「ティファニー」のヴィンテージステンドグラスが輝くフロリダの邸宅
急遽到着した名作が、リノベーション計画を一変させることに!
だが、ロドニー・ローレンスはこの程度の変更で驚いたりはしない。彼はニューヨークを拠点に活躍するデザイナーで、寝室を6つ備えるこの邸宅を、南国のラグジュアリーな隠れ家にリノベーションした立役者だ。ローレンスは、エントランスホールの設計を再構成し、ステンドグラスを招き入れるためのスペースを確保した(ステンドグラスのために窓枠を新たにデザインし、設置した。だって、これは「ティファニー」。これくらいの労力は必要だろう)。
1910年にティファニー スタジオによって製作されたステンドガラスの窓が設置されたホール。フロリダ南部に建つこの家のリノベーションを手がけたのは、デザイナーのロードニー・ローレンス。
以前は空間の中心にあったシャンデリアは、デザイナーのマイケル・マクウェンがカスタマイズした照明に姿を変えた。興味深いフォルムだが、注目を集めすぎることはない。そして、フロントドアは、ステンドグラスを引き立てるよう塗り直され、太陽の光を思わせるパターンが描かれた横木は取り除かれた。「あるものは控えめに、別のものは力強く見せる必要がありますから」とローレンス。
リビングに置かれたカクテルテーブルは、ヴィンテージの「ワイス」。ソファは「ドミトリー&コー」、ベンチは「ジェームス ランカン」。チェアは「キンバリー デンマン」。ランプは「ローマン トーマス」。壁にかけられた絵画は、ベアトリス・ミリャーゼスによる。
このリノベーションは、ローレンスと、長年の付き合いであるクライアントによるコラボレーション。クライアントは、フロリダに転居してリラックスした生活を送ることを望んでいた。このプロジェクトそれ自体が、彼の新たな生活を象徴していた。クライアントは当初、同じエリアに購入していた土地でゼロから、モダンな家を建てようとしていた。
書斎のカクテルテーブルは、フェルナンド・マストランジェロによる。チェアは「ブライト グループ」。テーブルランプは、「ティファニー スタジオ」。壁紙は「カリダス ギルド」、壁にかけられたアートピースはトム・パーマー。
「その計画もかなり進んでいたんです」とローレンス。けれど、時間を節約するために、彼らは既存の建物をリノベーションすることにした。ただ、それも結局は完成まで2年半の月日を要したのだが…。「すべての表面に手を入れることになりました」とローレンスは振り返る。
ホームオフィスに置かれたウラジーミル・カガンが手がけたチェアと、マーク・ブラッドフォードによる絵画作品。
出発点は、「マイズナーが手がけたようなスパニッシュスタイル」のよう"ではない"住宅だった。ローレンスが話しているのは、20世紀初頭に精力的に活躍し、影響力を発揮した建築家、アディソン・マイズナーによる南フロリダの建築だ。彼とクライアントは、約1400平方メートルの邸宅が気に入った。ひとつには、フロリダでよく目にする鏡面張りや円柱がなかったから。そして何より、空間同士の関係性がすばらしかった。ひとつひとつが、次の場所に向かって開けているのだ。「キッチンに立つと、反対側にあるビリヤードルームまで見渡せるのです」とローレンスは言う。
ソファは「ドミトリー&コー」、絵画は、ベアトリス・ミリャーゼスによる。
一方で、ふたりが気に入らなかったのは、そこに置かれた家具と表面の仕上げだった。ローレンスとクライアントはほぼすべてのものをアップグレードし、カスタマイズした。
たとえば、トリムの形状や天井の格間のバランスに変更を加えた(ただし、大理石を使ったリビングの壁はそのままに残し、それはブラジル人アーティスト、ベアトリス・ミリャーゼスによるカラフルな絵画作品を際立たせている)。さらに、キッチンやバスルームのキャビネットをデザインし直し、配管を変え、地味なしっくいが塗られていた階段の底面には、艶のある塗料を使った。
マスターベッドルームのソファは「ドミトリー&コー」、カクテルテーブルは「ジョン ポンプ」。チェアは「モダン リビング サプライズ」。サイドテーブルは「ホリー ハント」。ネスティングテーブルは、ポール・マシューが「ラルフ プッチ」のためにデザインしたもの。ペンダントランプは、デヴィッド・ワイズマンによる。壁紙は「ドゥグルネイ」。カーテンは「NY ドレイパリー」。
屋外に設られたふたつのロッジアも、金属でフレームされた横木とサイドウィンドウを取り入れることで、明るい雰囲気に。ローレンスが「とても寂しい暖炉」と呼んだひとつのロッジアには、珊瑚色の石を敷き詰め、天井をペールブルーで塗った。マイアミを拠点とするランドスケープアーキテクト会社、レイモンド ジャングルスのベン・グリーンと協働し、地面にはこれから緑に彩られるプランターをいくつも設置した。そして、クライアントが所有する別の土地から、フロリダに自生する椰子の木が移植された。「大きな植物を使い、レイヤーをつくることで、すべてがもとからここにあるように見せたかったのです」とグリーンは言う。
ベッドは、「ホリー ハント」、サイドテーブルはジャル・エベニストが「ルネ」のために手がけたもの。ランプは、「アルベルト ドナ」、ベンチは、「ブライト グループ」。
確かに、レイヤーは本プロジェクトのスタイリングにおいて、キーワードといえる。ほとんどの仕上げ(そして室内に置かれているものの多くも)ひと目では分からないが、次第にその深みが浮かび上がってくる。宝石のような「ティファニー」のステンドグラスの輝きは、そこに描かれた、小川の水を飲む小鹿を圧倒してしまいそうだ。そして、鮮やかな色の下にマイラーシートを張り巡らせたミリャーゼスの絵画も、目を凝らすほど次第にその魅力が花開いていく。室内に置かれたオーク製の木工家具を見ても、白檀材にグレーという色のレイヤーが印象的。こうしたひとつひとつの要素が、複雑でゴージャスなインテリアを形成しているのだ。
マスターバスルームに設置したバスタブは、「ウォーターワークス」。シャンデリアは「オーカー」。
リノベーションの計画に変更があってもレイヤーの手法を使えば、ある程度乗り切れるのでは…などと考える人もいるだろう。しかし、ローレンスは、決して行き当たりばったりな対処などしない。
クライアントが、アーティストのマーク・ブラッドフォードによる巨大な絵画作品に熱を上げた時も、ローレンスはクレーン車を手配し、オフィスの窓から作品入れて窓のモールディングの位置を変え、絵画のための場所をつくった。それに比べれば、クライアントが別の「ティファニー」による照明(それはオークション370万ドルの値を叩き出し、「ティファニー」の照明としては最高額を記録した)に夢中になってしまった時は、まだラッキーだった。ありがたいことに、それは簡単に本棚に収まったのだ。
リノベーションを担当したデザイナーのロドニー・ローレンス
original text : HILARIE SHEETS
translation : CHISATO YAMASHITA