以上)が約16.7%となっている(平成11年10月1日現在)。
 今後、総人口が2010年頃をピークとして減少に向かうのに加え、年少人口及び生産年齢人口が減少し、老年人口が増加すると見込まれている。前述の国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口中位推計によると、2050年ではこの割合が、それぞれ13.1%、54.6%、29.9%となり、ほぼこの割合で安定し、さらに、参考推計によると2100年では、14.6%、56.5%、28.8%となると予想されている(1-2-1図)。


 これは、高齢社会といわれている現在のスウェーデンなどを上回る少子高齢社会である。
 以下では、少子高齢化が環境に影響を与える代表的な要因について考察する。
(ア)消費の変化
 人口の高齢化と環境への影響の関係については、具体的な関係を示す指標は少ないが、現在の高齢者の消費支出は比較的低い。例えば、単身者の消費支出でみると、年齢別一人暮らし世帯の消費支出については、35歳未満では20万円、35〜59歳では22万円であるのに対し、65歳以上では約15万円と低い水準になっている(総務庁統計局「単身世帯収支調査(平成11年)」)。
 このため、一般的には、高齢化により総消費需要が減少する可能性が高いと考えられるが、今後は大量消費社会を経験した高齢者が増加するため、必ずしも高齢者の消費支出が減少するとはいい切れない。
 ただし、消費の内容については、高齢化に伴う変化が生じる可能性が高い。例えば、平成10年の総務庁家計調査でみると、高齢者世帯では、家事サービスや旅行費に対する支出が高く、自動車等購入費は低い(1-2-3図)。これは、高齢者は旅行など余暇を過ごすためのサービスに対し支出する額が増えているためと考えられる。
 特に、今後、高齢化と少子化に伴う介護サービスや家事サービスへの需要が増加すると見込まれるため、支出に占めるサービスの割合は増加し続けると見込まれる。
 このように、高齢化に伴い、モノの消費からサービスの消費へと移行することにより、一般的には製品の製造・廃棄に伴う環境負荷は減少し、サービスの提供に伴う環境負荷が増大すると考えられる。



(イ)エネルギー消費量の変化
 代表的な環境負荷であるエネルギー消費量について考えると、家庭における現在の高齢者のエネルギー使用量は、在宅時間が長いことから、標準より高いと考えられている。しかし、今後、活動的な高齢者の増加による在宅時間の減少が進めば、家庭におけるエネルギー消費量は増加しない可能性もある。
 一方、高齢化に伴う住居のあり方によっては、エネルギー消費量が大幅に増大する可能性もある。現在のライフサイクルと住居の関係では、成人や結婚により、親と離れて住み、子供が大きくなるにつれ、一戸建てや広い集合住宅に移り住む。その後、子供の独立により、広い家に夫婦二人暮らしや一人暮らしとなるという例が増加している。例えば、65歳以上の単身世帯と夫婦世帯の45%が100m2以上の住宅に住む一方、4人世帯の45%が100m2未満の住宅に住んでいる。1世帯当たりの構成人数の減少にもかかわらず、住居面積が変わらなければ暖房効率等が悪化し、全体としてのエネルギー消費量の増大につながる(1-2-1表)。さらに、病気等により暖房や冷房の時間が増加する可能性も高いため、エネルギー効率に配慮した暖房器具等が使用されない場合には、暖房等に必要なエネルギーの消費量が増大する可能性もある。
 さらに、生産人口が減少し、高齢化することにより、一層の機械化、省力化が必要となることも考えられ、資源・エネルギー使用量の増加要因となる場合もある。


(ウ)高齢化に伴う「余暇時間」の増大と環境保全活動
 総務庁で実施した「平成8年社会生活基本調査」を元に算出した結果によると、15歳から64歳の余暇時間の平均(週全体)が約5時間44分であるのに対し、高齢者の余暇時間は約8時間11分となっている。今後、高齢化が進むにつれて、余暇時間が伸び、余暇の過ごし方が重要となってくる。
 加えて、現在の高齢者と20年後の高齢者では、経験してきたライフスタイルに大きな違いがあり、余暇活動が多様化すると考えられる。現在の高齢者の主な余暇の過ごし方としては、テレビ・ラジオ鑑賞の割合が圧倒的に多く、その他も、読書・学習や友人とのおしゃべりなど静的な行動が多い。このため、グループや団体で行われている趣味やスポーツ、生活環境改善などの社会参加活動に参加している高齢者の割合については、平成11年度の総務庁の高齢者の日常生活に関する意識調査では36.3%であるなど、現状では、その割合は低い。しかし、今後、社会参加活動を経験した高齢者の割合の増加などにより、実際に活動に参加する高齢者の数は増加すると予想される。
 高齢者の環境保全活動に対する関心は高く、環境庁の環境にやさしいライフスタイル実態調査(平成10年3月)では、環境保全に関する行動に積極的に参加したいとする高齢者は全体の8割程度と高い比率を示している(1-2-4図)。
 こういった調査結果から、今後、環境保全活動に参加する高齢者の数は増加すると見込まれる。また、高齢者には、これまでの経験や技術が蓄積されており、時間面と併せて、環境保全活動に活かされることにより、環境保全活動が一層活発化する可能性がある。例えば、経理や管理部門の経験を活かし、民間活動において経理や管理を担当したり、環境教育の一環として環境保全に関する知識を子供や若い世代に伝えたりするといった様々な分野での活動が期待される。



(2)地域的な人口の偏りは環境にどのような影響を与えるか

 わが国では、過疎、過密問題及び都市内部での空洞化といった地域的な人口の偏りが顕著である。三大都市圏の人口は全国人口の49.9%を占めており、特に首都圏への人口の一極集中が進んでいる。これに対し、過疎地域では、若年層を中心に人口減少が続いており、わが国の総面積の48.9%を占める地域に居住しているのは、わずか総人口の6.3%にすぎない。特に、過疎地域全体の高齢者比率は25.0%と、非過疎地域の13.8%を大きく上回っている。
 また、大都市内部の人口についても例えば東京都心3区の人口が、平成11年までの33年間に約46%も減少するなど、空洞化が顕著である。
 このような地域的な人口の偏りについては、近年、「UJIターン」といった都市から地方への移動が見られるなど、緩和の動きが見られるが、中山間地域の過疎化は依然として深刻であり、全体としてはこの状態が続くと見込まれる。特に、人口将来推計に基づけば、過疎地域の人口割合は、高齢化に伴う自然減少もあるため、今後も低下し続け、2015年には総人口の4.8%となると見込まれている。


 人口分布の偏りはこれまでも、都市における公害の深刻化などの環境問題を引き起こしてきている。現在も、都市過密地域における窒素酸化物や浮遊粒子状物質による大気汚染、生活排水による水質汚濁問題については、依然として改善が見られない状況にある。また、都市で大量に発生する廃棄物についても、廃棄物の発生抑制はもとより、廃棄物の焼却施設の整備、廃棄物の最終処分場の確保等が課題となっている。
 過疎地域においては、農林水産業従事者の減少や高齢化による森林、農地の管理不足や放棄の問題があげられる。かつてはどこにでも見られたフジバカマやカタクリなどの植物やノウサギなどの動物が極めて少なくなっており、この一因として、これまで人の関与によって維持されていた二次林である里山が減少したことがあげられている。
 また、近年、サルやシカなど特定の鳥獣による農林作物への被害が深刻化しているが、これについても、中山間地域の過疎化に伴う問題として捉えられる。
 一方、大都市内部の人口の空洞化の問題については、社会的な設備が整った場所が放置され、郊外がスプロール状に開発されるという状況の原因となっている。この点について、環境への影響の観点から見ると、大都市内部に整備された社会資本が利用されず、新たに郊外地域に整備しなければならないため、資源利用の面での不効率を招いており、さらに郊外地域における自然の減少等をもたらしているということができる。




(3)少子高齢社会への対応に環境対策を組み込む

 今後の少子高齢社会が環境に与える影響は直接的、間接的に様々であり、一様ではない。このことは、現時点では、我々の目の前にある選択肢は幅広く、したがって、今後の対応によっては、少子高齢社会に対応し、かつ、環境保全にも配慮した社会が築ける可能性を示している。
 ここでは、少子高齢社会への対応と環境対策との関係について概観したい。

ア 少子高齢社会に対応した街づくりと環境対策組み込みの可能性
 まず、少子高齢対策が環境対策としても効果がある例を見てみよう。
 現在の街づくりは、自家用車に乗ってスーパーに買い物に行ったり、レストランに食事に行くなど、自動車利用を前提にしていることもある。特に、過疎地域では、人口の減少に伴い、バスなどの公共交通機関の廃止や、運行本数の減少が見られる。自動車を運転することができない高齢者の孤立を防ぎ、子供から高齢者まで安全な移動を可能とし、また、日常生活におけるゆとりを確保することが必要となっている。
 このため、現在、少子高齢対策として「歩いて暮らせる街づくり」を目指した様々な検討が開始されている。歩いて行ける範囲内に日常生活に必要な機能を集め、誰もが安全かつ快適に歩けるバリアフリーの歩行空間を整備するとともに、ライト・レール・トランジット(LRT:新しい路面電車)やバス等公共交通機関の整備を行う。さらに街の外縁部に駐車場を設け、街の中心部にトランジットモールを導入するなどの施策が考えられている。トランジットモールとは、商店街などで自動車を排除し、歩行者専用空間としたショッピングモールに路面電車、バス、あるいはトロリーバスなど路面を走行する公共交通機関を組み合せた空間のことであり、環境面でも自動車の走行に伴う大気汚染物質の排出や騒音の削減が期待される。
 一方、食料品や日用品の宅配システムや自動車の共用システムが一部で実施されている。これらについても、自動車の走行量を減らすことにより、環境負荷を低減することが可能になるシステムといえる。
 一方、高齢化への対応の結果として、環境負荷が増加するケースとしては、例えば、高齢化に伴う暖房需要の増加に対応した住宅の建設等が考えられる。わが国のエネルギー消費に占める暖房の割合は、気温の差を考慮しても先進各国に比べて低い(1-2-8図)。特に、わが国の家屋においてトイレや脱衣場等の気温が低いため、高齢者の血圧が上昇し、心臓発作や脳卒中の大きな原因となっているとの指摘もあり、今後、暖房や室温調節のための設備の導入が進められると考えられる。
 しかし、この点についても、住宅の断熱化の一層の促進や省エネルギー型空調システムの導入を進めることにより、暖房需要の増加によるエネルギー使用量の増加率を下げることが可能となる。さらに、世帯構成人数に応じた広さの住宅への住み替えを容易にすることにより、1人当たりのエネルギー効率が改善され、全体として環境負荷の増加を抑えることが可能となる。



イ サービス産業における対応
 すでに見たように、少子高齢化により、消費の対象がモノからサービスへ移行する可能性が高い。これに伴い、モノの製造、廃棄等に伴う環境負荷は減少すると想定されるが、サービスへの需要の高まりにより、サービス産業から発生する環境負荷が増加すると考えられる。このため、今後、この分野における一層の環境負荷低減への取組が必要となってくる。例えば、高齢者の増加により今後成長が期待される旅行関連産業については、エコ・ツーリズムの実施や環境に配慮した宿泊施設の整備、自然とのふれあいに重点を置いたリゾート施設の整備等を進めることにより、環境への負荷を抑制することが可能になると考えられる。



(4)過疎過密対策と環境対策の相乗効果を高める

 過密地域対策としては、都市の再開発やインフラストラクチャの整備を進めることが求められているが、これらの中に、環境配慮の観点を盛り込むことが重要である。すでに、環境共生都市(エコシティ)の整備などが提唱されているが、都市の住民の意見を的確に反映しながら、省エネルギー、省資源型の都市を構築していくことが求められている。
 特に、現在、高度成長期に建築されたインフラや建築物が築後30〜40年を経過して更新時期を迎えており、これらの更新・建替を実施する場合に、省エネルギー型の建築物とし、さらに、100年程度の耐久性のある建物とすることにより、環境負荷の抑制を図ることが可能となる。なお、建築物の更新・建替に当たっては大量の建築廃棄物の発生が懸念されており、この点についても、リユース、リサイクルの推進が必要不可欠である。
 さらに、都市内部の人口や中心市街地の空洞化の問題についても、緑地や公園の確保など環境面に配慮した市街地の再整備を実施することや、リサイクルなどの環境保全活動を核とした地域コミュニティを作り出すことにより、魅力ある地域として活性化を図ることが可能となると考えられる(第2章第4節参照)。
 過疎地域対策としては、現在、地域の活性化を図るために、地場産業の振興や観光・レクリエーション施設の整備、UJIターンの促進等に関する対策が行われている。
 総理府の行った「余暇時間の活用と旅行に関する世論調査(平成11年8月)」によれば、国内観光旅行の目的のうち「美しい自然・風景を見る」の割合が最も高い。また、農山村に居住意向のある都市住民について国土庁が平成8年度に行ったアンケートによれば、農山村に居住したい理由として、「自然に親しみたい」が最も高いという結果が得られており、自然とのふれあいや自然の中で暮らしたいという要求が高まっている。
 このような現状を踏まえ、過疎地域の豊かな自然を活かして、エコ・ツーリズムを実施することにより、観光産業の振興を図ることが可能となると考えられる。特に、総理府の同調査によると滞在型の旅行をしたいという希望が全体の57.6%を占めており、滞在型の旅行に望む機能として、1位の「温泉を利用した施設がある」に次いで「近くに散策やバードウォッチングなどのための自然に親しめる場所がある」が2位となっていることを考えると、一定期間滞在して自然とふれあうための施設の整備や自然観察員などの人的な資源の蓄積が有効と考えられる。
 さらに、風力発電や太陽光発電など地域に存在する自然エネルギーの利用を中心とした地域の活性化を図っている地域も増加している。
 これらの新たな可能性を踏まえると、地域の特徴ある自然を活かした産業の振興などにより地域の活性化を進めることが必要である。
 一方、複数の市町村が協力する取組としては、川を媒介として、下流の市の水道料金によって上流の市町村の森林を保全しようとする試みが始まっている。これは豊田市で実施されている制度で、平成6年から「水道使用量1m3当たり1円相当額」が水道料金に上乗せして徴収され、「水道水源保全資金」として積み立てられている。現在までに約2億5,000万円が積み立てられ、平成12年度からその資金を活用した人工林間伐対策の実施が予定されている。過疎地域における対策を講じるに当たっては、このような地域間での相互連携や協力関係も重要であると考えられる。

宅配システムの構築による環境への負荷の削減の可能性

 高齢化に伴い、生活必需品の宅配システムが普及すると見込まれるが、自動車を使って日常の買い物に行く場合と、商店へ依頼して、必要なものを宅配してもらう場合とでは、どちらが環境への負荷が小さいのだろうか。
 ここでは、この疑問の答えについて、一定の前提の下でシミュレーションを行った。なお、シミュレーション結果は、前提によって大きく変わることが予想されるため、あくまでも一つの参考事例として、結果を提示した。
 平成元年度の東京都市圏総合都市交通体系調査報告書に基づいて推計すると、自動車保有者が郊外の商業地に買い物に出かける頻度は週に約0.76回である。また、自動車保有者の約75.6%が買い物時の交通手段として自動車を選択している。なお、買い物のための自動車走行時間は片道で平均20分というデータもあり、この場合、信号待ち等を考慮すると走行距離は約5kmと推計される。
 以上のデータより、シミュレーションにおいては、東京郊外の八王子市を例にとって、一つの郊外商業地が位置しており、その商圏が半径5km(約78.5km2)であるという前提を置いた。
 この郊外商業地の商圏においては、八王子市の自動車保有率からみて、自動車保有者が73,398人おり、その75.6%に当たる55,489人が、週平均で0.76回、年間では約40回、自動車を利用した買い物に行く。このうち、10%に当たる5,550人が自動車による買い物を年間20回に減らし、残り20回は宅配システムを利用した場合の環境負荷の変化を推計する。宅配システムは、2トン積トラックにより、1ルート当たりの走行距離16kmで40件配達されると仮定した。
 まず、環境負荷を1回の買い物で比べた場合は表1のとおり。


 5,550人の買い物1回分当たりの一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物等については、宅配トラックの利用により抑えられる。しかし、今回はデータの不足から推計しなかったが、宅配トラックとしてディーゼル車を使っているため、粒子状物質の排出が増加すると考えられる。宅配トラックとして低公害車を使った場合は炭化水素や窒素酸化物の排出量がさらに抑えられる。ただし、一酸化炭素については、現在の7都県市低公害車排ガス基準では基準がないため、減少しているかどうかが不明である。
 個人運転を宅配システムに移行した1年分の環境負荷の変化は表2のとおりであり、一酸化炭素と窒素酸化物の排出は大幅に減少する。


 では、地域全体での削減量はどの程度となるだろうか。この点の推計結果を表に示した。


 商圏全体では、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物がそれぞれ減少する効果が現れている。ただし、先に述べたように粒子状物質が増加するという問題が起こると考えられる。
 このように、宅配システムの部分的導入により、一定程度、環境負荷が減少するという結果が得られた。ただし、粒子状物質のように、移行により新たに発生する問題もある。したがって、新たなシステムを構築する場合には、様々な角度から環境負荷を評価し、環境負荷を抑制するシステムとなるよう配慮が必要である。

旅行先で自然とふれあう

 長野県の志賀高原では、旅館業組合が中心となり20年以上にわたって自然観察会を実施している。もともとはスキー場の「夏枯れ」対策として始められたもので、町が近隣市町村の有識者に依頼し、長野県志賀高原自然教室(現在の長野県志賀高原自然保護センターの前身)を拠点に旅館の宿泊客や観光客を対象とした自然観察会が行われていた。平成6年に長野県が植物、鳥、昆虫、星座などの自然に詳しい人に登録してもらい、市町村や学校などで開催される自然観察会へ派遣する「自然観察インストラクター制度」を設けると、旅館業組合がこれを活用した旅館の従業員や地元有志への研修を始めた。現在では研修を受けた従業員や地元有志が県のインストラクターとともに自然観察会を行っている。平成10年度には池や湿原めぐり、ホタル観察会や星空観察会などが計35回開催され、868人が参加した。
 なお、近年の中高年の自然とのふれあいへの要望の高まりを反映し、自然観察会の参加者の年齢構成は、60歳以上が15%、59歳から50歳が23%、49歳から40歳が25%となっている。

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