記事に移動

大地の芸術祭「2023年の越後妻有」夏シーズンがスタート! 必ず見ておきたい作品を一挙おさらい

「大地の芸術祭」は会期年外も、世界的アーティストや建築家の作品がずらり。夏のアート旅にはぴったり!

By Shiyo Yamashita
 
2023年の越後妻有

3年に1度のアートの祭典「大地の芸術祭 越後妻有 アートトリエンナーレ」。2023年は開催年ではないが、芸術祭の通年プログラム「2023年の越後妻有」では多くの常設作品が公開されていて、イベントや企画展も予定されている。その一部をダイジェストでご紹介!

イ・ブル《ドクターズ・ハウス》

 
Photo Kioku Keizo

かつては蒲生集落でただひとつの診療所として地域の人々に愛された古民家の一部に、2015年、医療器具を使って時空を超える井戸をイメージした作品を制作した韓国を代表する現代アーティスト、イ・ブル。2018年には2 階の回廊と診察室まで作品を展開した。昭和の生活道具に懐かしさを感じたかと思えば、壁一面に貼られた鏡にさまざまなものが映り込む空間で時空が歪むような感覚を得たりもできる体感型の展示は必見だ。

《ドクターズ・ハウス》
住所/新潟県十日町市蒲生2061(山平郵便局近く)
期間/2023年7月29日~8月27日までの土、日・祝日
時間/10:00~17:00

アントニー・ゴームリー《もうひとつの特異点》

 
Photo Miyamoto Takenori+Seno Hiromi

自身を象った彫刻作品で知られるイギリスの現代美術家、アントニー・ゴームリー。平野啓一郎『ある男』の表紙に使われた作品には見覚えのある人も多いだろう。2009年に制作されたこの作品は、二ツ屋集落にある、ごく普通の古民家の中にある。壁を取り払い、柱や梁が剥き出しになった空間には、682本のコードを張り巡らされており、その中央には作家自身の身体が浮かび上がってくる。いろいろな位置から、見えるポイントを探してみて。

《もうひとつの特異点》
住所/新潟県十日町市戊913
期間/~2023年11月5日までの土、日・祝日
時間/10:00~17:00(10、11月は16:00まで)

イリヤ&エミリア・カバコフ《棚田》

 
Photo Nakamura Osamu

「大地の芸術祭」を象徴する作品とも言われる、2000年に恒久設置された作品。棚田の中に稲作に取り組む人々をかたどった彫刻を、その手前には、伝統的な稲作について描写した詩を設置している。イリヤ&エミリア・カバコフは共にソ連時代のウクライナの出身で、89年より夫妻でのコラボレーションを始めた。越後妻有との結びつきは強く、2015年に《人生のアーチ》を、2021年にも5点を恒久設置している。イリヤは今年5月に逝去した。

棚田
住所/新潟県十日町市松代3743-1 (まつだい「農舞台」内)
期間/~2023年11月27日まで(祝日を除く火水定休)
時間/10:00~17:00(最終入館16:30)

ADの後に記事が続きます

クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン《最後の教室》

 
Photo T.Kuratani

フランスを代表する現代美術家のひとりで、2021年に亡くなるまで一貫して生と死、存在と不在をテーマに作品を制作してきたクリスチャン・ボルタンスキーと、舞台照明家として知られるジャン・カルマンのコラボレーションによるインスタレーション作品。旧東川小学校を舞台に、かつてそこにいた生徒や教師の不在を強く浮かび上がらせる。2006年に最初に発表された後、2009年には3階の空間を大幅リニューアル。その後も「大地の芸術祭」で最も人気の高い作品のひとつとして知られている。

《最後の教室》
住所/新潟県十日町市松之山東川192(旧東川小学校)
期間/通年公開(~2023年11月27:祝日を除く火水定休、11月28日~2024月3月31日:土日祝のみ公開)
時間/10:00~17:00(10、11月は16:00まで)

レアンドロ・エルリッヒ《Palimpsest:空の池》

 
Photo Kioku Keizo

建築家・原広司の設計による「越後妻有里山現代美術館 MonET」。金沢21世紀美術館の恒久展示作品《スイミング・プール》でもおなじみのレアンドロ・エルリッヒは、その中央の回廊に囲まれた大きな池を使い、水面に映る建物の姿と、自身が描いた建物の鏡像がある地点でぴたりと重複する作品を2018年に制作した。なお、タイトルの「パリンプセスト」とは、文字を上書きした羊皮紙の写本のこと。

《Palimpsest:空の池》
住所/新潟県十日町市本町6-1,71-2(越後妻有里山現代美術館MonET内)
期間/~2023年11月5日まで(祝日を除く火水定休)
時間/10:00~17:00(最終入館16:30)

塩田千春《家の記憶》

 
Photo Miyamoto Takenori+Seno Hiromi

2019年の森美術館「塩田千春展:魂がふるえる」も記憶に新しい塩田千春。ベルリンを拠点に活動する彼女は2009年、越後妻有に2週間滞在。塩田は古民家の1階から天井裏まで、黒い毛糸を蜘蛛の巣のように張り巡らせ、そこに集落の人たちから収集した、家具や衣類、書籍といった「いらないけれど捨てられないもの」を、それらにまつわる思いや建物に染み付いた記憶とともに編み込んだ。黒い糸の全長は4万4000mにも及ぶという。作品はこの土地と分かち難く結びついている。

《家の記憶》
住所/新潟県十日町市松之山下蝦池658
期間/~2023年11月5日まで(祝日を除く火水定休)
時間/10:00~17:00(10、11月は16:00まで)

ADの後に記事が続きます

河口龍夫《農具の時間》

image
Photo Kioku Keizo

1960年代から国内外で活躍してきた河口龍夫は、「大地の芸術祭」には2000年から参加している。本作はこの地域の農民が長年使用、納屋に眠っていた古い農具そのものに植物の種子を植え付け、鉛で栓をした上で、実際に人々が農具を振るう姿をトレースし、真っ黄色に塗られた空間の中に、その形のまま吊るして展示したもの。鑑賞者は実際にその中に入り、農具に触れることも可能だ。作家は「関係」をテーマに作品制作を続けてきたが、ここでも農具と持ち主との関係性を浮かび上がらせている。

《農具の時間》
住所/新潟県十日町市下条1丁目324(旧上新田公民館)
期間/~2023年11月5日までの土、日・祝日
時間/10:00~17:00(10、11月は16:00まで)

草間彌生《花咲ける妻有》

 
Photo Nakamura Osamu

草間彌生が数多く作ってきた野外彫刻の中でも「私のお気に入りのナンバーワン」と言って憚らない、2003年に制作された、高さ4mのアルミニウム製の立体作品。「まつだい『農舞台』」の小高い丘の上に、トレードマークの水玉模様が描かれた巨大で鮮やかな花が咲き誇っている。草間は妻有を「どんな作品でも大手を広げて自由に包みこんでくれる寛容の地」と評し、作品が「ここに置かれて妻有の空気を讃美し、美しい陽光を天からそそがれて、この上ない心の安らぎをおぼえている」とも。圧倒的な存在感を楽しんで。

《花咲ける妻有》
住所/新潟県十日町市松代3743-1(まつだい「農舞台」敷地内)
期間/~2023年11月5日まで(祝日を除く火水定休)

内海昭子《たくさんの失われた窓のために》

 
Photo T.Kuratani

桔梗原うるおい公園内に設置された、白い窓枠と風にそよぐカーテン。ものの存在そのものや時間の経過を表すイメージを使って、見る人が過去や未来の時間に共感できるような、重層的なイメージの風景を作り出してきた内海昭子は、越後妻有の圧倒的な自然を鑑賞者が自分の風景と感じられるよう、控え目ながら忘れ難い体験ができる装置を2006年に生み出した。作品を通して、美しい里山の風を感じたい。

《たくさんの失われた窓のために》
住所/新潟県十日町市桔梗原キ1463番地1(桔梗原うるおい公園)
期間/~2023年11月5日まで(祝日を除く火水定休)

ADの後に記事が続きます

名和晃平《Force》

 
Photo Kioku Keizo

「Pixel(画素)+Cell(細胞・器)=PixCell」という概念を起点に、おなじみの透明球や発泡ポリウレタンをはじめとした数々の素材とメディアを使い、先鋭的な彫刻や空間を生み出してきた名和晃平。本作は、真っ黒なシリコーンオイルが途切れずに糸のように落ち、床には漆塗りのように艶やかな表面の黒い池が形成されるというもの。鑑賞者は重力のはたらくさまを目の当たりにしながら、瞬間の連続の中に自身があることを体感できるはず。

《Force》
住所/新潟県十日町市本町6-1,71-2(越後妻有里山現代美術館 MonET)
期間/通年公開(祝日を除く火水定休)
時間/10:00~17:00(最終入館16:30)

目[mé]《movements》

image
Photo Kioku Keizo

アーティストの荒神明香、ディレクターの南川憲二、プロダクション・マネージャーの増井宏文から成るアート集団、目[mé]によるインスタレーション作品。個々に動き続ける時計は、無数に吊るされ、大群を成して舞うムクドリの群れに見立てられている。都市生活の中で否応なしに意識させられる「個」と「全体」について考えさせられる作品。なお、魚沼中条駅の駅前広場にも彼らの作品《repetitive objects》がある。

《movements》
住所/新潟県十日町市本町6-1,71-2(越後妻有里山現代美術館 MonET)
期間/通年公開(祝日を除く火水定休)
時間/10:00~17:00(最終入館16:30)

MVRDV「まつだい『農舞台』」

image
Photo Nakamura Osamu

「都市と農村の交換」というテーマのもと、地域の資源を発掘し発信する総合文化施設として大地の芸術祭の第2回開催に合わせてオープン。飛行機のタラップを思わせるエントランスや屋上に飛び出した彫刻作品のような鉄骨などが印象的な建物は、オランダの建築設計ユニット、MVRDVの日本での初作品でもある。越後妻有の食文化を伝える「越後まつだい里山食堂」や、イリヤ&エミリア・カバコフや河口龍夫の作品を展示するギャラリーなどを擁するこの建物は、「まつだい『農舞台』フィールドミュージアム」の中心施設。里山登山なども楽しめるので、ぜひ余裕を持って訪れて。

まつだい『農舞台』
住所/新潟県十日町市松代 3743-1
期間/通年公開(祝日を除く火水定休)
時間/10:00~17:00(最終入館16:30)

ADの後に記事が続きます

R&Sie建築事務所「アスファルト・スポット」

image
Photo Nakamura Osamu

建築とアートの境界を超え、人間が実際に、また心理的に居住する空間の知覚を一変させることを目指すフランソワ・ロッシュとステファニー・ラヴォーによる建築設計事務所、R&Sie(現在はニュー・テリトリーズ名義として活動)の設計により2003年に誕生した、駐車場でもあるアート作品。妻有大橋のそばにあるこの作品は、「地形の一部で、既存の道の延長でもある」とされ、白線内なら実際に車を停めることもできる。

アスファルト・スポット
住所/新潟県十日町市寅3丁目358
期間/~2023年11月5日まで(祝日を除く火水定休)

ドミニク・ペロー「バタフライパビリオン」

image
Photo Kobayashi Sou

フランス国立図書館やベルリンのオリンピック自転車競技場とオリンピック・プール、日本では大阪富国生命ビルなどの設計で知られるフランスを代表する建築家の一人、ドミニク・ペローによる、2006年に竣工したあずまやのような建築。ペローは能や狂言の舞台にもなるものをと提案したといい、実際に柿落としの際には能舞台として使われた。蝶の翅や万華鏡をイメージした屋根は里山の風景を映し出す鏡張り。雪深い土地であることを考慮し、冬場は屋根を垂直に畳むことができるようになっている。

バタフライパビリオン
住所/新潟県十日町市下条四丁目1276番地(神明水辺公園)
期間/~2023年11月5日まで(祝日を除く火水定休)

マ・ヤンソン / MADアーキテクツ「Tunnel of Light」

image
Photo Nakamura Osamu

日本三大峡谷のひとつであり、越後妻有を代表する名所として知られる清津峡渓谷トンネル。2018年の「大地の芸術祭」に合わせ、このトンネルを外界から遮断された潜水艦に見立てた「Tunnel of Light」として改修したのが、2025年にLAにオープン予定のジョージ・ルーカスの美術館でも話題の、マ・ヤンソン率いるMADアーキテクツだ。彼らはその後、ここにカフェと足湯を併設するエントランス施設なども新設。終点の「ライトケーブ(光の洞窟)」では清津峡の景観を反転して映す「水盤鏡」の幻想的な眺めも楽しめる。

Tunnel of Light
住所/新潟県十日町市小出癸2119-2(清津峡渓谷トンネル)
期間/通年公開(冬季は積雪状況により休坑)
時間/8:30~17:00(~2023年11月30日まで、最終受付16:30)、9:00~16:00(2023年12月1日~2024年2月28日まで、最終受付15:30)

ADの後に記事が続きます

原広司+アトリエ・ファイ建築研究所「越後妻有里山現代美術館MonET」

image
Photo Kioku Keizo

十日町駅から徒歩圏内にある、「大地の芸術祭の里」の拠点が「越後妻有里山現代美術館MonET」。42メートル四方の池を回廊が囲む形で作られたコンクリート打ち放しの建物は、2003年に「越後妻有交流館・キナーレ」として誕生、2012年には「越後妻有里山現代美術館[キナーレ]」として生まれ変わった。京都駅ビルや札幌ドームなどの設計で知られる原広司は、豊かな自然に恵まれた越後妻有を象徴する施設だからこそ、この建築の中に“自然として”池を取り込んだのだという。

2021年には改修を行い、常設作品を半分以上入れ替えて「越後妻有里山現代美術館MonET」として再リニューアル。2023年度は現在開催中の「マテリアルショップカタルシスの岸辺 十日町店 &『死蔵データグランプリ2022-2023』記録展」(~8月27日)には始まり、4つの連続企画展を開催するので、こちらにも注目したい。

越後妻有里山現代美術館MonET
住所/新潟県十日町市本町6-1,71-2
期間/通年公開(祝日を除く火水定休)
時間/10:00~17:00(最終入館16:30)

手塚貴晴+手塚由比「越後松之山『森の学校』キョロロ 」

image
Photo Nakamura Osamu

松之山エリアの山中に位置する“雪里”、松之山の魅力を、生物の多様性に関連した展示やプログラムを存分に学べる教育研修施設。周辺の散策路をイメージした全長120mものチューブ状の建物には、冬場に降り積もった雪による1000kg/㎡の圧力に耐え得るよう、耐候性鋼板のコールテン鋼が使用されている。表面温度は夏と冬で80℃近く差があるため、夏と冬で建物の長さも20cm近く変わるのだそう。暑い日には熱で膨張した鋼板が大きな音を響かせることも!

越後松之山「森の学校」キョロロ
住所/新潟県十日町市松之山松口1712-2
期間/通年公開、火定休(祝日の場合は翌平日休館)※12~2月末は火水定休展示替え、休館:2023/7/10-14, 10/11-13、2024/3/11-13
時間/9:00~17:00(3~11月まで、最終入館16:30)、9:00~16:00(12~2月まで、最終入館15:30)

おおたか静流・田島征三展覧会「シズリン!いつまでもここにいてね -Ohtaka Sizzle with Ehon to Kinomi-」

 
Echigo-Tsumari

クラシック、ジャズ、民族音楽などジャンルを超えた音楽活動を展開、2022年に永眠したおおたか静流。彼女は2009年の「大地の芸術祭」で誕生した、旧真田小学校の木造校舎をまるごと使った”空間絵本”である「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」の宣伝部長を自ら名乗り、盛り上げ続けていた。

この夏は「シズリン!いつまでもここにいてね -Ohtaka Sizzle with Ehon to Kinomi-」と題し、おおたか静流の軌跡とともに田島征三の作品を展示。また、8月20日(日)にはおおたか静流とのコラボレーション歴もある、サックス/クラリネット奏者の梅津和時率いるユニット、こまっちゃクレズマのライヴも開催される。

おおたか静流・田島征三展覧会「シズリン!いつまでもここにいてね -Ohtaka Sizzle with Ehon to Kinomi-」
住所/新潟県十日町市真田甲2310-1(鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館)
期間/~2023年11月5日まで(祝日を除く火水定休)
時間/10:00~17:00(10、11月は16:00まで/最終入館30分前)

ADの後に記事が続きます

松本秋則「竹音琴(ちくおんきん)」を作ろう

 
Echigo-Tsumari

竹などの素材を使ったサウンドオブジェを1980年代より制作し続けている造形作家、松本秋則。2014年3月に閉校した奴奈川小学校を改装、地域の価値を実践的に学ぶ学校としてリニューアルした奴奈川キャンパスではこの夏、4日間にわたって、松本が監修する吊るした竹片が不思議に動きながら音色を奏でるオリジナル楽器「竹音琴」を制作するワークショップを開催する。当日は楽器を作って持ち帰ることができるほか、松本が制作した多彩なオリジナル楽器を演奏することもできるのでお楽しみに。

松本秋則「竹音琴(ちくおんきん)」を作ろう ※ワークショップ
住所/新潟県十日町市室野576(奴奈川キャンパス)
開催日時/8/12(土)、13(日)、19(土)13:00-15:00 ※要予約

こちらもチェック!

image
Elle Decor

【2023年下半期】全国の展覧会・芸術祭・アートイベントまとめ

アート

a sculpture of a rock

「叢」と陶芸家の吉田直嗣による展覧会がスタート

tokyo gendai

世界のアートギャラリーが集結する「Tokyo Gendai」が7月5日から開催

台場公園(第三台場)

お台場で初の国際芸術祭「東京お台場トリエンナーレ 2025」開催決定

a gold framed picture

「切り刻まれたバンクシー」やカウズをたっぷり堪能できる「MUCA展」へ

ADの後に記事が続きます
ADの後に記事が続きます