『グッチ』。ロンドンのサヴォイホテルでベルボーイとして働きながら、上流階級の趣味嗜好を学んだグッチオ・グッチが100年前に築いたブランドは、1950年代その息子たちがさらに拡大させ、世界中に名を轟かせる“ブランド帝国”に成長した。そして’70年代、グッチオの孫と結婚したのは、実の父を知らぬ貧しい家庭出身の娘パトリツィア・レッジャーニ。母の再婚で辛うじてブルジョワ世界に足を踏み入れた彼女は、財産目当てだと罵られながらもグッチ一族の御曹司と結ばれるが、社長になった夫マウリツィオを1995年3月27日、暗殺。ブランドは傾き、買収される運命をたどった……。「稀代の悪女」とされてきたパトリツィアと一族の男性たちを、ハリウッドを代表するリドリー・スコット監督が現代的視点で描き、「真実」を明らかにする最注目の人間ドラマがついに完成! そこで、このサスペンス映画の背景にある10のトリビアを紹介。

ハウス・オブ・グッチ
Courtesy of Metro Goldwyn Mayer Pictures Inc.

1.レディー・ガガの本気

歌わないレディー・ガガが演技一本で映画で勝負⁉ 訝しむ声を振り払うように、レコード会社と契約する前、名門リー・ストラスバーグ・インスティチュート(LSTFI)で10年間メソッド演技を学んだガガが実力をいかんなく発揮。パトリツィア・レッジャーニが夫を殺害するまでに至る複雑な感情の動きと彼女の多面的な人物像を自分のものにしている。ミームとなった劇中の台詞“Father, Son and House of Gucci(神と子とグッチ家に誓います)”は、カトリック女子校でひどい目に遭ったガガだからこそ許される(?)神をも恐れぬアイロニックなアドリブ。

ハウス・オブ・グッチ
Tristan Fewings
UKプレミアにて。左からサルマ・ハエック、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、レディー・ガガ、アダム・ドライバー、カミーユ・コッタン、ジャック・ヒューストン

2.アカデミー俳優たちの演技合戦

レディー・ガガ(2ノミネート1受賞『アリー/スター誕生』〔’18〕※)ジャレッド・レト(1受賞『ダラス・バイヤーズクラブ』〔’13〕)、ジェレミー・アイアンズ(1受賞『運命の逆転』〔’90〕)、アル・パチーノ(9ノミネート1受賞『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』〔’92〕)。崩壊していくグッチ家の人々を演じる俳優はオスカー受賞者だらけ。受賞こそしていないもののアダム・ドライバーもサルマ・ハエックもノミネート経験あり。そんな豪華キャストの演技合戦に負けず、脇でキラリと光るのは、マウリツィオの二番目のパートナー、パオラ・フランキを演じる仏俳優カミーユ・コッタン。Netflix配信ドラマシリーズ「エージェント物語」で世界的に知名度を上げ、「今ハリウッドでもっとも注目される仏俳優」とも呼ばれる彼女の演技からは本当に目が離せない。とくにパトリツィアとの“対決”シーンは必見。

  • ※歌曲賞で受賞。俳優賞はノミネートのみ
ハウス・オブ・グッチ
Fabio Lovino

3.演出? アドリブ? クスりと笑えるシーン

当初はシリアス一辺倒だった脚本が蓋を開けてみれば笑いを誘うシーンもたくさん。本人たちは真剣でも、関係ない第三者から見れば滑稽ですらある権力者一族の確執。そんな実態を表現するかのように、アドリブとしか思えない遊び心溢れるオスカー俳優たちの演技に注目。ガガとジャレッド・レトのミュージシャン俳優同士の掛け合い(写真)もノリがよく、アル・パチーノとの「クルミの殻」のシーンは演技の繊細さが感じられるので要チェック。

ハウス・オブ・グッチ
Fabio Lovino

4. 鈍感な彼氏の見本帳

パトリツィアが殺害することを決断する夫マウリツィオ・グッチ。アダム・ドライバー演じるマウリツィオは、ピュアな“箱入り息子”だから素直でいい人だけれど、とにかく鈍感。デートの仕方から、ダンスまですべてが受け身で、パトリツィアがお尻を叩いてあげないと何にも決断できないうえに、無神経でイライラ。「元カレに同じことされたことが……」。そんな共感ポイントが見つかる可能性は高い……かもしれない。

ハウス・オブ・グッチ
Del Puppo/Fotogramma/Ropi//Aflo
実際の結婚式の写真。1972年

5.「グッチ一族を滅ぼした女」像は本当か?

“ゴールドディガー(※1)”“ブラックウィドウ(※2)”などのあだ名で悪人扱いされてきたパトリツィア・レッジャーニ。しかし、世間が彼女を見る視線にミソジニーはなかっただろうか? グッチ一族が崩壊したのは本当に彼女のせいだったのだろうか? 人間を見抜き、政治力を駆使する彼女の“プロデューサー”としての側面に光を当てつつ問いかける「真実」の物語。

  • ※1 金鉱採掘者。財産目当てで結婚する女性を揶揄する表現
  • ※2 雄を食べてしまう蜘蛛。男性を破滅させる女性を表す差別的呼称
ハウス・オブ・グッチ
Aflo
左からパオロ、アルド、ロドルフォ

6.男社会=グッチ一族

「男はね、実際より自分を賢いと思いこんでしまうの」。こんな衝撃的な台詞も登場するほど、男性たちの権力争いにバッサリと切り込む物語に心はスッキリ。女性の才能や価値を見抜けず、排他的になることで、少しずつ新しい時代の罠にはまっていく、男社会の限界すら突きつけてくる。

ハウス・オブ・グッチ 上 (ハヤカワ文庫NF)

ハウス・オブ・グッチ 上 (ハヤカワ文庫NF)

ハウス・オブ・グッチ 上 (ハヤカワ文庫NF)

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7.時代が原作に追いついた

作品の参考になっているサラ・ゲイ・フォーデンの著書『The House of Gucci: A Sensational Story of Murder, Madness, Glamour, and Greed』はレッジャーニの有罪確定から3年、綿密な関係者の取材を経て2001年に出版された。それからおよそ20年。著者が「パトリツィアの人物表現には非常に気を遣った」と語った通り、逮捕当時メディアがこぞって書き立てた“悪女”像に疑問を投げかける原作の視点に、映画界が追いついたということ。

ハウス・オブ・グッチ
Fabio Lovino

8.もしかして、あの民間出身プリンセスのこと?

階級が違う世界からブランド帝国に“嫁ぐ”ことになったパトリツィア・レッジャーニ。彼女の台詞や行動には、どこかで見た・聞いた民間出身のあの妃のことでは? と思わず疑ってしまうポイントが多数。マイクロアグレッションを日常的に経験し、階級の違いをあらゆるところで意識させられるパトリツィアの悔しさが迫ってくる。

ハウス・オブ・グッチ
MGM

9.'70s~’90sファッションの変遷を一気見

70年代後半~90年代中盤までの代表的スタイルの移り変わりを、登場人物が纏う衣装で一度に見られるのがこの作品の醍醐味のひとつ。ファッションが急速に消費の時代になったと同時に、一族経営が崩壊する流れに注目。グローバル化して本来の価値を見失ったとき、レガシーがどうなるのか。それをもっとも理解していたのは、実は“よそ者”のパトリツィアだった? ブランド・ビジネスの核心に迫る。

ハウス・オブ・グッチ
Aflo, MGM
左からパトリツィア、マウリツィオ、アルド、ロドルフォ。上段はキャスト、下段が本人。

10.実在の人物に寄せたヘアメイク

グッチ帝国とその周辺の人物。豊富な画像や映像資料があるため誰がいちばん寄せられているか、見比べると面白い! ファッション関係者にとってはアナ・ウィンターのそっくりさん登場が爆笑ポイントになるはず。

『ハウス・オブ・グッチ』
2022年1月14日(金)全国ロードショー
公式HP/https://house-of-gucci.jp/